夫婦・親子を中心とする近親者によって構成され、成員相互の感情的絆(きずな)に基づいて日常生活を共同に営む小集団。一般に人々はその生涯に2種類の家族とかかわる。一つは自分が子供として生まれ育った家族、すなわち定位家族family of orientationであり、他の一つは自分が結婚して新しくつくる家族、すなわち生殖家族family of procreationである。家族に類似する日常用語に家(いえ)、世帯、家庭などがある。家は、イエの創設、家系、分家などのことばに示されるように、「系譜」に基づいて理念的に考えられた抽象的なイメージであり、現実の具体的な集団としての家族とは異なる。次に世帯は、住居を単位としてつくられた概念であり、国勢調査などの統計調査で用いられている。世帯員はだいたいにおいて同一家族とみなしてよいが、世帯員のなかには同居人、使用人などの他人が含まれる場合もあるし、一方、就学・就職などのために他出している家族成員は別の世帯に含まれるので、かならずしも現実の家族と一致しない場合がある。次に家庭は、生活の場を表すことばであるが、家族を意味する用語として日常的に用いられている。
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第二次世界大戦後の日本の家族は、核家族、直系家族、単独世帯がその主要な部分となっている。第二次世界大戦前では長男がその妻子とともに親と同居して扶養・介護にあたるという直系家族が、家の観念や「家」制度に支えられて理想の姿と思われていたが、第二次世界大戦後になって家の観念が希薄化し、「家」制度を支えた法的規制がなくなるとともに、夫婦本位の核家族の観念が優勢となり、法の統制もまた核家族をモデルとするものに変わった。その後、都市化・産業化の進展とともに核家族は増加し、代表的な類型となっていった。しかしその後、高齢化が進むなかで3世代同居の直系家族も一定の割合を占めていたので、核家族との競合的並存という点に特色が認められた。とはいえ、高度経済成長以降、農村部においても世帯分離は活発化し、3世代同居の直系家族の割合が急速に減少し始めたことも事実である。
なお今日の直系家族は、もはや以前のように家イデオロギーに支えられたものでなく、その意味において任意的直系家族あるいは合意的3世代家族とよぶこともできる。老親との同居の慣行をもたない欧米の家族では、日本のような、それなりに相当な割合の直系家族は存在しない。核家族率の増加に伴い、世帯人員は減少し、5人、6人といった多人数世帯はかなり減少し、2人の世帯が増加しつつある。老親との別居あるいは分居、少産による子供数の減少、就学・就職などによる他出家族成員の増加、離婚などによる単身世帯の増加などが世帯規模の縮小に寄与しているとみられる。
配偶者の選択の面で日本の現代家族にみられる特徴は、従来高い割合を占めていた見合い結婚が1965年(昭和40)ごろから恋愛結婚を下回ることになった事実である。見合い結婚は、若い男女の自由な交際になんらかの形で制限を加える社会にみられる配偶者選択の一形態であり、日本の場合では「家」制度と儒教倫理の制約のもとに行われてきた慣行である。それがしだいに廃れて欧米なみの、デートを伴う恋愛結婚に移行してきている。と同時に、今日では容易に恋愛結婚に結び付かない場合には、新たに結婚相談サービス機関のサポートを活用する見合い結婚も登場してきている。
配偶者選択の変化に対応するのが夫婦本位の核家族の増加である。しかし欧米の家族のように完全な形の夫婦本位というわけでなく、根本的には伝統的な日本家族の特質をあわせもっているのが注目される。たとえば日本の家族の中核をなすのは夫婦よりもむしろ親子である。夫婦相互の呼び名も子供中心につくりあげられており、子供の教育をはじめ、家族のなかに占める子供の意義は大きい。また、変容してきたとはいえ、伝統的な性別役割分業はいまだ支配的であり、「男は外回り女は内回り」という観念はなかなか根強い。その結果、家事・育児は妻の責任とみる傾向が強く、この点で欧米の家族と大きく異なっている。しかしキャリアを追求する女性たちも増えてきており、共働きの家族も徐々に増え、保育サービスの拡充などへの期待は、ますます強くなってきている。
