花粉の飛散量の観測や予測などの情報のこと。花粉症の症状緩和など花粉症対策に用いる。花粉症は花粉が原因となって目のかゆみや鼻水、くしゃみなどを引き起こすアレルギー疾患で、近年の日本人の有病率は約4割とされ、一種の国民病ともいわれる。そのため、花粉情報に対する関心が非常に高い。花粉症は春に飛散するスギやヒノキの花粉で発症する人がもっとも多く、毎年春には発症者が急増する。しかし、イネ科の植物は夏から秋、ブタクサ科の植物は真夏から秋口に花粉を飛散させるので、秋に花粉症を発症する人もいる。花粉が多く飛散しているという花粉情報が出た場合は、マスクや眼鏡の着用や、ポリエステルや綿製品など毛羽(けば)の立ちにくい素材の衣類を着用する、あるいは飛散しやすい時間帯の外出を避けるなどの花粉症対策をとることができる。
花粉の観測は、花粉に光線を当てて、その散乱状況で個数をカウントするという機械による自動計測のほか、ダーラム法とよばれる、ガラス板を長期間放置して花粉を採取し、ガラス板に付着した花粉を顕微鏡で人が数える方法が行われている。このダーラム法は、スギやヒノキなどの花粉の種類を見分けられる利点がある一方、観測に多くの時間や労力がかかるという欠点もある。環境省では、2002年(平成14)から各地に花粉自動計測器を設置し、リアルタイムで観測した花粉の飛散状況についての情報提供を行ってきた。その後、民間事業者により多数の花粉計測器が設置され、花粉の飛散状況の情報提供が行われるようになったことから、2021年(令和3)をもって環境省の花粉観測は終了した。また、独自の観測による花粉飛散情報を提供している地方公共団体も多い。
日本地図上に入れた各地のスギ花粉の飛散開始日を示す等値線をスギ花粉前線という。九州では2月上旬に飛散が始まり、3月末には前線は東北地方に達する。北海道や沖縄では、スギ花粉が少ないこともあって花粉症にかかる人は少ない。このため、春先の時期、花粉を避けられるこれらの地域(避粉地)への長期滞在型の観光も行われている。
スギ花粉を飛ばす雄花は、7月から8月にかけて成長するが、この時期に日射量が多く気温が高いと雄花が多く育ち、雄花が多い年の翌春は、その分だけ飛散量が増える。また、日の長さや一定期間の低温を経験するかどうかで開花の時期が変わる。花粉の飛散予測は、環境省や農林水産省林野庁が提供する花芽の発育状況に関するデータや、気象庁が提供する気象データなどを活用して、ウェザーニューズや日本気象協会などの民間事業者によって行われている。環境省や林野庁は、花芽の生育状況等を把握し「花粉発生量に関する情報(スギ雄花の花芽調査データ)」の問い合わせに応じている。また、気象庁が提供する気象データには、花粉の飛散に影響を与える低い空域の気温や風、降水量の3日先までの予測データや、花芽の生育把握に資する情報として向こう1か月や3か月といった期間の気温や降水量の見通しを提供している。民間事業者は、官庁から提供される情報を基礎資料として、長年蓄積した独自のノウハウを用いて予測している。