light rail transitの略。次世代型の路面電車システムのことで、ライトレールともいう。車両はLRV(light rail vehicle)あるいは軽快電車とよばれている。
19世紀末から20世紀前半にかけて世界の主要都市で市民の足として発達した路面電車は、自動車の普及に伴い、しだいに廃止に追い込まれていった。しかし、ヨーロッパの旧市街は道路拡張や駐車場増設の余地がなく、バスも輸送効率が高いとはいえず、増加する自動車交通への対応を迫られた。こうしたなか、1985年にフランスのナント市で近代的な路面電車が建設され、最初のLRTとなった。それを契機として、ストラスブールやパリでもLRTが建設され、1990年代に入って路面電車の再評価が行われることとなった。LRTは専用軌道化や地下化あるいは併用軌道区間への自動車乗入れ禁止も含めた自動車交通との分離、長編成による輸送力と生産性向上、速度向上およびバリアフリーの低床車両導入または専用プラットホーム設置により、新しい公共交通機関と位置づけられた。市中心部への自動車乗入れ規制、郊外に駐車場を設けてその先は公共交通機関を利用するパーク・アンド・ライドの推進、政策的に低く抑えた運賃などにより、かつて路面電車を廃止した都市でも、近代交通機関としてLRTを復活させた。路面電車を維持していたドイツ、スイスや東欧諸国でも車両の近代化とあわせ、インフラの改良を行ってLRTに衣替えしている。
LRTの技術開発が進み、2本のレールを走行する在来形の鉄道に加え、ガイドレールとして1本の鉄レールを中央に設け、バスのようなゴムタイヤ駆動で2車体以上の連結運転を可能とした輸送システムが、フランスのナンシー、カーンやクレルモン・フェラン、イタリアのベネチアに建設された。都市景観維持のためバッテリー走行の架線レス車両もフランスのニースなどに登場し、さまざまなニーズに対応している。しかしながら、カーンのゴムタイヤシステム(TVR:transport sur voie réservée)は技術上の問題から廃止され、その代替として2本レールのLRTが2019年7月に開業した。
フランス、ドイツなどでは、併用軌道はLRVも自動車にあわせて最高時速50キロメートルであるが、専用軌道や地下区間では最高時速70キロメートルで走行する。乗車券の抜き打ちチェックと高額の罰金を併用して改札などを省略する信用乗車制度を導入し、ワンマン運転で全長30メートルを超える車両も導入されている。LRVを郊外鉄道に乗り入れて都市交通と一体化する試みが、1992年にドイツのカールスルーエでトラムトレインとして行われ、ヨーロッパのほかの都市でも導入された。また、車社会のアメリカでもLRTが導入されるようになった。
今後は、世界的にも脱炭素化推進のため、自動車交通から公共交通への転換が積極的に進められ、各都市でLRTの導入が広がる見込みである。
日本では、広島電鉄の鉄道区間である宮島線がLRV(低床高性能車両)を導入して、軌道区間である市内線との直通運転を行い、一体となったLRTに進化している。2006年(平成18)4月に西日本旅客鉄道(JR西日本)の富山港線がLRT化され、第三セクターに移管し、富山ライトレール富山港線として生まれ変わった。その後、2020年(令和2)3月31日の富山駅南北接続事業完成に先だち、同年2月22日に富山市内の軌道線を運営する富山地方鉄道に吸収合併された。これにより、LRT網の市内線への拡大が実現した。
日本では信用乗車制度の導入に壁があり、車両構造の制約とあわせ、運転士による運賃収受が義務づけられていることから、乗降時間が延びて表定速度が低くなっている。列車長も30メートル以下、最高時速40キロメートルに抑えられているので、輸送力増加および生産性向上には限界がある。併用軌道区間では自動車の速度規制よりも低い速度で走行せざるを得ないことが、自動車交通との軋轢(あつれき)を生じさせる要因ともなっている。なおIC(集積回路)カード乗車券の普及に伴い、各乗降口に端末を設置して、ICカード乗車券に限り、各乗降口からの乗降を可能とするシステムが広島電鉄、富山地方鉄道市内線などで採用されており、運転士による運賃収受の手間を省き、乗降時間の短縮を実現している。
本格的なLRTとして、栃木県の宇都宮市、芳賀(はが)町などからの出資により、第三セクターの宇都宮ライトレールが2015年11月に設立された。2018年5月に着工し、宇都宮駅東口―芳賀・高根沢(たかねざわ)工業団地間14.6キロメートル(芳賀・宇都宮LRT)が2023年8月に開業した。ICカード乗車券による各乗降口からの乗降を可能としている。最高速度は軌道運転規則による時速40キロメートルとなっている。