婚姻とは、社会的に承認された、多少とも継続的な男女の性的結合であり、一般には特定の規範に基づく同棲(どうせい)関係と経済的協力を伴う社会制度である。婚姻に対応する外国語が示すように「結婚」ということばとほぼ同じであるが、日本では法律用語として、また人類学などの学術用語として「婚姻」が用いられてきた。結婚は、たとえば恋愛結婚ということばのように男女が夫婦関係に入る行為、または結婚生活そのものをさすことばとして日常的に用いられている。結婚は当事者にかかわる個人的行為であるが、その過程では社会制度としての婚姻規制に拘束される。どの範囲の人々とは結婚が許されないか(外婚)、どの範囲の人々と結婚するべきか(内婚)、結婚に際してはどのような手続や儀礼が必要かなどは、慣習的に定まった婚姻規制の例であり、いかなる社会の結婚もこれらの規制を無視することはできない。
婚姻は当事者の人生にかかわる一身上の問題であると同時に、社会的にも多くの重要な意味をもっている。第一に婚姻は、当事者の男女に対して「夫」「妻」という地位の社会的承認を与えるとともに、それぞれに対して規範に基づく権利義務を認める。これらの地位は多くの社会において「一人前の大人」としての資格に結び付いているので、婚姻は地位付与の機能をもつともいわれる。第二に婚姻は、当事者の性関係に特別な承認を与えるかわりに婚外の性関係を制限し、この統制を通じて社会の基本的構成単位である家族の存立と社会そのものの安定に寄与する。第三に婚姻は、夫婦の間に生まれた子に対し嫡出子としての資格を与えるとともに、それに対応する権利義務を認める。婚姻関係をもたない男女の間に生まれた子は父親のない子とみなされ、社会的にも家庭的にも権利義務のうえで嫡出子とは差別されることが多い。つまり、婚姻は「社会的な父」の承認という面で重要な機能をもっている。第四に婚姻は、その社会に特有の親族組織に個人を組み込むことによって組織の強化と制度の維持に寄与するとともに、婚姻関係の拡大を通じて社会それ自体の拡大をもたらす働きをしている。
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明治時代以降の日本の結婚状況は、第二次世界大戦前までのイエ制度のもとでの結婚、大戦後から経済の高度成長期までの結婚、オイル・ショック以降の結婚、の三つの時期に分けることができる。
第二次世界大戦前までは、イエ制度のもとで、結婚は家どうしのつながりという側面が強く、親の取決めによる結婚が一般的だった。小規模な農業など自営業を中心とする社会では、女性は、結婚し夫の家に嫁入りしなければ生活していけなかった。また自営業では、女性(嫁)は労働力、子供を産む存在として期待された。いわば、男女とも生存のための結婚という側面が強かった。
第二次世界大戦後、民法が改正され、結婚は両性の自由な意志に基づくものとされた。また、産業構造が変化し、男性は、企業や官庁に就職してサラリーマンとなる人が多くなり、家業の後継ぎとしての立場から解放された。恋愛結婚が普及し、結婚は好きな人といっしょに生活することという意識が普及した。経済の高度成長期には、男女とも自分で選んだ相手と結婚し、夫はサラリーマン、妻は専業主婦となって、子供を育てながら豊かな生活を目ざすという夢をみることができ、それが現実のものとなったのである。実際、データをみてみると、第二次世界大戦後から1970年(昭和45)ごろまで日本の結婚状況は、平均初婚年齢が男性27歳、女性24.5歳前後で安定し、皆婚状態といわれ、生涯未婚率(50歳時点での未婚率)は、男性1%台、女性1~3%で推移していた。
しかし、1973年のオイル・ショックをきっかけにした経済の低成長時代に入るとともに、様相が異なってくる。1970年に男性26.8歳、女性24.2歳だった平均初婚年齢は、2010年(平成22)には男性30.5歳、女性28.8歳にまで上昇する。30~34歳の未婚率も、1970年に男性11.7%、女性7.2%だったのが、2010年には男性47.3%、女性34.5%にまで増えている。また、女性の25~29歳の未婚率も1970年18.1%、1980年24.1%、1990年(平成2)40.2%となり、2010年には6割を越す(60.3%)。生涯未婚率においても、1990年男性5.57%、女性4.33%に比べ、2010年男性20.1%、女性10.6%と上昇している。つまり、結婚を遅らせ、結婚をしない傾向が強まっている。
