アメリカの物理学者。フランス保護領だったチュニジアのチュニス生まれ。1959年にフランスのラ・フレーシュにある国立プリタネ軍学校で数学を学んだ後、エクス・マルセイユ大学に進学し、1961年卒業。1968年に同大学から博士号を取得した。1969年以降、2002年まで原子力・代替エネルギー庁管轄のパリ・サクレー研究所で研究を続け、上席研究員、研究部門長などを務めた。2002年から2004年までニューヨーク州アプトンにあるブルックヘブン国立研究所などの客員研究員。2005年からオハイオ州立大学物理学科教授となり、2018年から名誉教授。
1979年、電子が原子を飛び出すとき、最低限必要なエネルギーより多くのエネルギーを吸収するというまれな「超閾(ちょういき)イオン化」現象を発見。2004年には、きわめて短い波長のパルス光を取り出す方法と時間測定に関する基盤技術(RABBIT法)を確立するなど、アト秒(10-18秒、100京分の1秒)物理学発展の礎(いしずえ)を築いた。
1980年代、化学反応する分子にフェムト秒(10-15秒、1000兆分の1秒)だけ光るレーザーを照射することで、分子中の原子が結合したり、切れたりするようすが観測できるようなった。しかし、原子の中でとくに活発に動き回る電子の動きを観測するには持続時間(パルス幅)が、アト秒レベルのパルスレーザーが求められていた。1988年、フランスの物理学者アンヌ・リュイリエは、赤外光レーザーを希ガスに照射すると、もとの波長の数十倍も短い波長をもつパルス光が減衰することなく連続的に発生することを報告。「高次高調波」とよばれるこのパルス光は、アト秒級の短いものと期待されたが、正確な持続時間はわからなかった。これを初めて実験的に取り出すことに成功したのがアゴスティーニである。2001年に希ガスのアルゴンにレーザーを照射すると、持続時間が250アト秒のパルスが連続的に発生することを確認した。ほぼ同じ時期にドイツのマックス・プランク量子光学研究所のフェレンツ・クラウスが、パルス幅が650アト秒の、1個の孤立したパルスを取り出すことに成功。こうした成果でアト秒物理学は急速に進歩した。光をあてると電子が飛び出す光電効果の詳細な観測、半導体などの材料開発や医療診断への応用が期待されている。
アゴスティーニは、1995年ギュスターブ・リボー賞、2003年オランダ物質基礎研究財団(現、オランダ科学研究機構)のJoop Los賞、2007年ウイリアム・F・メガーズ賞を受賞。2023年「物質中の電子ダイナミクスを研究するためのアト秒パルス光生成に関する実験的な手法」に関する業績で、クラウス、リュイリエとともにノーベル物理学賞を受賞した。