subway
metro
単に地下鉄と略すことが多い。狭義には全線地下に建設された鉄道をいうが,一般には,人口稠密な地域において,主として通勤・通学などを目的とする旅客の大量迅速な輸送を使命とし,その大半の路線を地上に比較して地下に設けることが適当とされ建設された都市高速鉄道をいう。地下鉄は建設に多額の資金を要するため,地方公共団体または公共企業体の経営によるのが一般的である。したがって,帝都高速度交通営団(現,東京地下鉄)の東西線30.8kmのうち南砂町~西船橋間14kmは地上区間であるが,これはJRとの相互乗入れをはかるため,および低湿な未開発地域を通過するため高架としたものなので,地下鉄という。また新玉川線(現,田園都市線)は東急の経営という点を除けば地下鉄そのものであるので,私鉄経営による例外的な地下鉄である。これに対し,JRの総武本線,横須賀線の地下区間はJR郊外線の都心乗入れないし線増部分であり,地下鉄とはいわない。
世界の地下鉄
世界で地下鉄のある都市は1984年現在約60で,30以上の都市で建設中ないし計画中であるが,ほとんどが人口100万人以上の都市である。地下鉄が建設された当初は,路面の最大輸送能力が需要に追いつけなかったための地下化であったが,近年の現象は自動車の普及による路面輸送能力の低下によるものである。地下鉄の役割には都市内交通としての面(モスクワ,ニューヨーク)と,郊外と都心を結ぶ高速大量輸送機関としての面(ローマ,ワシントン)があるが,最近は都市の広域化,近郊都市の人口増,新都市開発を反映し,郊外と都心を直接結ぶ路線が建設されている(ロンドン,パリ,東京)。
日本の地下鉄
日本最初の地下鉄の開通は1927年早川徳次の東京地下鉄道会社による浅草~上野間2.2kmである。34年に上野~新橋間が開通,39年には東京高速鉄道会社による新橋~渋谷間が開通し,これによって現在の銀座線14.3kmが全通した。41年にはこの2社が合併し,帝都高速度交通営団が設立された。営団は第2次大戦後,51年に丸ノ内線の建設に着手し,池袋~荻窪間27.4kmが62年に全通した。その後日比谷線をはじめ5路線の建設に着手し,96年9月現在8路線169.3kmが営業されている(2008年6月現在,9路線195.1km)。都営地下鉄は1968年に押上~浅草橋間が完成し,96年9月現在4路線68.1kmが開通している(2000年12月現在,4路線109km)。1977年には私鉄最初の地下鉄として新玉川線が開通した。96年9月現在,東京(一部千葉県を含む)では12路線237.4kmが営業され,94年度の輸送人員(新玉川線を除く)は一日平均738万人となっている。大阪の地下鉄は同市交通局の経営で,1933年梅田~心斎橋間が開通し,96年9月現在7路線105.8kmが営業され,94年度の輸送人員は一日平均266.4万人である。神戸では車両をもたない神戸高速鉄道7.6kmが1968年開通し,市交通局による路線は77年に開通,96年9月現在13.3kmに延長されている。名古屋は5路線76.5km,札幌は3路線45.2km,横浜は2路線24.4km,京都は1路線11.1km,福岡は2路線17.8km,仙台は1路線14.8kmがそれぞれ市交通局によって,広島は1路線0.3kmが広島高速交通によって運営されている(いずれも1996年9月現在)。
諸外国の地下鉄