このように、未婚、晩婚化傾向が生じた理由を、いくつか指摘してみよう。
(1)結婚意識の多様化 まず、社会が豊かになり、女性が職業をもつことが一般的となり、家事の省力化・外部化が進んだことにより、結婚しなくても生活できる条件が整ったことがあげられる。「結婚は個人の自由であるから結婚してもしなくてもよい」という意見に賛成の人は、70%を超えている(総理府1997年調査)。結婚は「個人の選択の問題である」という意識が普及したのである。
(2)恋愛意識の変化 結婚と恋愛の関係意識も変化した。1970年ごろまでは、「恋愛したら結婚しなくては」という意識が強かった。しかし、先の調査では、「結婚と恋愛は別」と回答する未婚者が過半数を超えている。つまり、結婚と恋愛の分離が進んで、お互いに好きな人がいても、結婚せずに、性関係を含んだ恋愛関係を楽しむ人が多くなったのである。
(3)経済的条件の変化 結婚が個人の選択の問題となると、「理想的な結婚」ならするが、「理想的でない結婚」ならしないでおくという意識が強まる。理想的な条件の一つが、経済的豊かさであることは今も昔も変わりはない。
オイル・ショック後、経済成長が鈍った結果、結婚によって豊かさを実現するという夢の実現可能性が徐々に低下してきた。現代の若者は豊かに育っている。また、「パラサイト(寄生)・シングル」とよばれるように、大多数の成人未婚者(男女とも8割程度)は、親と同居し、豊かな生活を送っている。結婚し、親の家を出て独立すると、生活が苦しくなる状況が生じたのである。つまり、若い男性の給料では、妻子を養いながら、豊かな生活を目ざすことがむずかしくなっている。といって、欧米のように、共働きをするなどで育児を夫婦で分担する条件が社会的に整っていない。そのため、親と同居して豊かな生活を送りながら条件のよい結婚を待ち続ける女性、経済力が低いため結婚難にみまわれる男性が増えるのである。2010年の国立社会保障・人口問題研究所の調査では、約90%の未婚者が「いずれは結婚したい」という意識をもちながら、そのうちの半数程度が「適当な相手にめぐり会わない」ことを結婚していない理由にあげているのも、理想とする結婚生活水準が高くなった結果である。
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1898年(明治31)の民法は、ヨーロッパの制度に倣い、当事者の合意を基礎とする一夫一婦制をとり、いちおう近代的な婚姻制度を発足させた。しかし、この民法は同時に、封建時代に主として武士階級で行われていたいわゆる「家」制度を温存したため、婚姻もその制約を受け、完全に自由な合意に基づく、両性間に平等な婚姻ではなかった。たとえば、婚姻については両家の戸主の同意が必要とされ、戸主や法定の推定家督相続人は他家に入る婚姻ができない(長男とひとり娘とは結婚できない)などの制約があり、夫婦間の財産関係では、妻は夫の同意なしでは法律行為ができず、夫は妻の財産の管理権・収益権を有するなどの不平等が存在した。しかし、第二次世界大戦後に制定された新憲法は、婚姻が「両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本」とすることを定め、民法も「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」に立脚して改正されるよう要求した(憲法24条)。1947年(昭和22)、この精神にのっとって民法が改正された結果、いわゆる家制度は廃止され、家制度による制約はまったくなくなり、また、夫婦間の平等も基本的には認められたといえる。
20世紀後半、家族法の領域では、男女両性の平等の徹底化、嫡出でない子の差別の撤廃、弱者の権利の保障に関する立法が世界の大きな潮流であった。日本もそれらの国々と同じような社会状況にあり、また、こうした流れに沿って現状の変革を求める声がないわけではなかったにもかかわらず、事態はなかなか進展しなかった。そのようななかで1996年(平成8)2月、法制審議会民法部会によって、ようやく民法改正法律案要綱が出される運びとなった。しかし、国会内部に改正案(とくに選択的夫婦別姓制度)に対して、家族の一体感を害し、家庭を崩壊させるといった強い反対の意見があり、2021年(令和3)1月現在、まだ国会に上程されていない。このことは、第二次世界大戦後払拭(ふっしょく)されたはずの「家」意識が古い世代の国会議員を中心としてまだ根強く残っているということと、一般の国民の側にもそれを押し返すほどの議論の熟成がまだないということを示すものだといっていいであろう。
