身体の動きに関する器官が、病気やけがで損なわれ、歩行や筆記などの日常生活動作が困難な状態にある児童のこと。また、医学的には、発生原因のいかんを問わず、四肢体幹に永続的な障害がある児童のこと。昭和初期に、東京帝国大学教授で整形外科医であった高木憲次(けんじ)(1888―1963)が提唱した名称に由来する。
肢体不自由は、以下のように分類されている。
(1)身体障害者福祉法施行規則(1950)別表第5号「身体障害者障害程度等級表」では、肢体不自由について、「上肢」「下肢」「体幹」「乳幼児以前の非進行性の脳病変による運動機能障害(上肢機能・移動機能)」の項目に分け、それぞれ重症の1級から軽症の7級まで、障害の程度により分類している。これらの等級にあてはまる者は、医師により判定されて身体障害者手帳を交付される。行政的には、本手帳の交付を受けなければ「肢体不自由児・者」とよばれない。
(2)学校教育法施行令(1953)第22条の3に規定された就学基準「肢体不自由者の障がい程度」では、(a)「肢体不自由の状態が補装具の使用によっても歩行、筆記等日常生活における基本的な動作が不可能又は困難な程度のもの」、(b)「肢体不自由の状態が前号に掲げる程度に達しないもののうち、常時の医学的観察指導を必要とする程度のもの」に分類されている。
(3)原因疾患別の分類 肢体不自由を引き起こす疾患は多種多様であるが、おおむね以下のように分けられる。
(a)脳性疾患(脳性麻痺(まひ)、水頭症、脳外傷性後遺症など)
(b)筋原性疾患(進行性筋ジストロフィー、重症筋無力症など)
(c)脊椎(せきつい)・脊髄(せきずい)疾患(脊椎側彎(そくわん)症、二分脊椎、脊髄損傷など)
(d)骨関節疾患(関節リウマチ、先天性内反足、ペルテス病、先天性股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)など)
(e)骨系統疾患(骨形成不全症、軟骨無形成症など)
(f)代謝性疾患(ビタミンD欠乏症、ムコ多糖症など)
(g)四肢の変形等(あざらし肢症、下肢切断など)
(h)弛緩(しかん)性麻痺(脊髄性小児麻痺、分娩(ぶんべん)麻痺など)
肢体不自由の原因疾患は、医学の進歩や社会状況によって変化し、その出現率も異なっている。以前は肢体不自由の原因疾患として、ポリオ、結核性骨関節疾患、先天性股関節脱臼の割合が高かったが、ワクチン・抗生物質の普及や早期発見・治療によって激減した。2016年(平成28)の厚生労働省の実態調査では、全国の肢体不自由児は3万6000人であり、身体障害児全体の52.9%となっている。
肢体不自由児に関する重要な機関のうち、療育指定保健所では、専門医による定期的な療育相談および指導により、障害の早期発見、早期治療が行われるよう指導されており、児童相談所では、医師、心理判定員などの専門家が判定を行い、施設への入所措置や紹介などが行われている。また、福祉事務所では、補装具の交付、日常生活用具の給付に関する相談および申請などを受け付けているほか、市区町村では、重度の障害者に対しては特別児童扶養手当、障害児福祉手当、児童育成手当など、各種手当の支給などが行われている。
児童福祉法改正(2012)により、肢体不自由児の福祉サービスは、「児童発達支援(福祉型児童発達支援センター・児童発達支援事業)」と「医療型児童発達支援(医療型児童発達支援センター・指定医療機関)」とし、障害種別を問わず多様な障害の子どもに対応できるようになった。また、通所支援に、「放課後等デイサービス」と「保育所等訪問支援」を新たに設け、前者では放課後や夏休み等における学童期の子どもに生活能力向上のための訓練などを提供し、後者では保育園や幼稚園における集団生活での専門的な支援を実施して幼児期の子どもに対応することになった。さらにその後、外出が著しく困難な重度の障害児に対して、「居宅訪問型児童発達支援」が新設された。なお、通所支援については、実施主体は市町村となっている。
他方、施設入所支援については、同様に障害種別による区分をなくし「福祉型障害児入所施設」「医療型障害児入所施設・指定医療機関」とし、障害の重複化に対応できるようになっている。施設入所については、より専門的な対応の必要性から都道府県が実施主体となっている。
肢体不自由児を含む障害児が対象となる居宅での支援には、居宅介護(入浴、排泄(はいせつ)、食事などの身体介護)、行動援護(常時介護が必要で、行動に伴う危険を回避するために必要な援護や外出時の移動の介護等)、短期入所(父母等養育者の病気などにより、入浴、排泄、食事等の介護を受けるための障害児入所施設等への入所)、重度障害者等包括支援(常時介護を要する障害児への、居宅介護その他のサービスの包括的提供)などがある。
1970年代以降、肢体不自由者を中心とする身体障害者たちの目覚ましい自立生活運動が内外で展開されてきた。これに伴い、肢体不自由児の地域における生活においても、その自立生活を目ざしたさまざまな公私の自立支援活動が行われている。肢体不自由児の早期発見、適切な療育のためには、医療のほかに理学療法、作業療法、言語治療などの機能訓練が不可欠である。また、日本の肢体不自由児教育は、1979年度(昭和54)から養護学校義務制が実施されたが、地域の学校での統合教育の実践も行われている。養護学校教育の義務制施行以降も児童生徒の障害の重度・重複化に伴い、在籍する児童生徒も増加する傾向にある。
2000年代に入ると、特別ニーズ教育やインクルーシブ教育の国際的動向を受けて、これまでの「特殊教育」から「特別支援教育」へと制度が転換された。特別支援教育では、児童生徒の個々の教育的なニーズを基に、どのような教育の場においても適切な教育支援を行うこととなった。また、制度面では、盲・聾(ろう)・養護学校を障害種にかかわらず特別支援学校として一本化することや、地域の小学校・中学校の通常学級に在籍する学習障害などの児童生徒に対しても適切な指導を行うことなどを含め、小学校・中学校における特別支援教育を進展させることとなった。特別支援学校では、知的障害児と肢体不自由児に対応する知肢併置や障害部門の複数化のなかで肢体不自由教育の専門性の向上が求められてきた。さらに、センター的機能やコーディネート機能の付与、外部専門家・人材の導入と連携が進み、財政効率とのせめぎ合いのなかで教員の専門性や力量が問われていく。そして、個別の指導計画や教育支援計画が導入されるにつれて、客観的な実態把握や教育目標―評価、指導のマニュアル化や訓練化の傾向が広がった。
こうしたなかで、生命活動の維持と充実が求められる超重症児のように、より高度な医療ニーズをもつ子どもたちを「教育」の対象ととらえ、人格発達や生活文化を大切にした教育実践があらためて課題となった。インクルーシブ教育の視点からは、日常的な学習の場だけではなく、寄宿舎教育、交流・共同教育や障害理解学習、放課後活動の保障や地域生活の充実、高等教育へのアクセスや教育年限延長など、総合的な権利保障が求められる。
インクルーシブ教育は、子どもの願いの実現と権利保障が社会の豊かな発展に結びつくことを求めている。肢体不自由教育の歩みは、子どもの発達と権利保障への要求に「教育」がこたえるべく、学校や授業をつくり、教職員集団の形成、専門家の協働、保護者との連携を進めてきた歴史ともいえる。その成果を引き継ぎ、目の前の子どもから出発し、発達保障と「権利としての障害児教育」の歴史的な経験と蓄積を発展させながら、インクルーシブ教育としての肢体不自由教育を展望することが求められる。