国際社会の一員としての日本のあり方が問われている今日、日本語の評価もまた、劇的な変化を遂げようとしている。日本語はもはや日本人だけの言語ではなくなろうとしているのである。海外への企業の進出、外国人の受け入れなどに伴っての日本語教育の盛況ぶりは、まさにその事実を裏付けるものであるといえよう。
こうした状況の中で、日本人自身も、日常漫然と使ってきたわが言語を客観的に見直す必要に迫られているのではないだろうか。
この辞典は、こうした日本語をとりまく新しい状況に対応するひとつの試みとして、特に日本語を母国語としている者ですら説明に窮することの多い類語のニュアンスの違いを明らかにすることを第一の目標として企画された。幸い編集委員をはじめとする大勢の方々の協力を得て、大方の成果を得たと自負するものである。
この辞典には、さまざまな新機軸が盛り込まれている。まず、従来の国語辞典のように、見出しを機械的な五十音順に配列するのではなく、意味の似ている言葉を集めて類語のグループを作り、そのグループ毎に解説を施すという方式を採った。よく似た言葉の意味、すなわち類語、同義語を取り出して整理した上で、それらを対比することによってより理解が深まると考えられる語、のべ約二万五千語を精選し、約六千の類語のグループを構築した。これは、現代の一般的な言語生活において遭遇する類語の数としては、まず妥当なものと考える。
解説は、例文や複合語列などを多用して、実際の使われ方から、類語の意味や用法の違いが理解できるように努めた。さらに、類語の対比表を随所に掲げ、類語の用いられ方の差異が具体的な例文によってそのニュアンスの違いを対比してとらえられるように工夫した。これは先に刊行した『現代国語例解辞典』での対比表の成果をふまえて発展させたものである。類語辞典でありながら「例解」の名を冠した所以である。
さらに新たな試みとして、必要に応じてそのグループに共通する意味にほぼ相当する英語表現を添えた。これもまた、日本語の国際化という現象をふまえたもので、英語を借りて日本語の類語の対比を理解する糸口としようという試みである。
この辞典が、日本語のニュアンスを大事にして、さらに理解を深めたいと思っている人々、日本語を再確認したいと思っている人や日本語を第二言語として学んでいる人のよき伴侶となることを期待するものである。
なお、新しい試みであるが故に思わぬ遺漏その他も多いかと危惧するものであるが、この辞典が読者諸賢の叱正を仰ぎつつ成長していくことを願ってやまない。
「新装版」によせて
本書の刊行から、早くも一〇年の歳月が経過した。発刊の第一の目標に掲げた「類語のニュアンスの違いを明らかにする」という行き方は多くの読者の賛同を得て、版を重ねることができた。今回、読者から寄せられた声をもとに、活字・表組み・記号などの紙面の体裁を一新して、装いも新たにごらんいただくことになった。ここにあらためて、倍旧のご支持とご批正を請うものである。