海外主要都市の地下鉄はバス,路面鉄道とともに公共企業体によって総合的に運営されていることが多い(ロンドン,パリ,ハンブルクなど)。世界最古の歴史をもつロンドンの地下鉄はロンドン運輸公社の経営で,8路線388km(うち164kmが地下区間),輸送人員4億9800万人(1982)となっている。この地下鉄はチューブと呼ばれる深層線で,場所によっては地下50m以上に達している。パリの地下鉄は1900年に開通し,パリ運輸公社の経営で,15路線192km(うち177kmが地下区間),輸送人員11億3000万人(1982)となっている。このほか郊外高速地下鉄(RER)が38年から開通し,現在2路線103kmが運営されている。ニューヨークは22路線394km,モスクワは8路線192kmをもち,いずれも年間輸送人員10億人以上である。このほか地下鉄を有するおもな都市とその営業キロ(1982)は次のとおりである。西ベルリン(現在のベルリン西部,101),ハンブルク(90),マドリード(99),ストックホルム(104),レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ,73),シカゴ(150),サンフランシスコ(115),メキシコ市(78),北京(24)。
将来の展望
地下鉄の建設には多額の資金を必要とし,しかも建設費は高騰している。開通後も利子負担および運営費の上昇によって健全な経営を維持することが困難になっており,大都市では需要の伸びも鈍化している。このような難題を抱える地下鉄ではあるが,将来も人間が都市での活動を続けていくかぎり,近代的な都市の発展と不可分に地下鉄も発展していくと予想される。それは地下鉄には,近代都市の貴重な地上空間を使用せずに高速大量輸送できること,それによって都市中心部の効率のよい再開発を促し,住宅地の郊外への発展を可能にする媒体となりうること,空港など郊外に立地する都市公共施設をサポートできること,道路の再構築を可能にすること,地上から隔離された防災機能となりうることなどの特性があるからである。
地下鉄の歴史
世界最初の地下鉄は1863年1月10日に開業した,イギリスのロンドン市内パディントン駅とファリンドン・ストリートとを結ぶ,約6kmのメトロポリタン鉄道である。ロンドン市の中心部は建物が密集しているため,地方から乗り入れる鉄道がターミナル駅を建設することができず,周辺に終点を設けるしかなかった。したがって,乗客はそこから市の中央まで馬車を利用することになるが,市内の幹線道路が狭いため,交通渋滞が日常化した。これを解決するために考えられたのが地下鉄であったが,蒸気機関車しかなかった当時,実現には大きな困難があった。
まだトンネル工事の技術がさほど進んでいなかったころであるから,メトロポリタン鉄道建設にあたっては,地上から深い溝を掘り,線路が完成してからふたをするという工法がとられた。路線のあちこちにふたのない部分を残し,蒸気機関車はそこで思いきり煙を吐き出し,トンネル部分では煙を出さぬような運転法が考え出された。普通の機関車ではピストンを動かした後の蒸気は煙突に導かれ,煙を押し出す働きをするが,この鉄道用につくられた蒸気機関車では,蒸気を水槽に導く特別の装置が考案され,煙の排出を防いだ。それでも客室内の乗客は煙にかなり悩まされたが,便利で速い地下鉄は好評を呼んで,次々に延長され,84年には現存するロンドン市内循環線(サークル・ラインCircle Line)が完成した。しかし,蒸気機関車を使う浅い層の地下鉄(サーフィス・ラインsurface line(浅層線)と呼ばれる)にはおのずから限界があった。それに対して,90年に電気機関車に引かれる地下鉄が,ロンドン市内テムズ河底を横切って開通した。この線は大きな鋼鉄の筒を地下に敷設する建設方法をとった。このような地下鉄は〈チューブtube(深層線)〉と呼ばれ,どんなに深い地下でも自由に路線が選べる利点があった。以後ロンドン市内各地に電気動力によるチューブが四通八達して今日に至っている。
各国の大都市もこれにならい,パリが1900年,ベルリンが02年,ニューヨークが04年,東洋で最初の東京が27年,モスクワが35年に,それぞれ最初の地下鉄を開通させている。構造は各都市の事情により違う。たとえば,アメリカのボストンでは市内路面電車が街路下の浅いトンネル内を走る形態をとっているし,逆にモスクワ地下鉄の大部分はひじょうに深いチューブとなっている。建設費を節約する必要から,ロンドンのサーフィス・ラインと同じ工法で,比較的浅い層に設けるのが一般的傾向で,たとえば早川徳次が日本最初の試みとして,東京地下鉄道を浅草~上野間に開業したときも,街路の下の浅い路線を選んだ。しかし,地下鉄網が発達するにつれ,新設路線はより深い層とならざるをえない。そのため乗客を乗降場まで導くための2次施設として,エレベーターやエスカレーターが必要となる。