以下では現行民法の規定を示しつつ、改正法律案要綱のうち、婚姻の実質的要件に関する事項と、夫婦の氏(うじ)(姓)の問題および夫婦間の財産関係に関する問題を取り上げる(ほかに改正法律案要綱には、裁判上の離婚原因に5年以上の別居を加える、相続の非嫡出子差別廃止などの重要な改正案も含まれる)。
多くの国では、カップルの結合が法的に正当な婚姻と認められるためには、なんらかの形式を踏むことが必要であるとされている(法律婚主義)。日本でも、婚姻は戸籍法上の届出によって法律上の効力を生じる(民法739条)ことになっている。この届出をしない限り、たとえ結婚式をあげ、社会的には夫婦と認められても、法律的にはいわゆる内縁であって夫婦ではない。このように届出という形式が要求されるのは、婚姻が後述の実質的要件に違反していないかどうかを確かめる(違反していれば届出は受理されない)ためと、婚姻の成立を公に示すためである。しかし、1915年(大正4)に、内縁関係の不当な破棄者は損害賠償義務を負うとする判決が出されて以来、届出をしていないために法律上は夫婦ではないが、実質的には法律上の夫婦とまったく変わらない場合(事実婚)は、なるべく法律上の夫婦と同様に取り扱おうという方向に向かっている。
婚姻届が受理されるためには、次の諸要件が満たされなければならない。
(1)2022年3月31日までは、男は満18歳、女は満16歳以上であることが要件とされている(民法731条)。肉体的、精神的に十分に成熟しない男女の婚姻を禁止する趣旨である。しかし、社会的には、婚姻年齢に男女差を設ける合理的根拠に乏しく、また、平等の理念からも差を設けるべきではないとの意見が多く、2018年(平成30)6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする改正法が成立し、女性の婚姻年齢を18歳に引き上げ(民法新731条)、男女の婚姻開始年齢を統一した。なお、この民法改正は、その周知を徹底するために、施行までに3年程度の周知期間を設けたあと、2022年4月1日から施行される。
(2)重婚でないこと(同法732条)。すでに配偶者のある者は、重ねて婚姻することができない。もっとも、重婚となるような婚姻届は受理されないから、実際には離婚後再婚したところ離婚が無効であったというような、きわめてまれな場合にしか生じない。なお、重婚になるのは、法律上の婚姻が二つ重なる場合で、婚姻と内縁関係が重なっても、ここでいう重婚にはならない。悪意で重婚をした者は、刑法上重婚罪に問われる。
(3)再婚の場合に、男にはその制限がないが、女は前婚の解消または取消しの日から起算して100日間経過しなければならない(同法733条1項)。この期間を再婚禁止期間(待婚期間または寡居期間)という。この制度は、再婚後に生まれた子が前夫の子なのか後夫の子なのか、わからなくなることがあるのを防ぐ趣旨である。したがって、女が前婚の解消または取消しの時に懐胎していなかった場合、および、女が前夫の子を生んでしまえば、100日以内でも再婚可能である(同法733条2項)。詳しくは『再婚禁止期間』の項を参照されたい。
(4)一定の近親間の婚姻でないこと。優生学的見地から、直系血族と3親等内の傍系血族(兄弟姉妹間、おじ・おばとおい・めいの間)は婚姻できない(同法734条)。また道義的見地から、しゅうとと嫁、継母(ままはは)と継子のような直系姻族の間、またはかつて直系姻族であった者の間では婚姻できないし、また、養子、その配偶者、直系卑属またはその配偶者と養親またはその直系尊属との間、かつてその関係にあった者の間では婚姻は許されない(同法735条・736条)。しかし、養子と実子、養子同士の婚姻は許される。
