眼球銀行ともいい、角膜移植に必要な角膜を確保し、安全性と質を確認して角膜移植医師へ提供することを目的とする機関である。2022年(令和4)時点で日本には54のアイバンクがある。
1928年にソ連の眼科医フィラトフВладимир Петрович Филатов/Vladimir Petrovich Filatov(1875―1956)が死体眼から採取した角膜を使い全層角膜移植に成功して以来、角膜移植術が急速に普及し、1930年にはアメリカでアイバンクが発足、角膜を円滑に入手するための斡旋(あっせん)機関がつくられた。日本では1958年(昭和33)に「角膜移植に関する法律」が公布され、合法的に死体角膜を移植に使えるようになり、1963年6月には厚生省(現、厚生労働省)から「眼球あっせん業許可基準」が公示され、同年10月には慶大眼球銀行と順天堂アイバンクが、また、同年12月には大阪アイバンクがそれぞれ認可された。この「角膜移植に関する法律」は腎臓(じんぞう)移植の発展に伴い、1979年に「角膜及び腎臓の移植に関する法律」として再編された。その後、1997年(平成9)「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」(平成9年法律第104号)の成立に伴い、「角膜及び腎臓の移植に関する法律」は廃止され、現在角膜移植は臓器移植法に基づいて行われている。
アイバンクの業務は、角膜移植の手術が短時間に円滑に完了するよう移植する眼球を斡旋することである。すなわち、まず、死後に眼球を提供しようとする人にあらかじめ登録してもらう。一方、角膜移植を受けたい患者はそれぞれの病院に申し出るが、病院では順番待ちのリストが整備されている。登録した人の死亡連絡を受けると、ただちに出向いて遺族の了解を得て6時間以内に眼球を摘出し、それを保存液中で管理する。全眼球保存の場合は摘出後24時間以内に角膜移植手術を行う必要があり、摘出に出動する際に順番待ちの患者に連絡してただちに入院してもらい、手術の準備を完了した病院へ摘出した眼球が直接運搬されることになる。順番待ちの患者の都合が悪ければ、リストの順番に従って次の患者に連絡される。なお、一部のアイバンクで導入されている強角膜切片保存の場合は、眼球摘出後、組織培養液を用いて角膜切片を作成し、これを保存液中で管理する。この方法では通常保存期間7~10日で、全眼球保存より時間的に余裕があるため、順番待ちの患者の都合にあわせて、予定手術を行うことが可能となる。
アイバンクの業務を行うには厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
従来アイバンクの役割は角膜の斡旋にあると日本では考えられてきたが、欧米においてはすでに角膜の斡旋に加えて、クオリティの確保(角膜の安全性の確保)も役割の一つに入っている。1990年代後半ごろより、厚生省のちに厚生労働省の指導もあり、現在ではドナー(角膜提供者)のC型肝炎、B型肝炎などの感染症の検査により安全性が確保されている。
日本でアイバンクが設立されたのは1963年(昭和38)であるが、2022年時点で、年間2万件の角膜移植手術の必要性に対し、1000眼前後の眼球しか提供できず、本来の目的である眼球の確保はまだまだ不十分である。この点、日本のアイバンクは社会のニーズを満たしていない。アメリカにおいては年間9万眼ほどがアイバンクから提供され、角膜移植の件数も4万5000件に達している。
早急なアイバンクの見直しが必要とされるなか、アイバンクを専門とするコーディネーターの育成により日本のアイバンクも改善される見通しがでてきた。アイバンク・コーディネーターを導入したいくつかのアイバンク(東京歯科大学角膜センター・アイバンク、大阪アイバンク、静岡県アイバンクなど)で献眼者が増加しているからである。アイバンク・コーディネーターとは、移植医療の啓発、ドナー情報の収集、ドナー家族への献眼の可能性の伝達、公正・公平な斡旋の実施や記録、ドナー家族に対する精神的ケアなど適切な移植医療のための活動を行う専門家のことである。コーディネーター制度の導入は、献眼者数拡大のうえで新しい局面をもたらす可能性があると期待されている。
また、現在の日本のアイバンクには、角膜を保存しておく冷蔵庫と献眼のための登録システムがあるだけで、本当に必要な、(1)遺族へのアプローチ、(2)角膜保存、(3)安全性のチェック、(4)啓発活動、(5)活動を支える資金調達、のシステムがないところが多い。日本のアイバンク・角膜移植が発展していくためには前記のシステムを確立していくことが望まれる。