金利を下げすぎると、かえって金融緩和効果を減殺するという経済現象、あるいは、その行きすぎた低金利をさす概念。アメリカのプリンストン大学教授のブルネルマイアーMarkus K. Brunnermeier(1969― )が2016年に提唱した。一般に金利を下げると市場に出回るマネーが増えて経済活動を刺激するが、金利がある一定水準を下回ると、かえって預貸金利鞘(りざや)の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約が圧迫され銀行経営に悪影響を与え、貸出の伸び悩みなど金融仲介機能が低下するという考え方である。つまり、行きすぎた金融緩和には緩和効果を反転(reverse)させる副作用があることから、リバーサル・レートとよばれる。日本では、日本銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)が2017年(平成29)11月、スイスのチューリヒ大学での講演のなかで紹介し、広く知られるようになった。
ブルネルマイアーらは2017年の論文「リバーサル・レート:金融政策における効果の下限(The Reversal Interest Rate : An Effective Lower Bound on Monetary Policy)」で、金利が一定水準を下回ってリバーサル・レートが起きる要因として、(1)銀行がもつ固定金利資産の存在、(2)低下した金利ほど預金金利を下げられない状況、(3)国が金融機関に課している規制、などをあげている。黒田が日銀総裁に就任して以来、日銀は量的・質的緩和とマイナス金利政策という大規模な金融緩和で物価上昇と脱デフレを目ざしている。黒田のリバーサル・レート発言は、日銀が金融緩和の正常化に向けて大規模緩和の修正に動き出す兆しではないかとの観測をよんだ。しかし黒田はその後、リバーサル・レートへの言及は学術的分析を取り上げただけであるとして、当面、大規模な金融緩和を続ける姿勢を打ち出している。
2018年7月20日