金属などの多結晶材料中に存在する各結晶粒の結晶格子の向き(結晶方位)の分布状態のことで,厳密には結晶集合組織という。ある結晶方位の結晶粒が統計的に多いならば,〈この集合組織には優先方位がある〉という。慣用的には同じ意味で,〈この材料には集合組織がある〉ということが多い。集合組織には次のような種類のものがある。(1)立方晶の金属を凝固させると優先方位([100])が形成される。すなわち,結晶粒は熱流方向に成長し,その大部分の成長方向は[100]方位(図参照)にほぼ平行になる。このような凝固,電着,蒸着などの結晶成長過程で形成される集合組織を成長集合組織という。(2)鉄を室温で圧延して板にすると,優先方位(001)[110]が形成される。すなわち変形につれて,(001)面を板面に,[110]方向を圧延方向に平行とする結晶粒が増加する。このような圧延,線引き,押出しなどの塑性加工によって形成される集合組織を加工集合組織という。(3)加工した材料を焼きなまして再結晶させると,新たに再結晶集合組織が形成される。2次再結晶によっても集合組織は変化する。(4)マルテンサイト変態などにさいしては,変態前の母相の集合組織は生成した子相に形を変えて遺伝する。この子相が相続した集合組織を変態集合組織という。
結晶の性質は結晶方位によって異なるから,多結晶材料の性質もそこに存在する集合組織に依存している。さらに,たとえば板の圧延方向と幅方向といった材料の向きによってもその性質は異なる(性質の異方性)。永久磁石であるアルニコ磁石においては凝固による優先方位[100]の形成が,変圧器鉄心用の方向性ケイ素鋼帯においては2次再結晶による優先方位(110)[001]の形成が,その特性の向上に利用されている。自動車車体の外板やビールのかんのように薄い平板から立体的な形状を成形加工するときには,集合組織が適切でないと,加工の途中で破断したり,形状の欠陥が発生したりする。加工前の結晶粒界や介在物粒子が,圧延などの加工によって引き伸ばされた跡は,加工後のみならず再結晶焼きなまし後にも,肉眼でも見えるような組織(マクロ組織)として観察される。この場合のマクロ組織は繊維状を呈するので繊維組織と呼ばれ,性質(とくに破断しやすさ)の異方性のもう一つの原因となっている。高分子材料では主鎖が特定の方向にそろっている場合に〈配向性がある〉というが,優先方位とこの配向性とは類似の概念である。筋肉などの生体高分子にも配向性はあり,また自然の地層中の岩石の結晶にも優先方位は存在する。
集合組織は,個々の結晶粒の方位の測定,あるいは多結晶体全体のX線回折強度の測定などから,決定される。
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