生命の働きを解き明かして利用する生命科学を技術的に活用した産業。紀元前から知られた発酵のほか、組織培養、細胞融合、遺伝子組換えなどの先端技術を駆使し、健康・医療、食品・農業、環境・資源エネルギー、新素材、電子・情報・分析など広範な分野で産業化が試みられている。地球温暖化を防ぎ、環境に優しい循環型社会の基盤となると同時に、雇用創出につながると期待されている。一方で、バイオ技術は生命倫理や安全性に配慮した慎重な扱いが必要との指摘もある。
健康・医療分野では、バイオ創薬、バイオ診断などの予防医療、テイラーメイド医療、再生医療、細胞医療などによる難病の克服、長寿化や医療費の抑制が期待される。とくに京都大学教授の山中伸弥(やまなかしんや)が世界で初めて作成したiPS細胞(人工多能性幹細胞)の実用化や、同大学特別教授の本庶佑(ほんじょたすく)らが解明した免疫チェックポイント阻害因子の働きを応用した免疫活性化薬剤などへの期待が高まっている。食品・農業分野では機能性食品、遺伝子組換え作物、微生物活用型の肥料・農薬の開発が課題となっており、環境・エネルギー分野では、バイオマス(生物資源)エネルギーの活用や、木材を使った大型高層ビル建設などが地球温暖化防止に役だつと期待されている。新素材の開発では、高機能バイオ素材やバイオプラスチックの開発が期待され、バイオ素子を活用した情報技術との融合、医療・分析機器の開発なども有望分野とされる。産業化を促すため、バイオベンチャーの育成や、大学や関連企業を一定地域に集積するバイオクラスターづくりも進んでいる。
バイオ産業は広範にわたるため、アメリカ政府はゲノム(遺伝情報)創薬や遺伝子治療などの優先分野を決めることによって成果をあげてきた。日本政府も2002年(平成14)、2008年、2019年(令和1)などに、たびたびバイオ戦略を策定し、大学のバイオ関係学部・学科を増やしたが、政府の目標通りにはバイオ市場は育っていない。OECD(経済協力開発機構)は、世界の2030年のバイオ産業の市場規模が約200兆円になると予測している。バイオ専門誌の『日経バイオテク』によると、日本市場(2021年)は約5兆2000億円にとどまる。