(5)2022年3月31日までは、未成年者の場合は、その父母の同意が要件とされている(同法737条)。しかし、2018年の民法改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたのにあわせて、女性の婚姻年齢は18歳に引き上げられ(同法新731条)、男女の婚姻開始年齢が統一された。これに伴い、未成年者の婚姻はなくなるため、父母の同意を要件とする民法737条も、同改正法が施行される2022年4月1日以降は削除される。
(6)男女両当事者間に婚姻する意思の合致があること。
本人の知らない間に他人がかってに婚姻届を出したとか、たとえば外国人の不正就労を目的とした偽装結婚のように、婚姻届は本人が出したが、それはまったくなんらかの方便のためであって、ほんとうに夫婦関係を結ぶつもりはなかった場合などには、婚姻の意思がなかったものとして、婚姻は当然に無効である。無効であることは、当事者だけでなく、だれでも主張でき、かつ裁判所に無効の宣言をしてもらわなくても主張できると解されている。しかし、戸籍の訂正をするためには、判決または家庭裁判所の審判が必要である。前述の実質的要件((6)を除く)を欠く婚姻届も、戸籍吏が誤って受理すれば有効になる。しかし、(1)から(4)までの要件のどれかを満たさない婚姻は、一定の者が裁判所に請求すれば取り消せる(そのほか、詐欺・強迫によって婚姻した者も同様)。婚姻が取り消されると、婚姻は効力を失うわけだが、一般の取消しの場合と違って、始めから婚姻が不成立であったとするのではなく、取消しのとき以後効力を失うだけである。その点では離婚に似ているので、事後処理も離婚に準じて行われる。
夫婦間の関係は「夫婦が同等の権利を有することを基本として」(憲法24条)規律されている。婚姻が成立すると、次のような効力を生じる。
(1)夫婦は同じ氏(うじ)(姓)を名のる(民法750条)。それは、夫婦が一体であることを示すためであるといわれている。氏は、夫婦のどちらかが婚姻前に名のっていた氏に限られる。どちらにするかは婚姻の際に当事者が相談して決め、この旨を婚姻届に記載しなければならない。婚姻届が受理されると、新しい夫婦のために新戸籍が編製されるが、その際には、氏を改めなかった者を戸籍筆頭者として前へ、氏を改めたほうをその次に記載する。この制度に対しては、改正を求める声がもっとも強い。夫婦のどちらか一方が強制的に姓の変更を迫られることになるのは、人格権の侵害ともいえるが、なによりも、同姓の強制は、実際上、男女間に不平等を生むことに問題があるといわれてきた。というのは、夫婦どちらの姓を名のるかは当事者の自由だとされているものの、事実上は、妻となる者が夫となる者の姓に変わる場合が圧倒的に多く、姓が変わることによる不利益は一方的に女性に科されてきたからである。このことから、とくに職業をもつ女性を中心として、夫婦別姓を認めるべきだとの声が強まったのである。改正法律案要綱(1996)は、この問題について、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若(も)しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする」として、同姓にするか別姓にするかを当事者の選択に任せるいわゆる選択的夫婦別姓の制度を提言した。これに対して保守系の国会議員から別姓は夫婦の一体感を損ねるという強い反対意見が出て、法律案の上程に至っていない。他方、選択的別姓の採用を推進する運動も依然根強く、この問題の決着は今後の推移に委ねられている。
(2)夫婦は互いに貞操を守る義務がある。その違反である不貞行為は裁判上の離婚原因となる。
(3)夫婦は同居する義務を負う(同法752条)。同居する場所は夫婦が共同で決める。理由なしに一方が同居を拒めば、他方は裁判所に同居を求める裁判をしてもらうことができるが、それにも応じない場合に同居を強制する手段はない。しかし、そのような場合には、「悪意の遺棄」として離婚原因になる。
(4)夫婦は互いに協力・扶助の義務を負う(同法752条)。協力・扶助とは、精神的、経済的に協力して円満な共同生活をすることである。経済的には、単に生活に困っている親族を助ける親族間の扶養義務以上に、自分と同程度の生活をさせる義務を負うものとされている。
