放射性物質が付着している身体、衣服、機器、建物、道路、森林などから放射性物質を取り除くこと。汚染除去ともいう。汚染は、放射性物質を取り扱う者の不注意や事故で起こる場合もあるが、たとえ不注意や事故がなくても放射性物質を取り扱っている限り、微量の汚染は避けられないことが多い。
除染がどの程度達成できたかを表す指標を除染係数(DF:decontamination factor)といい、これは除染処理後の放射能濃度に対する除染処理前の放射能濃度の比として定義される。すなわち、DF=(除染処理前の放射能濃度)/(除染処理後の放射能濃度)である。除染係数が大きいほど多くの放射性物質が取り除かれ、除染の効果があったことを意味する。除染係数の常用対数(10を底とする対数。log10)をとった値を除染指数(DI:decontamination index)といい、これも除染がどの程度達成できたかを表す指標となる。すなわち、DI=log10DFである。
除染処理の一般的な留意点は、(1)汚染後の経過時間が長くなるほど汚染が固定化して除染しにくくなるので、汚染された場合は速やかに除染する。(2)除染することにより汚染範囲を広げることのないよう汚染拡大防止に努める。(3)放射性廃棄物の量が増えないよう除染作業をくふうする。また、(4)半減期が短い放射性物質で汚染された場合、早期に除染せずに汚染箇所から一時的に離れ、時間経過に伴う放射能の減衰を待つこともある。その理由は、放射能の減衰を待ってから除染するほうが、作業者の被曝(ひばく)線量が低く抑えられるからである。さらに、(5)安価な器材や衣類などが高濃度の放射性物質で汚染された場合は、除染せずそのまま放射性廃棄物とすることもある。また、汚染された対象物に応じて、さまざまな除染剤・除染法がある。身体の除染には、皮膚に対する作用の少ない中性洗剤やせっけんを使用し、温水で洗い流すとよい。傷口があると、そこから放射性物質が侵入する可能性が高くなるため、除染の際は皮膚を傷つけないよう注意する必要がある。
2011年(平成23)3月の福島第一原子力発電所事故により汚染された福島県内外の広大な地域の除染(面的除染)事業は、放射性物質汚染対処特別措置法(平成23年法律第110号)に基づき実施されている。世界に類例のない大規模な除染である。同法によれば、国がその地域内にある廃棄物の収集、運搬、保管および処分を実施する必要のある地域を「汚染廃棄物対策地域」、国が土壌等の除染等の措置等を実施する必要のある地域を「除染特別地域」、当該市町村等がその地域内の事故由来放射性物質による汚染の状況について重点的に調査・測定することが必要な地域を「汚染状況重点調査地域」として、環境大臣が指定する。
汚染廃棄物対策地域と除染特別地域は同一地域であり、旧警戒区域(福島第一原子力発電所から半径20キロメートル圏内)と旧計画的避難区域(事故後1年間の追加被曝線量が20ミリシーベルト以上)に相当し、福島県内の11市町村が指定された(2024年1月時点では10市町村)。その後、避難区域の見直しにより、2012年4月以降は「避難指示解除準備区域」(追加被曝線量が年1~20ミリシーベルト)、「居住制限区域」(同20~50ミリシーベルト)、「帰還困難区域」(同50ミリシーベルト以上)に再編され、除染事業が実施されることとなった。なお、避難指示解除準備区域および居住制限区域はすべての避難指示が解除され、2020年(令和2)3月以降は帰還困難区域のみとなっている。
汚染状況重点調査地域については、2011年12月に福島県内の40市町村を含む8県102市町村が指定され、2012年2月に2町が追加された。その後、除染事業の進展に伴う指定解除により汚染状況重点調査地域は漸減したが、2023年9月末時点では、福島県内の13市町村を含む8県68市町村が指定されている。
また、福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)に基づき、帰還困難区域内に避難指示を解除して居住を可能とする地域を定めることができるようになったが、この区域を「特定復興再生拠点区域」という。各市町村が復興および再生を推進するための計画(特定復興再生拠点区域復興再生計画)を作成し、内閣総理大臣の認定を受ける。帰還困難区域のうち、認定を受けた、早期に住民の帰還を目ざす特定復興再生拠点区域を先行して除染し、同区域内の帰還環境整備に向けてインフラ整備等も集中的に行われ、2022~2023年には6町村内の同拠点区域2747ヘクタールの避難指示が解除された。同拠点区域外の帰還困難区域については、対象住民の帰還意向を踏まえて2024年度から除染およびインフラ整備等に順次着手されることとなった。