トルコとアメリカ、両方の国籍をもつ経済学者。マサチューセッツ工科大学(MIT)教授。民主主義や少数独裁主義など社会制度の違いによって、国家の繁栄に格差が生じることを解明した功績で、2024年のノーベル経済学賞を受賞した。サイモン・ジョンソン、ジェームズ・ロビンソンとの共同受賞。専門はミクロ経済学、政治経済学、労働経済学、開発経済学、自動化とイノベーションの研究など多岐にわたる。
トルコのイスタンブール生まれ。1989年、イギリスのヨーク大学を卒業し、1992年にロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)で経済学博士号(Ph.D.)を取得。LSE講師、MIT助教授などを経て2000年からMIT教授。ジョンソン、ロビンソンとの共同論文(2001)で、15世紀以降のヨーロッパ諸国の植民地に着目した。そして、現地の疫病による初期入植者の死亡率の高低がその後のヨーロッパ人入植者数を大きく左右したため、致死率が高く入植率の低いアフリカや中南米などの植民地では、短期的に利益を回収しようと住民を搾取する収奪型制度が優位を占め、一方、致死率が低かった北米やオーストラリアなどでは、入植者はその地での長期的な発展と定住を目ざし、権力が分散した民主的で自由な包摂型制度が生まれるなど、さまざまな社会制度の形成過程をデータを用いて分析。国家間に貧富の差が広がる背景に社会制度の違いが影響していることを数理モデルで説明し、持続的繁栄には民主主義、法治主義、公平・公正な競争の場などが重要であることを示した。ロビンソンとの共著『国家はなぜ衰退するのか:権力・繁栄・貧困の起源』(2012年。邦訳は2013年)や『自由の命運:国家、社会、そして狭い回廊』(2019年。同2020年)、ジョンソンとの共著『技術革新と不平等の1000年史』(2023)など著書多数。2005年にアメリカ経済学会のジョン・ベイツ・クラーク賞を受け、早くからノーベル賞候補と目されてきた。巨大IT(情報技術)企業による市場の寡占、人工知能(AI)の恩恵の偏在などに警鐘を鳴らすなど、経済分野だけでなく、政治・統治、教育、イノベーションなど幅広い分野で積極的に発言していることでも知られる。