ところで、西欧の家族と比較するとき、日本の家族でとくに注目されるのは老親との同居による3世代家族である。形態のうえでは伝統的な直系家族に類似しているが、今日の3世代家族の多くはもはや「家」制度的・直系家族的なイデオロギーに支配されることなく、世代間に適当な距離を置きながら、それぞれの生活の自立性を保ち、そのうえでの相互扶助と家族としての愛情を追求する生活共同体である。したがって、たとえば嫁と姑(しゅうとめ)との不和に代表されるような往年の同居世帯とは質的に異なっており、その意味で「修正直系家族」あるいは「任意的直系家族」とよばれることもある。
白人の中流家庭をモデルとして考えてみると、アメリカの家族は開拓当時より一貫して核家族であったといわれる。日本の現代家族を親子本位とするなら、アメリカの現代家族は夫婦本位であり、夫婦単位の社交、友人の共有、夫の仕事に対する妻の援助などの特色がみられる。家族内における親子間の世代的区別は大きく、同じ家族成員でも大人と子供の世界は明確に隔てられているので、日本のように家族ぐるみでという機会はそれほど多くない。夫婦本位のアメリカの家族では、子供はいずれ巣立っていく存在であり、実際、20歳前後になれば親元を離れて自立していく子供も少なくない。アメリカの家族が気軽に子供の養子を受け入れるのは、このような親子関係に基づくところが大きい。
家事・育児は夫婦に共通する役割と考えられており、子供のしつけについては、独立心を養い、自立に必要な技能を身につけさせることを目標としている。日本のように情緒的に依存させるという方法とは異なって、あらかじめルールを設定し、ルール違反に対しては相応の罰を与えるという方法がとられる。子供とはいえ年齢相応の家事分担もあり、自立を目ざす社会化の一つとなっている。配偶者の選択はすべて恋愛に基づくデートを通して行われる。インターネットのような今日的な結婚相手紹介サービスを活用する・しないにかかわらず、日本のような見合いの制度はない。デートは単なる若者の風習というよりは、家族形成にかかわるアメリカ文化の一部である。したがってデートのために帰宅時間が遅くなっても、社会はもとより、親も子供をそれほど強くとがめるようなことはない。
夫婦の結び付きの基礎は愛情であるが、いわゆる愛情べったりではなく、互いに異なった個性をもつ個人が、それぞれの主張や行動を相手に投げかけあう緊張のなかに夫婦でいることの喜びと意義をみいだしている。この意味で、アメリカの夫婦はよきライバルであり、夫婦生活はそれぞれの個性を発展させる場であるともいえる。子供がすべて成人して巣立ったあと、老夫婦は子供と別居して暮らすことになる。日本のように成人した子供が老親と同居するという慣行はない。しかし、別居といってもできるだけ近くに住む例も多い。さらにクリスマスや感謝祭などには遠方に住む子供たちも親元へ戻ってくる。一般に老親と成人した子供の結び付きはきわめて強い。
アメリカ家族に離婚が多くみられることから、アメリカ家族の崩壊を懸念する向きもあるが、再婚も離婚に劣らず多くみられるので、一概に家族崩壊とみることはできない。反対に家族生活に高い価値を置いているので、よりよい結婚を求めるあまり離婚者が多いとみることもできる。しかしスウェーデンなどと並んで世界的に高い離婚率は、やはり家族生活に大きな影響を与えている。父子家庭・母子家庭の増加、連れ子とともに再婚することによる複雑な親子関係、再婚生活のモデルが少ないことによる再婚生活の不安定性などがそれである。
伝統的な中国家族の理想型は合同家族である。合同家族とは、成人した子供(男子)が結婚後もその妻子とともにすべて親の家にとどまって生活する家族類型をいう。かつての日本の直系家族のように長男のみが単独に相続する場合とは異なって、女子を含むすべての子供が親の財産を均等に相続し、とりわけ男子は結婚後も親の家にとどまって大きな家族をつくることが理想とされた。しかし実際には合同家族においても父親の死後、それぞれの子供夫婦が核家族単位に分裂するのが普通であった。このような事情から、中国家族の主要な部分はかなり以前から核家族であった。
