妊娠22週未満で、胎児および付属物(胎盤、臍帯(さいたい)、羊水)が子宮から排出し、妊娠が終了すること。妊娠初期の流産と比較的進行した妊娠の流産とでは、原因も流産の様式も異なることから、妊娠12週未満の「早期流産」と、妊娠12週以降22週未満の「後期流産」に区別される。後期流産に対しては、死産届と児(じ)の埋葬許可証が必要となる。流産は全妊娠の約15%を占め、全流産の90%以上は早期流産である。このような疾患としての自然流産のほか、人為的に流産に至らしめるものを人工流産(人工妊娠中絶)という。流産を意味する英語は従来abortionであったが、現在ではabortionは人工流産をさし、自然流産はmiscarriageと表されることが多い。
妊娠22週以降での妊娠終了は「早産」であるが、両者の境界となる妊娠齢は児の母体外での生育の可能性が根拠となっている。現在の境界である妊娠22週は、世界保健機関(WHO)が定めた統計分類(ICD)に準拠して1993年に採用されたものである。それより前の流産の定義は妊娠24週未満の分娩(ぶんべん)であり、さらに1979年以前は妊娠28週未満の分娩とされていた。この変化は未熟児医療の進歩に伴い、体外生育可能な児の範囲が広がったことを意味する。なお、国内における母体保護法適用のもとでの人工妊娠中絶が可能な妊娠齢も22週未満である。
流産の原因には、胎児側の要因と、母体を含めた胎児以外の要因に大別される。胎児側の要因の多くは受精胚(はい)の染色体異常によるものであり、早期流産に多い。早期流産は、妊娠初期の超音波診断で確認された児の心拍が短期間のうちに消失することや、児の映像が見えても心拍が確認されないこと、また胎囊(たいのう)のみが見えて児の映像が確認されないことにより診断される。母体側の要因には、子宮の奇形、子宮筋腫(きんしゅ)等の腫瘍(しゅよう)の存在など形態の異常、胎盤付着部の絨毛膜(じゅうもうまく)羊膜炎など感染による炎症、さらには抗リン脂質抗体症候群や自己免疫性疾患、内分泌疾患などの母体の合併症がある。母体の加齢により増加する流産は、母体側要因よりも、加齢に伴う卵の質の変化による場合が多く、胎児側要因といえる。そのほか、胎児に対する母体の免疫反応ともいうべき妊娠高血圧症候群(旧、妊娠中毒症)も流産の原因となりうる。
これらのなかには、繰り返し流産の原因となりうるものがあり、流産または死産を2回以上起こす病態は「不育症」という独立した疾患とみなされる。不育症のうち、流産を2回以上連続して起こすものを反復流産、3回以上連続して起こすものを習慣流産という。
流産の進行状況と流産を診断するタイミングにより、さまざまな接頭辞をつけてよばれる。「完全流産」は、胎児を含む子宮内容物がすべて子宮から排出された後の状態をさす。一方、子宮内容物がおおむね排出したものの一部残存のある状態を「不全流産」とよぶ。また、まさに子宮内容の排出が断続的に起こっている状態を「進行流産」という。さらに、子宮内容の排出に伴う出血が続き流産の終了しない状態が長期間(数週間)継続する状態を「遷延流産」といい、流産の診断が確定しているのに子宮内容の排出または出血などの症状のみられない状態を「稽留(けいりゅう)流産」とよぶ。稽留流産の場合の流産の診断は、確定している妊娠齢に相当する胎児の所見・心拍動が超音波診断によって得られないことにより確定する。これらの流産と診断されている状態の治療は、リスクを伴うことなく完全流産に導くことが目標となる。掻爬(そうは)、吸引による子宮内容除去術と、経過を観察しつつ待機する方法があり、それぞれに利点と欠点がある。
一方、「切迫流産」は、流産に向かいつつあるものの、いまだ流産の診断に至らない状態をさす。切迫流産の治療目標は流産を回避することにあり、安静が基本となるが、黄体ホルモン剤が有効なこともある。後期流産の時期の切迫流産に対しては、子宮収縮抑制剤の使用や、子宮頸管(けいかん)無力症によるものへの頸管縫縮術(子宮頸管〈子宮口〉にリング状に糸を通して縛り、子宮口を縮める手術)が行われる。子宮出血と下腹痛が切迫流産の主たる症状である。これらの症状があると、流産に向かう可能性が低い場合でも、切迫流産の診断のもとに経過観察となることが多い。