付加価値税(日本では消費税)のある国・地域で、商品・サービスごとの税率(税額)を記した請求書、納品書、レシートなどの総称。インボイスともよばれる。商品・サービスの売り手が買い手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝える目的で発行する。商品・サービスごとに税率が異なっても、適格請求書に明記されているため、売上げにかかった税額から仕入れにかかった税額を差し引く仕入税額控除に活用される。適格請求書を利用した付加価値税の経理手法を適格請求書等保存方式(インボイス制度)とよぶ。適格請求書の活用は、納税の不正やミスを防ぎ、納めるべき消費税が事業者の手元に残る「益税」の解消につながる利点がある。一方、経理事務の負担が重いうえ、適格請求書を発行しない免税事業者が取引から排除されるおそれがある。第二次世界大戦後、いち早く付加価値税を導入したヨーロッパ各国で広がり、中国、韓国、カナダ、オーストラリアなど世界各国で導入された。経済協力開発機構(OECD)加盟国で適格請求書を導入していない国は、長く日本と付加価値税のないアメリカだけであったが、日本は2023年(令和5)10月に導入した。
適格請求書を発行するには、税務署に登録申請し課税事業者にならなければならない。適格請求書には、取引商品・サービスごとの名称、取引年月日、金額、税率(税額)のほか、事業者名や事業者ごとに割り振られる登録番号が記される。消費税法は、事業者間で商品・サービスを取引した場合、売り手(登録事業者)は買い手(課税事業者)から求められたら、適格請求書を発行しそのコピーを保存する義務があるとしている。また、適格請求書であると誤認されるような書類の発行や虚偽内容の記載には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。ただし、消費税の納税が免除された売上高1000万円以下の個人・零細事業者など(免税事業者)は、適格請求書発行の義務がない免税事業者のままでいるか、適格請求書を発行して仕入税額控除が適用される課税事業者になるかを選択できる。課税事業者となった場合、免除されていた消費税の納税の必要があるため、2026年9月まで納税額を売上税額の2割に軽減(預かった消費税額の2割を納付)する経過措置を受けられる。また、免税事業者から仕入れた事業者は、商品・サービスを買った際にかかる仕入れ税額相当額の一定割合(2026年9月まで8割、2026年10月~2029年9月は5割)を仕入れ税額とみなして控除できる経過措置がある。
日本では、消費税導入時(1989年4月)から適格請求書の導入が課題だったが、事業者の負担が増すとして見送られてきた。しかし2019年10月から消費税に軽減税率が適用されて複数税率となり、準備のための猶予期間(4年間)を経て導入された。