揚げ物などの料理で使われたあとの食用油のこと。廃食用油ともいう。広義では、賞味期限切れの食用油も廃食油に含まれる。食用油は、料理での加熱を繰り返すと、徐々に酸化分解して褐色化し、アルデヒドなどの不快なにおいがしたり、体によくない物質が発生したりする。そこで、健康維持のためには、定期的に新しい食用油に取り替える必要がある。飲食店やスーパー、コンビニエンス・ストアなどで、食用油を使って店内で調理を行っている事業者は、酸化分解で生成した酸の量(酸価)を目安に取り替えるタイミングを決めている。
日本国内で使用される植物由来の食用油は年間240万トン程度で、そのうち、事業者の消費量が約200万トンであり、廃食油として回収されるものはその約20パーセント(約40万トン)である。回収された廃食油の大半が家畜の栄養として配合飼料に添加され、残りが石鹸(せっけん)や塗料、インクなどの工業原料やボイラー燃料に利用されてきた。一方、一般家庭の食用油の消費量は約40万トンで、発生した廃食油の大半が紙にしみこませる、あるいは凝固剤で処理したのちに、一般ごみとして焼却されてきた。
そうしたなか、1997年(平成9)に京都で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)において京都議定書が採択され、温室効果ガス排出量の削減目標が掲げられた。排出量削減の新たな手法の一つとして、廃食油をアルコールと結合させて粘度を低下させたバイオディーゼル燃料(脂肪酸エステル)をつくり、化石資源由来の軽油のかわりに利用する取り組みが注目され、国内外に広がった。この取り組みは、植物が成長過程で光合成により二酸化炭素を吸収しているため、植物由来の燃料を燃焼させても二酸化炭素を発生させたことにならない、というカーボンニュートラルの考え方に基づくものである。
しかし、実際に廃食油からバイオディーゼル燃料をつくると、油に含まれる酸化分解物が同時に石鹸に変換されて燃料に混入するため、それを除去する温水洗浄が必要で大量の廃水を生じさせることがわかった。そのため、海外では、分解物が含まれていない未使用の食用油を原料として、バイオディーゼル燃料を大量につくり、軽油に混合する形で積極的に使用している。これに対し、日本では、廃食油を原料に使い続けたが、洗浄が不十分な燃料がエンジントラブルの原因となった結果、バイオディーゼル燃料への悪いイメージが蓄積し、普及が進まなかった。この問題の解決のために、石鹸を生成させない変換技術や、石鹸のもととなる酸化分解物もあわせてバイオディーゼル燃料に変換する技術など多くの研究が行われてきたが、実用化には至っていない。
2022年10月、国際民間航空機関(ICAO(イカオ))は、国際航空分野で2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにする長期目標を採択した。それを実現するために、廃木材や農業廃棄物などのバイオマスを原料として、持続可能な航空機燃料(Sustainable Aviation Fuel:SAF(サフ))を製造する研究開発が、世界中で進められている。廃食油から合成する手法も提案されているが、高温高圧の水素を使って油を安定した適切な長さの炭化水素に分解したあと、SAFに適した成分を分離精製する必要がある。この場合でも、油の酸化が進み分解物や重合物を多く含む廃食油は、SAFとなる成分が少なく除去する不純物も多いため原料に適さない。しかし、日本の廃食油は、酸化があまり進んでおらず、SAFを製造しやすいため高値で購入されている。そのため、国内で回収された廃食油の大部分が海外に輸出され、SAFに変換されたのち、ふたたび日本に輸入され、航空機燃料として利用されるという状況が生じている。その結果、従来の用途であった家畜の栄養としての配合飼料への添加分が確保できなくなりつつある。国内で発生する貴重な資源でもある廃食油をどのように使っていくべきか、状況を理解してしっかりと考えていく必要がある。