中国の家族は、家族の上位集団をなす宗族(そうぞく)の一部とみることもできる。宗族は同じ出自集団とみなされる同姓集団であって、同姓の家族は原則として同じ祖先をもち、同じ宗族の一員と考えられている。そして現実には、同じ地域に住む同姓の家族が宗族としての結合意識をもち、祖先祭祀(さいし)や相互扶助などを行っている。宗族の範囲を絶えず確認する目的で一族のすべての名前や略歴を記載した族譜がある。族譜に記載された範囲が同一宗族の成員であり、成員としての権利・義務を共有する。族譜を管理し、絶えず更新するのは宗族の役割の一つである。
中国の家族の重要な機能の一つは祖先の祭祀であり、宗族所管の祀堂において宗族のレベルでの祭祀をする。代々にわたって祭祀を営んでいくために、どの家も跡取りとしての男子が必要とされる。養子を迎える場合にはかならず血縁者でなければならない。宗族はまた外婚の単位であり、同姓の者同士は結婚することができない。個人は家族の一員であると同時に宗族のメンバーでもあるので、宗族を表す姓を生涯にわたって保持していかなければならない。妻が結婚後も夫方の姓を名のることなく、生涯にわたって自己の出自の姓を保持するのは、家族への所属よりも宗族への所属を重視することの表れである。夫婦の間に生まれた子供は父系制に従って父親の姓を名のることになる。親孝行に代表される儒教倫理は家族生活を根強く支配しており、伝統的な中国家族では家父長的な色彩が強かった。年老いた親を扶養するのはすべての子供の責務であり、老後のために子供をもつことはどの家族にとっても大きな関心事であった。ただし今日の中国では、結婚後妻が夫方の姓を名のることは選択の問題とされ、自由裁量に任されるようになってきている。
20世紀の後半になって、旧来の家族の観念を大きく変えるような変化が世界的にみられるようになった。第一はシングルズsinglesとよばれる独身主義者の増加である。独身主義者といっても結婚否定論者ではなく、いわゆる適齢期や制度的な結婚を認めない人々をいう。この延長線上にみられるのが第二の無登録夫婦家族の増加である。スウェーデンでは1970年ごろから結婚登録をしないで同棲(どうせい)する男女が増加し、スウェーデン全体の夫婦に対する比率は約10%を占めるに至ったという。さらにデンマークでも同じ傾向がみられ、1970年代後半にはこのような夫婦の占める比率は25%以上になった。その結果、非嫡出子(嫡出でない子、婚外子)の出産が急増することになった。1975年時点のスウェーデンでは出生児総数の32%、1970年代前半のアメリカ、カナダでは12%、イギリス、フランス、西ドイツではそれぞれ7%前後が非嫡出子であった。その後非嫡出子は増加し続け、2000年代初頭では、スウェーデンをはじめ北欧で60%台、アメリカやイギリスで30%台、フランスで40%台となってきている。この動向はさらに進行してきており、それに沿って第三にあげられるのは一人親家族の増加である。未婚の母に加えて、離婚の増加による父子家庭や母子家庭の増加が一人親家族の増加に影響している。以前には一人親家族が欠損家族などとよばれたこともあったが、今日では多様な家族の存在を認める風潮がしだいに一般的になってきており、一人親家族もそれ自体、一つの家族形態として市民権を獲得し、そのまま「一人親家族」とよび改められてきている。
ところで、このような家族の変化について家族崩壊とみる向きもあるが、今日では家族のあり方は唯一のものでなく、さまざまなケースの存在すること、つまり家族の多様性を認める傾向が強くなってきている。家族は弱体化したのではなくて、反対に官僚制的な組織社会、管理社会のなかで人間的な交流を可能にする唯一の小集団として、人々が家族に求める期待は依然として大きい。伝統的な家族の変化はありえても、家族そのものの崩壊は考えられない。
