アメリカのコンピュータ科学者。アーカンソー州リトルロック生まれ。バンダービルト大学で数学と物理を専攻して2007年に卒業。2008年にイギリスのケンブリッジ大学で修士号を取得した。その後、ニューヨークの生化学研究会社D.E Shaw Researchで生体内のタンパク質やそれ以外の生体内分子の挙動を調べるコンピュータ・シミュレーションの開発に従事した。2011年からシカゴ大学で、折り畳まれたタンパク質の立体構造を機械学習で明らかにするコンピュータ生物学の研究を本格化させた。2017年に同大学で化学の博士号を取得した後、グーグル・ディープマインド社Google DeepMind Technologies Ltd.に入社。同社主席研究員を務める。
ジャンパーは、グーグル・ディープマインド社では、最高経営責任者(CEO)のデミス・ハサビスらが着手していた、タンパク質の立体構造を予測する人工知能(AI)を駆使したソフト「AlphaFold(アルファフォールド)」の開発に取り組んだ。タンパク質を構成するアミノ酸の一次配列から三次元構造を予測する「AlphaFold」は、翌2018年、世界中の研究者が参加する「CASP(Critical Assessment of protein Structure Prediction、タンパク質構造予測精密評価)」の第13回大会で、60%の精度で構造を予測した。しかし、実際に創薬などに役にたつ90%の精度には遠く及ばなかった。その後ジャンパーらは、生物の進化の過程で、アミノ酸の配列で離れたところにあるアミノ酸が連動して変異する「共変異」という現象を機械学習に応用した、「AlphaFold2」を開発した。ただ、この共変異はどこでおこるかが不確定であり、タンパク質の立体構造の予測の精度に影響を及ぼすことから、ジャンパーらは「Transformer(トランスフォーマー)」とよばれる人間の脳回路の処理システムをモデルにしたニューラルネットワークを使ったソフトウェアに、共変異がおこった場所を学習させるようくふうした。Transformerは、長文における離れた言語の関連性や連動性などを学ぶのを得意とする、自然言語処理系の深層学習(ディープラーニング)ネットワークで、Chat(チャット)GPT(対話型AI)にも使われる。これによって共変異がどこでおこりやすいかを特定する精度が高まり、「AlphaFold2」も格段に精度が向上した。2020年のCASP第14回大会では、90%以上の精度でアミノ酸の一次配列からタンパク質の立体構造を予測し、世界を驚かせた。「AlphaFold2」が2021年に一般に発売されて以降、世界中の200万人以上の研究者が必須(ひっす)AIソフトとして使用しており、タンパク質の構造研究は急速に加速した。さらに、2024年にジャンパーらは、タンパク質と他の生体内分子との相互作用を予測できる「AlphaFold3」を発表した。
ジャンパーは、2022年スペインのBBVA財団と科学研究高等会議によって顕彰されるBBVA財団フロンティアーズ・オブ・ナレッジ賞、ワイリー賞、2023年ガードナー国際賞、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、生命科学ブレイクスルー賞を受賞。2024年、同じグーグル・ディープマインド社のデミス・ハサビスとともに「コンピュータを用いたタンパク質の構造予測」の業績でノーベル化学賞を受賞した。同じくAIを駆使して、「コンピュータを用いたタンパク質の設計」で成果をあげたアメリカのワシントン大学のデビッド・ベイカーとの同時受賞であった。