涙の量の減少・質の変化によって、目の表面、角膜や結膜の健康が損なわれる疾患。平易にいえば「目が乾く」ことだが、その病態は複雑である。涙の分泌が減って涙が不足する、涙の蒸発量が増えて目が乾く、涙の安定性が悪くなる、などがある。これらにより、角膜や結膜の表面がいわば肌荒れのような状態となり、目の不快感、疲れなどの症状が現れる。また、その痛みや刺激により反射性の涙が出てしまう「ウェットタイプのドライアイ」もドライアイの一つである。
ドライアイは、先進国では急激に増えている現代病であり、日本でも推計患者数は2200万人に上るという調査データがある。2007年には、日米を中心に世界各国の医師や研究者が集まり世界ドライアイワークショップが開催され、ドライアイの世界診断基準が定められた。
なんとなく目に違和感がある、目が疲れる、というような不定愁訴として現れる。目がゴロゴロする、目が重い、目がショボショボする、目が熱をもったような感じがする、目が開きづらい、目がしみる、ヒリヒリする、などのほか、目の充血、白っぽい目やにが出る、朝に目が開かない、午後になると目がかすむ、視力はいい(あるいはきちんと矯正している)のになんとなく見づらい、などである。悪化してくると、目の表面が痛い、目を開けていられない、などから、頭が痛い、頭が重い、肩が凝る、気分が悪いなどの全身症状に発展する場合もある。
原因は複合的と考えられている。涙そのものの減少のほか、涙の表面を覆って蒸発を防ぐ脂質の分泌腺「マイボーム腺」がなんらかの原因で詰まるなどして、涙が乾きやすくなるような環境的要因も大きい。パソコンやテレビ、携帯電話の画面などのモニターを見続ける生活により、まばたきが減少して涙の分泌が減ったり、冷暖房などの空調により室内が過度に乾燥したりする、といった要因である。
涙の分泌は、副交感神経(リラックスしたときに働きが亢進(こうしん)する)に支配されており、交感神経(緊張時に働きが亢進する)の優位時には減少する。近年、コンタクトレンズ使用者の増加に伴い、コンタクトレンズの長時間・長期使用により発症する例や、レーシックなどの目の手術後に発症する例が増えている。また、加齢に伴う涙量の減少や涙の安定性の低下などが報告されている。シェーグレン症候群などの自己免疫疾患や、スティーブンス-ジョンソン症候群などの病気により涙がほとんど出ない重篤なドライアイもある。
ドライアイ研究会による「日本のドライアイの定義と診断基準」(2016年版)では、「涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)が5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)」があれば、ドライアイと診断される。そのような診断のうえで、適切な治療により改善が可能である。保湿のためのヒアルロン酸点眼、涙の排水口である涙点をふさいで涙をためる涙点プラグ治療が保険適用となっているほか、温熱療法、モイスチャーエイド(保護メガネ)、重症例には自己血清を用いた血清点眼の治療などがある。
日常生活でも、まばたきを意識的に増やす、モニター画面を下に見下ろすようにする、パソコン作業の合間にほかの作業を交えるなど、目を乾かさないくふうが大切である。
また、ドライアイは、現代社会においてクオリティ・オブ・ライフquality of life=QOL(生活の質)を著しく低下させる疾患として注意が必要である。将来的には、涙の代用となる薬剤の開発や、涙の分泌そのものを増やす治療、涙腺の再生医療などが期待されている。