全体として家族の動向をみるとき、初婚年齢の上昇、それに伴う出生児の減少、核家族の増加とそれに伴う世帯員数の減少、老年人口割合の増加、働く妻の増加などを世界的な傾向として指摘できる。これらの変化と関連して注目されるのはライフ・サイクルの著明な変化である。1920年(大正9)と1980年(昭和55)の2時点の比較による日本人のライフ・サイクルの分析によれば、平均寿命が長くなったことによるライフ・サイクルの変化はきわめて大きい。まず、職業生活から引退したあとの期間や、出産・子育て後の期間が長期化している。たとえば1920年モデルにおいては、男性は退職後1年半ほどで人生を終えるのに対して、1980年モデルでは退職後も10年ほどの期間をもつことになった。また1920年モデルの女性は平均5人の子供を産み、末子を産み終える年齢がおよそ36歳であるのに対して、1980年モデルでは子供の数が平均2人と少なくなり、末子を産み終える年齢もおよそ30歳と若返った。女性が子育てに拘束される期間は大幅に短くなり、熟年とよばれる世代が出現することになった。長命時代の到来は、結婚期間の長期化、老夫婦期間の出現、女性の場合、夫と死別したあと、かなりの期間にわたる一人暮らし期間の出現をもたらした。まず結婚期間であるが、1920年モデルの約37年間から、1980年モデルの47年間へとほぼ10年長くなった。1980年モデルでは子供が早く親元を離れるため、結婚生活の最終部分は老夫婦のみの生活となるが、これも1980年代後半以降目だつ傾向である。女性の場合、夫死亡後の寡婦期間が1920年モデルと比べて約8年と2倍になった。一人暮らしの老人女性の増加は新しい女性問題として注目を浴び、長命に伴うライフ・サイクルの変化は家族に対し新しい問題を投げかけている。
高度経済成長期を経て、男女ともに高学歴化した今日の家族において、従来の夫婦のあり方は大きく変容してきている。たとえば、夫(父)は外で働き、妻(母)は内で家事育児という固定的な性別役割分業や男性中心の家庭生活の営み、あるいは結婚後夫方名字への変更による嫁役割の強要などに対して、妻たちの家庭外就労やキャリア追求をはじめ、女性たちの社会参加や男女共同参画型の家庭形成への国家的レベルでの政策転換など、さまざまな現象に現れてきている。かつてのような男性中心の家父長制家族は姿を消し、夫婦対等型家族への志向は大幅に増大してきている。こうした動向に即応できていない中高年夫婦の間では高い離婚率がみいだされ始めている。
いうまでもなく、もっとも高い離婚率を示すのは結婚後まもない若い夫婦であるが、幼い子供をもつ夫婦の離婚は、再婚率の高くない日本では父子家庭や母子家庭など今日でも多くの問題を抱えることになる。一方、今日では子育てが若い夫婦に、ことに母親ひとりに集中する傾向にあり、いきおい孤立状態のなかでの子育てとなりがちで、児童虐待など子育て期の夫婦にとって大きな問題になりつつある。加えて、今日では、高学歴化に伴って育児期を終えても長い教育期を抱え、孤立しがちな多くの親たちは、心身ともに疲れきった状態にある。多くの兄弟姉妹にもまれて育つという経験のない子供たちが抱える学校生活あるいは友人関係などの苦悩に、貧しさやひもじさを知らない飽食の時代に育った子供たちは耐えることができず、容易に非行化や問題児童化しがちであったり、不登校など引きこもりがちになりやすい。
ところで、長寿は長い間人々の願いであったが、今日ではそれは寝たきりや認知症への不安の源泉である。かつての「家」制度のもとでは、資産の蓄積は家の繁栄や子孫の繁栄のためにと意識されてきた。しかし今日では、一代でそれらが消失するにしても、多くの高齢者たちは自らの老後のための保障と考えるようになってきている。今日の長寿化は、「家」制度の崩壊とともにそれだけ老後の不安を高めている。一方、高学歴化した今日の共働きのキャリア追求型の家族にとって寝たきりあるいは認知症の高齢者を介護できる余裕は、まったくない。今日の家族にとって、老親介護は、充実した制度的サービスの存在を前提にしてのみ維持されるが、単独の家族機能として位置づけてしまえば、ほとんどの家族が即座に家族解体してしまうことは明白である。
