通貨(硬貨、紙幣)またはこれにかわるカードを挿入したり、QRコードなどをかざしたりすることによって、自動的に物品やサービスなどを販売する機械。小売店の対面方式、スーパーマーケットのセルフサービス方式より一歩進んだ無人販売方式で、流通・販売部門での代表的な省力機械である。人手不足、人件費高騰の対応策として効果があり、休日・夜間も営業できる利点がある。なお、同様に通貨で操作される機械として公衆電話機や娯楽機(ゲーム機など)もあるが、これらはその用途からみて自動販売機の範疇(はんちゅう)には含めない。日本での普及台数は2023年(令和5)末時点で約390万台である。
大別すると自動販売機と自動サービス機に分けられる。おもな自動販売機としては、飲料、食品、たばこ、券類、日用品・雑貨、そのほか各種物品の複合・併売自動販売機などがある。同様に自動サービス機としては、自動両替機、自動精算機、自動写真撮影機、コインロッカーなどがある。このほか、昨今では冷凍食品自動販売機が、自宅で有名店の味をいつでも味わえることなどから人気を博している。さらにはAI(人工知能)を搭載し、利用者の好みにあった商品を提案したり、売れ行きを予測して商品補充をアナウンスしたりする自動販売機も、新しい可能性を広げるものとして注目されている。また、インターネットと接続することで、遠隔操作による商品価格の変更や扉の開閉などを可能とし、運営事業者が設置先に行かずともトラブルなどに対応できる自動販売機も登場している。
紀元前215年、エジプトの寺院に出現した聖水自動販売機が世界最古である。この機械はヘロンの発明ともいわれ、てこの原理を応用し、ドラクマ硬貨を入れるとその重みで栓が開き、数滴の水を出すという仕掛けであった。この種のアイデアはその後17世紀に入ってイギリスで復活し、広く欧米に伝わって、たばこ、切手、チューインガムなどの自動販売機の考案に生かされた。日本では、1888年(明治21)に俵谷高七(たわらやたかしち)(1854―1912)の発明によるたばこ自動販売機が最初で、この機械は当時東京で開かれた内国勧業博覧会に出品され好評を博した。俵谷が考案したなかでもっとも有名な自動販売機は、1904年(明治37)に製作した木製の「自働郵便切手葉書売下機」で、全体が切手自動販売機と葉書自動販売機とポストの三機一体化形式のユニークなものであった。これは現在、東京都墨田区押上(おしあげ)の郵政博物館に保管されている。歴史的にいうと、1925年にアメリカのロウWilliam Rowe(1884―1945)が考案した異なった値段で多品種を売るたばこ自動販売機が近代自動販売機の始まりといわれているが、自動販売機がもの珍しさの段階を過ぎ、本格的な実用化段階を迎えたのは、欧米では1930年前後で、日本では第二次世界大戦後の1960年代以降である。
日本では、自動販売機は高度経済成長に伴って急激に普及し、1985年(昭和60)には約500万台を突破した。日本でこれほどまでに自動販売機が普及した要因として、第一に治安のよさがあげられる。防犯上の理由から、世界のほとんどの国が屋内設置としているなかで、日本では屋外の設置が積極的に進められた。次に100円白銅貨の大量流通によって、これまで10円硬貨でしか利用できなかった自動販売機の利便性が向上したほか、乗車券券売機の登場によって、自動販売機がより身近なものとなった。また、温かい飲み物と冷たい飲み物を併売できるホット&コールド自動販売機が開発されたことで、一年中飲料が売れるようになり、飲料自動販売機の普及が進んだ。
自動販売機の構成は、金銭装置(選別・計数・釣銭(つりせん)装置からなる)、指示装置(制御装置)、貯蔵・加工装置、販売装置からなる。金銭装置は自動販売機の心臓部分で、挿入された通貨の真偽判別、金種選別を行い、金額を計数し、必要に応じて釣銭を出す。真偽判別のチェックポイントは、硬貨については直径、厚み、重量、材質などで、紙幣については縦横寸法などの外形的要素と肖像、模様などの紙幣に特有の要素を組み合わせて総合判別する。電子マネー、QRコードなどのキャッシュレス決済端末が搭載されている場合には、電子マネー、QRコードの照合判別、金額確認を行う。指示装置は、押ボタンで商品を選択すると、その販売指示を出す。昨今では、押ボタンのかわりに液晶ディスプレーを組み込んだものもある。貯蔵・加工装置は、商品を種々の形態で貯蔵し、必要に応じて調理などの加工を行う。販売装置は、販売指示を受けて選択された商品を取出し口へ送り出す。
一方、このような構成機能を全体的に発展させるものとして、「自動販売機情報管理システム」がある。このシステムは実際に設置展開されている個々の自動販売機と営業拠点のコンピュータとの間をネットワークでつなぎ、機内の販売情報や故障情報などをリアルタイムで収集し、機械の保守や商品の配送、補充を効率的に行うことで、売れ筋商品の把握、売り切れや故障による販売機会の損失を防ぐことを目的としている。また、2020年9月には、「自動販売機情報管理システム」を発展させる形で、「JVMAネットワークシステム」が構築され、大容量通信および双方向通信を可能とした。これによりビッグデータの取得や遠隔操作による価格設定変更などを実現し、マーケティングへの活用や自動販売機オペレーティングの効率化に寄与している。