1863年ロンドンに誕生した最初の地下鉄の名称〈メトロポリタン〉とは〈首都の〉という意味であった。その後ヨーロッパの諸都市の地下鉄が同じ名称(略して〈メトロ〉)を採用したため,いつか〈メトロ〉とは〈地下〉を意味するように誤り伝えられてしまった。フリッツ・ラング監督によるドイツのSF映画《メトロポリス》(1927)が,地上と地下の都市の階級的対立を映像化し,この傾向はますます強まった。本来地下室とは,個人の家の酒蔵や物置にせよ,城の牢獄にせよ,上にある建物の付属私有空間であり,縦方向の行き来はできても,地下室相互の横の交通は不可能(秘密通路によって可能となるごくまれな場合を除いて)なはずであった。それが地下鉄の到来によって,地下にも公共空間が生まれ,横の交通が公認のものとなった。〈メトロ〉およびそれに類する〈メトロナード(地下街)〉などの言葉の一般化は,地下の公共空間の一般的認知を意味する。しかし〈メトロ〉や,〈地下〉を意味する英語〈アンダーグラウンド〉は,明に対する暗,正統に対する異端,光に対する影,自然の世界に対する人工の世界のニュアンスを伴う。ドストエフスキーが《地下室の手記》という作品で,いわば心理的地下の負の世界に住む疎外された人間に文学的認知を与えた1864年が,世界最初の地下鉄開通の翌年であった(しかし彼は地下鉄に乗ったことはなかった)のは,偶然ではあるまい。
地下鉄の技術
トンネルの工事方法と形状
地下鉄トンネルの工法は,地表面から掘り下げてトンネルをつくる垂直掘削方式と,横孔式にトンネルを掘進する水平掘進方式とに大別される。前者は開削工法(カットアンドカバー工法またはオープンカット工法ともいう)が最も一般的で,ほかにケーソン工法などもこれに属する。水平掘進方式はシールド工法と山岳トンネル工法とがその代表的なものである。開削工法は地表面から掘り下げていってその中にトンネルを築造した後,再び土を埋め戻す工法で,一般には道路下での工事となるため,掘削部両側に土留めを行い,これを基礎に道路面に仮の床版を張って工事を進める方法がとられている。このためトンネル形状は,掘削方法と電車の走行とに合致して,最も経済的な箱形断面とする場合がほとんどである。この工法は浅部式トンネルには最適で,経済的で工期も短くてすむ。ケーソン工法は,地上であらかじめつくったケーソンと呼ばれるコンクリート製の箱を順次地中に沈めて,これらを継ぎ合わせてトンネルをつくる工法で,軟弱地盤とか水底用にたまに用いられる。シールド工法は,シールドと称する,円筒を横にした形の鋼製掘進機(トンネル大)を地中に押し進めながら,円筒前面の土砂を横孔式に少しずつ掘削し,後部で1リングずつトンネルを組み立てていく方法で,比較的軟弱な地盤の深部式トンネルに適している。掘削前面の土砂が崩壊するのを防ぐため,圧搾空気などの補助工法を併用するが,最近では補助手段に泥水を使う機械掘削技術が泥水シールド工法として開発され,地下鉄トンネル工法の主役になりつつある。シールド工法によるトンネルは,工法上から円形断面トンネルとなり,単線トンネル並列式と複線断面式とに区分けされる。山岳トンネル工法は,岩石の山を貫通する一般のトンネル工法を都市内の地下鉄トンネルに適用するもので,都市内で岩盤のある福岡,神戸や,硬質地盤の横浜,仙台の一部で採用されている。この場合アーチ形断面をとるのが普通で,複線断面トンネルとする場合が多い。東京,大阪などでは新路線の地下鉄トンネルは深層化の傾向にあり,環境対策,道路交通のふくそう化なども加わって,開削工法から順次シールド工法への移行化がみられ,駅部トンネルは開削工法,駅間トンネルはシールド工法のパターンが定着しつつある。
