特定の時点における債券の利回り(金利)を償還までの残存期間(たとえば、1年、2年、5年、10年、20年、30年、40年)について線グラフで示したもの。国債の利回りを用いることが多く、横軸に残存期間を短い期間から長い期間の順に並べ、縦軸にそれらの期間に対応する利回りをとって、線グラフを描く。残存期間1年以内を短期、2~5年程度を中期、10年程度を長期、20~40年を超長期とよぶことが多い。
国債の利回りには、「将来の短期金利に対する投資家の予想」と「タームプレミアム(期間プレミアム)」が反映されていると考えられている。タームプレミアムとは、短期国債と比べて長期国債を保有することでリスクが高まる(たとえば、債券価格の変動が大きくなりやすい)分だけ、投資家が要求する超過利回りをいう。なお、将来の短期金利に対する投資家の予想は、さらに「将来の実質短期金利に対する投資家の予想」と「予想インフレ率」に分けることができると考えられている。このうちの前者には、投資家による潜在成長率に対する予想も含まれている。
残存期間が長期になるほど、国債の利回りに対して、より遠い将来の実質短期金利の予想、長期の予想インフレ率、およびタームプレミアムが反映されることになる。このほか、特定の期間の国債を選好する投資家が存在しており、その投資動向も利回りに影響する。たとえば、年金基金や保険会社は負債が長期にわたるため、リスク管理上、その見合いで長期の国債などの資産を保有する傾向がある。こうした投資家の特定年限の選好が強ければ強いほど、長期の特定年限の国債利回りの低下として反映されるようになる。
リーマン・ショックと世界金融危機後の金融規制の強化により、銀行などの金融機関によってリスクが低いとみなされる国債の需要が世界的に高まる傾向があり、長期国債の利回りの低下に寄与していたとみられる。また、ヨーロッパ債務危機によってヨーロッパ諸国の国債格付けが相次いで引き下げられたことで、格付けの高い主要国の国債の数が減っている。このため、アメリカなど、経済大国でかつ格付けの高い国の国債への需要が高まり、こうした国々の長期の国債利回りの低下を促していた。
金利の期間構造(タームストラクチャー)の分析では、残存期間の異なる国債の利回りの差に注目する。残存期間の異なる国債の利回りの差をイールドスプレッドという。長期の国債の利回りが短期の利回りを上回る場合、イールドカーブの勾配(こうばい)は右上がりとなり、この状態を「順イールド」という。反対に、短期の国債の利回りが長期の利回りを上回る場合、イールドカーブは右下がりとなり、この状態を「逆イールド」という。
「将来の短期金利や予想インフレ率が、現在の水準よりも上昇する」と投資家が予想している場合、長期国債の利回りは短期国債の利回りを上回るため、順イールドとなる。一般的には、順イールドの形状が平常な状態と考えられている。
投資家の予想が、(1)「将来、経済成長が加速し、長期の予想インフレ率も高まっていく」というものであると、将来の短期金利予想も上昇するためイールドカーブはスティープ(急勾配)化する。その一方で、投資家が、(2)「将来、インフレ率や長期金利が上昇してそれらの変動も大きくなる」と認識すれば、長期国債保有リスクが高まるためタームプレミアムが上昇する。長期金利の上昇の原因が、(1)によるものなのか(2)によるものなのかを識別する統計的手法は、主要中央銀行や研究者などによっていくつか開発されている。しかし、方法によって推計値のばらつきが大きく、かならずしも正確に区別できていないのが実情である。
アメリカでは、過去の経験から、逆イールドカーブが生じる場合、そののち1年前後ぐらいに景気後退が起きていることが統計的に明らかにされている。このため景気後退の先行指標として長短金利差が注目されることが多い。長短金利差の検討には、たとえば、10年物国債と2年物国債の金利差、10年物国債と3か月物国債の金利差が用いられることが多い。
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)危機による世界的な景気後退からの回復途上のなかで、2021年後半からアメリカをはじめ世界でインフレ率が急ピッチ、かつ予想以上に上昇した。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、同危機後に政策金利であるフェデラル・ファンド・レートの誘導目標レンジを0~0.25%に下げて同水準を維持していたが、インフレを抑制するために、2022年3月から段階的な利上げを始めた。2023年7月に5.25~5.5%まで引き上げて以降はしばらく同水準に据え置いた(なお、2024年9月に市場では最初の利下げが決定された)。こうした利上げの結果、逆イールドカーブが発生した。
逆イールドカーブが発生した理由として、いくつかの解釈がある。ひとつは、市場参加者が積極的な利上げにより将来的にアメリカ経済が景気後退や景気減速に陥る可能性を意識し、将来的な利下げを織り込んだ可能性がある。もうひとつは、現在は大インフレになっていても、数年後にはインフレ率が低下して低い水準に戻るか、極端な場合にはデフレになると多くの市場参加者が予想していたとも考えられる。さらに、タームプレミアムが低下して逆イールドカーブが発生した可能性もある。
FRBが2022年3月から積極的な利上げを始め、同年6月からは証券保有残高の段階的な縮小、いわゆる「量的縮小」を開始し、そうした状況下で逆イールドカーブが発生したため、金融政策正常化によりアメリカ経済が景気後退に陥ることがFRBをはじめ多くのエコノミストによって予想された。しかし、実際には景気後退は起こらず、アメリカ経済は予想以上に好調さを維持している。実質経済成長率は、2022年に対前年比2.1%であったが、2023年には同2.5%へとむしろ上昇した。家計の消費や企業の設備投資等の内需が堅調であったからである。その理由として、アメリカはガス等のエネルギー生産・輸出国であり、日本やヨーロッパ諸国のような輸入国でないこと、財政拡大政策や軍事支出の拡大により財政支出が続いていること、高齢化などによる人手不足もあって労働市場が極めて堅調であったことなどがあげられている。とくに名目賃金上昇率は高く、商品価格が下落しインフレ率が低下を始めたことによって、実質賃金がプラスに転じたことも、消費の拡大に寄与したと思われる。
ただし、2024年第3四半期に入り、労働市場をはじめアメリカ経済の景気が悪化する指標が目だち始め、長期金利を下押しするようになった。こうしたなか、利下げ局面に入ると、逆イールドカーブは徐々に解消していくと予想される。