ハンガリー、オーストリアの物理学者。ハンガリーのフェイエール県生まれ。ブダペストにあるエトベシュ・ロラーンド大学で理論物理学を、1985年ブダペスト工科大学で電子工学を専攻して卒業。同大学院を経て、1988年にウィーン工科大学に移った。1991年にレーザー物理学で博士号を取得。1993年に大学教授資格(ハビリタチオン)を取得して研究を続け、1996年ウィーン工科大学の助教授、1999年に教授に就任。2003年ドイツのマックス・プランク量子光学研究所長、2004年ルートビヒ・マクシミリアン大学(LMU)実験物理学科とレーザー物理学科の教授に就任した。2006年マックス・プランク国際研究大学院先端光量子科学研究科の初代科長、2015年LMUミュンヘン先端レーザー応用研究センター所長、2019年ブダペスト分子フィンガープリンティング研究センター所長。
研究を本格化させた1980年代後半から、きわめて波長の短い超高速パルスの研究に取り組み、パルスをストロボのように照射することで化学反応における原子の動きを捕捉(ほそく)しようとしていた。しかし、当時はフェムト秒(10-15秒、1000兆分の1秒)レベルのパルス光しかなく、電子の動きの解明はむずかしかった。1988年に、フランスの物理学者アンヌ・リュイリエが、赤外光レーザーを希ガスに照射すると、もとの波長の数十倍も短い波長をもつ光パルスが減衰することなく連続的に発生することを報告。このパルス光は「高次高調波」(HHG:High Harmonic Generation)とよばれ、持続時間(パルス幅)がアト秒(10-18秒、100京分の1秒)のパルス光を取り出せると期待されていた。これを実現したのがクラウスらで、2001年にパルス幅が650アト秒の1個のパルス光を取り出すことに世界で初めて成功した。ちょうど同じころパリ・サクレー研究所のピエール・アゴスティーニが、同じく希ガスのアルゴンにレーザーを照射することで、250アト秒のパルス光が連続的に発生することを実験で確認した。アト秒物理学の進展で、化学結合する材料における電子の動きを、電子レーザーの出力を調整することで確認することができるようになり、がん検出などの医療診断や、医薬品開発に向けた物性研究、半導体材料の開発につながると期待されている。
クラウスは、オーストリア、ハンガリー、ヨーロッパの科学アカデミー会員。2009年アメリカ光学会会員となり、2012年ハンガリー功労勲章、2013年キング・ファイサル国際賞(化学部門)、オットー・ハーン賞、2019年ウラジレン・レトホフ・メダル、2022年ウルフ賞を受賞。2023年、アト秒物理学を切り開いた、「物質中の電子ダイナミクスを研究するためのアト秒パルス光生成に関する実験的な手法」に関する業績で、アゴスティーニ、リュイリエとともにノーベル物理学賞を受賞した。