〔1〕現行民法典の家族法
現行民法典の家族法(第4編親族・第5編相続)は、第二次世界大戦後の日本国憲法の施行に伴い、個人の尊重(憲法13条)、法の下の平等(同法14条)、両性の本質的平等(同法24条)等に立脚して、1898年(明治31)に施行された明治民法を、1947年(昭和22)に全面的に改正したものである。すなわち、現行の家族においては、明治民法が採用していた家制度に関する規定を全面的に削除し、あわせて戸籍法も全面的に改正されている。
〔2〕これまでの改正
家族法に関しては、施行以後今日まで、すでに10回の改正が行われている。すなわち、(1)1962年には、代襲相続制度の見直し、相続の限定承認・放棄の見直し、特別縁故者への分与制度の新設、危難失踪(しっそう)の期間短縮、同時死亡の推定の規定新設などが行われ、(2)1976年には婚氏続称制度の新設、(3)1980年には、配偶者の法定相続分の引上げ、寄与分制度の新設、遺留分の見直し等が行われた。これらの軽微な改正に対し、(4)1987年には特別養子制度(民法817条の2以下)が、また、(5)1999年(平成11)には成年後見制度(民法7条以下・838条以下)が創設された。(6)2004年(平成16)には、民法の現代語化に伴う表記や形式の整備が行われ、(7)2011年には、児童虐待防止法等と連動して、親権停止制度の新設(民法834条の2)をはじめとする親権関係の改正が行われた。そして、(8)2013年には、最高裁判所による非嫡出子の相続分が嫡出子の2分の1であることに対して違憲であるとの決定(平成25年9月4日最高裁判所大法廷決定、民集67巻6号1320頁)を受けて法定相続分(民法900条4号)が改正され、(9)2016年には、再婚禁止期間の一部違憲判決(平成27年12月16日最高裁判所大法廷判決、民集69巻8号2427頁)を受けて、再婚禁止期間の規定(民法733条・746条)が改正された。さらに、(10)2018年には、成年年齢を18歳に引き下げ(民法4条)、婚姻年齢を男女平等とした(民法731条)ほか、相続法の改正が行われた。この成年年齢の引下げは、1876年の太政官布告以来、約140年ぶりの改正であるとともに、相続法の改正も、高齢化社会の進展や家族関係の多様化に対応するための大きな改正であり、配偶者居住権や短期居住権の新設(民法1028条~1041条)、遺産分割や遺言制度、遺留分制度に関する見直しなどが行われている。なお、成年年齢の引下げに関する改正は、その周知を徹底するために、施行までに3年程度の周知期間を設けたあと、2022年4月1日から施行される。
〔3〕今後の課題
以上のように、家族法に関しては、大小さまざまな改正が繰り返し行われ、その内容は不断に検討されている。しかし、1996年2月に、法務省法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」の内容の多くは、いまだ実現されていない。そのおもなものは、(1)選択的夫婦別姓制度の導入、(2)財産分与において各自の寄与の程度が不明なときは等分するという「2分の1ルール」の導入、(3)離婚原因に婚姻の本質に反する5年以上の別居を導入する、などである。とりわけ、選択的夫婦別姓制度については、この要綱の公表後、反対論が展開され、政府による民法改正法案の国会提出は阻止された。その後、夫婦同氏を規定する民法第750条を違憲とする訴訟が提起されたが、最高裁判所はこれを合憲とした(平成27年12月16日最高裁判所大法廷判決、民集69巻8号2586頁。5名の反対意見が付されている)。選択的夫婦別姓制度の導入は、現在もなお議論され、今後の家族法改正の課題の一つである。
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