スイスの金融機関。スイスの三大商業銀行とよばれたクレディ・スイスCredit Suisse(CS)、スイス・ユニオン銀行Union Bank of Swiss(UBS)、スイス銀行コーポレーションSwiss Bank Corp.(SBC)のうち後二者が1998年に合併して発足した。2023年にはクレディ・スイスを買収統合。本部はバーゼルおよびチューリヒ。
1912年、前身であるウィンタートゥール銀行Bank in Winterthur(1862年創立)とトッゲンブルク銀行Toggenburger Bank(1863年創立)が合併して誕生した。1945年に本店をチューリヒに設置、翌1946年ニューヨークに駐在員事務所を開設。さらに1967年ロンドンに最初の海外支店を開設して国際ネットワークを拡大した。1986年イギリスの証券会社フィリップス・アンド・ドリューPhillips & Drew、1991年にはニューヨークのチェース・インベスターズChase Investorsを買収するなど、投資銀行業務にも進出していった。
スイス銀行コーポレーションの前身は1872年バーゼルに創設されたバスラー銀行Basler Bankvereinである。1896年バスラー銀行はチューリヒ銀行Zürcher Bankvereinと合併し、1897年にスイス銀行Schweizerischer Bankvereinに社名変更した。その後、1917年にスイス銀行コーポレーションに社名変更。国際的業務には早くから力を注いでおり、1898年ロンドンに最初の海外支店を開設している。1953年に国際ネットワークを拡大し、以降アジア諸国にも営業活動を展開した。1964年香港(ホンコン)に駐在員事務所を開設し、1979年に支店を開設した。1990年代には、アメリカのデリバティブ専門会社オコーナー&アソシエーツO'Connor & Associates、ロンドンのSGウォーバーグ・グループSG Warburg Groupの投資銀行部門、アメリカのディロン・リードDillon Reedを買収するなど投資銀行業務にも力を入れた。スイス・ユニオン銀行が国内業務と資産運用業務の分野で強かったのに対して、スイス銀行コーポレーションは元来国際的な商業銀行業務に積極的であった。
1998年に両行の合併により設立されたUBSは、2000年にアメリカの証券・資産運用会社ペイン・ウェーバー社Paine Webber、2023年にクレディ・スイスを合併し、国際的な総合金融機関として活動している。各国・地域の拠点や関連法人からなるUBSグループは、(1)グローバル・ウェルス・マネジメント業務Global Wealth Management、(2)個人および法人に対する商業銀行業務Personal & Corporate Banking、(3)資産運用管理業務Asset Management、(4)投資銀行業務Investment Bankの四つの事業部門で構成され、世界50か国以上で活動。約7万4000人の従業員を擁し、スイス証券取引所、ニューヨーク証券取引所に上場している。UBSグループの2022年の総資産は1兆1043億米ドル、営業収入は345億6300万米ドル。
日本においては旧スイス銀行コーポレーションが1966年(昭和41)東京に駐在員事務所を開設し、1971年にスイスの銀行として初めて東京に支店を開設した。旧スイス・ユニオン銀行も1966年に東京駐在事務所、1972年に東京支店を開設、1986年にUBS証券東京支店を設立し、1996年(平成8)にUBS投資顧問株式会社を設立した。1998年にスイス銀行コーポレーションとスイス・ユニオン銀行が合併したため、日本においてもUBS銀行東京支店となった。2024年(令和6)1月時点で、UBSグループは日本ではUBS銀行東京支店、UBS証券(UBSウォーバーグ証券が2003年に改称)、UBSアセット・マネジメント(UBSグローバル・アセット・マネジメントが2015年に改称)、UBSジャパン・アドバイザーズ、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの5社を通じて業務を行っている。
2023年3月、スイスに拠点を置く金融大手のクレディ・スイスが経営危機に陥った。「グローバルなシステム上重要な銀行」(G-SIBs)の指定を受けている同社が経営破綻(はたん)を引き起こせば、グローバルな金融市場に多大な悪影響を及ぼしかねない。金融不安のグローバルな波及を回避すべく、同月15日、スイス国立銀行はスイス金融市場監督機構(FINMA)と連名で、クレディ・スイスについて「システム上重要な銀行に対する資本や流動性の要件を満たしている」との声明を発表し、必要があれば流動性供給(中央銀行が金融機関に資金を供給すること)の可能性があることを表明した。それでも同社の信用不安が継続していたうえ、自力での再建が困難であるとの判断から、スイス国立銀行とFINMAの仲介により、買収に伴う損失について90億スイス・フランの政府保証をUBSに与えるという破格の条件で、UBSによるクレディ・スイスの買収が合意され、6月12日、買収が完了した。買収方法は株式交換方式で、クレディ・スイスの株主は同社株22.48株当りUBS1株が割り当てられた。金額にして約30億スイス・フランの買収価格であり、3月17日時点のクレディ・スイスの時価総額約74億スイス・フランの半分未満という割安価格であった。
手厚い政府保証(8月11日、UBSは政府との損失補填(ほてん)協定を自主的に終了)を得ながら割安での買収にこぎつけたUBSであるが、統合後の経営には不安要素も少なくない。一つには、今回の買収の決定が政府主導により行われ、株主総会の決議を経ていないために、損失を被った株主からの訴訟リスクがある。さらに、UBSはクレディ・スイスを統合後に大規模な人員削減を見込んでおり、コストがかさむ可能性があることなどがあげられる。