(5)2022年3月31日までは、未成年者は、婚姻すると私法上は成年に達したものとみなされる(婚姻による成年擬制。同法753条)。しかし、2018年の民法改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられるとともに、女性の婚姻年齢は18歳に引き上げられ(同法新731条)、男女の婚姻開始年齢が統一された。これに伴い、未成年者の婚姻はなくなるため、成年擬制を定めた民法第753条も、同改正法が施行される2022年4月1日以降は削除される。
(6)夫婦間で結ばれた契約は、婚姻中はいつでも取り消せる(同法754条)。この規定が設けられた理由はいろいろあげられるが、どれもあまり根拠のあるものではないので、判例はできるだけこの規定の適用を制限しようとしている。改正法律案要綱(1996)は、夫婦の間で結ばれた契約の取消権に関する第754条の廃止を提言している。もともと合理性のない規定と考えられていたので、廃止に反対する声はない。
(7)夫婦間の財産関係では、財産の帰属、共同生活の費用の負担、管理・収益の権能などが問題になる。民法では、夫婦が婚姻前に自分たちの財産関係を規律するための特別の契約(夫婦財産契約)をしておけば、それに従い(同法755条~759条)、この契約がない場合に、民法の規定(760条~762条)に従う(法定財産制)ことになっているが、日本では夫婦財産契約が結ばれることはきわめてまれなので、ほとんどすべての夫婦は法定財産制の規律に従うことになる。日本の法定財産制においては、夫婦がおのおの自分で得た財産は完全に自分のものであり、夫が妻の財産のうえに管理・収益の権能をもつことはない。夫婦のそれぞれの債務も、日常の家事に関連する取引によるもの以外は、完全にそれぞれに分離される。また、夫婦生活に必要な費用も、夫婦のそれぞれの資産・収入その他いっさいの事情を考慮して、分担することになっている。規定がきわめて簡単なので、実際面では困難な問題が生じることが多い。
改正法律案要綱(1996)は、離婚に際しての財産分与に考慮すべき要素と分配割合の基準を定めることを提言している。考慮すべき要素としては、財産の額、その取得または維持についての寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力および扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業および収入、その他いっさいの事情があげられている。そして、各当事者の寄与の程度(したがって分配割合)は、それが異なることが明らかでないときは、平等であるとしたことが注目される。
(8)そのほか、婚姻によって配偶者の血族との間に姻族関係を生じること(民法725条)、夫婦間に生まれた子は嫡出子となること(同法772条)、夫婦の一方が死亡すれば生存配偶者に相続権が発生すること(同法890条)などである。
婚姻は夫婦の一方の死亡(失踪(しっそう)宣告を受けたときも死亡に準ずる)と離婚によって解消する。夫婦の一方が死亡すれば、当然に婚姻は解消し、生存配偶者は独身者となり、夫婦としての権利義務もなくなる。しかし、死んだ配偶者の血族との間の姻族関係は当然には消滅せず、これを切りたければ、生存配偶者が姻族関係終了の届けを市区町村長に提出すればよい(民法728条2項)。この届けは、生存配偶者の側からだけでき、死亡した配偶者の血族の側からはできない。次に、生存配偶者が婚姻によって氏を改めた者である場合に、婚姻前の氏に戻りたければ、同様に復氏届を出すことによってもとの氏に戻ることができる(同法751条)。注意すべきことは、姻族関係の終了と復氏とは別個の問題であって、姻族関係をそのままにしておいて復氏することも、氏はそのままにしておいて姻族関係を消滅させることもできることである。両方実現したければそれぞれの届出が必要である。離婚による解消の場合には、特別な届出なしに当然に姻族関係は消滅するし、また婚姻によって氏を改めた者は当然にもとの氏に戻る。ただし、離婚しても氏を変えたくない場合には、離婚の日から3か月以内に届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる(同法767条)。
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