集電方式と軌道
地下鉄の運転動力には電気が利用されており,日本では直流600V,750V,1500Vの3種類が用いられている。集電方式は,一般の鉄道と同じように頭上の電線からパンタグラフで集電する架空線方式(1500V)と,走行用レールと並行に敷設されたレール(第三軌条という)から集電する第三軌条方式(600V,750V)とがある。第三軌条方式による場合はトンネルの高さを低くし,建設費の低減を図ることができるが,郊外電車などとの相互乗入れを行う場合は,架空線方式とする必要がある。架空線方式の場合,トンネル内の断線対策として,断線のおそれのない剛体架線を採用しているところもある。
軌道は,運転頻度の高い列車を対象に,建設費の節減と保守作業の軽減を図るために,軌道構造の強化,簡素化が行われており,道床をコンクリートでつくったり,あるいはレールを道床に直接締結する方式などを採用している場合が多い。また後述するが,電車通過時の騒音,振動対策もとられている。日本の地下鉄の軌間は,狭軌(1067mm)と標準軌(1435mm)がほとんどであるが,東京都営新宿線の1372mmや札幌のゴムタイヤ軌道(南北線,ゴムタイヤ中心間隔2300mm)もある。郊外電車との相互乗入れのときは郊外電車の軌間に合わせることになる。
信号保安設備
信号方式は3位色灯式地上信号機が広く用いられているが,最近は車内信号方式の採用が増えている。この方式では直接運転室に制限速度を現示するので,地上信号機の場合と違い,他の信号と誤認することがなく,確認が容易で,また運転能率の向上が図れるなどの長所があり,トンネル空間縮小化の一助ともなる。信号保安設備は,地下鉄の場合半無限に長く狭小なトンネル内での列車の安全運行のため,他の鉄道以上に重要度が高い。具体的には,信号を無視した列車を自動的に停止させる自動列車停止装置(ATS),ATSよりさらに進んで,高周波を利用し信号の変化に応じて列車の速度を自動的に制御する自動列車制御装置(ATC),信号を車上装置がキャッチして列車を自動運転する自動列車運転装置(ATO)が実用化されており,さらに自動列車進路設定装置(ARC)や列車集中制御装置(CTC)なども採用されて,狭いトンネル内での列車運転に対する安全が図られている。
車両
地下鉄の車両は,日本ではAA基準により最も厳しい不燃車両の使用を義務づけられており,車体は金属製で不燃性のものを,シートその他は難燃性のものを使用している。電動機の制御には,省エネルギーを目的としてサイリスター・チョッパー制御の使用が増えている。これは,サイリスターという半導体を用いて電気的無接点スイッチを断続的に開閉することにより,電動機にかかる電圧の変化で列車速度を制御する方式で,抵抗器は不要となり,大幅な電力消費量の節減と発熱量の減少をもたらすことができた。一方,札幌では独特なゴムタイヤ車両を開発し,乗りごこちと騒音振動対策が図られている。
防災設備
地下鉄は,電車が地下を走るという特殊条件のため,防災対策にはとくに力を入れており,万一の災害発生時にも利用者の安全を確保できるように各種体制がとられている。地震対策,浸水対策,火災対策,停電対策がそのおもなものである。地震の揺れは地上に比べ地下のほうがはるかに小さく,しかもトンネルは耐震的にできているので,地震時にもトンネルは安全であるが,運転の万全を期すため地震計が要所に設置され,地震発生時には地震警報装置を通じて,全列車および関係個所に対して適切な指令措置がとられるようになっている。津波,台風,大雨による浸水対策としては,地上開口部の出入口,換気口に浸水防止設備が設けられ,また要所要所にはトンネル構内に浸水防止扉が設置され,万一の坑内浸水への対策もとられている。火災対策では,地下鉄構内は消防法,建築基準法などの法規に定められた最高の技術基準で施工され,資材も難燃性の材料が使用されている。車両もAA基準に基づき不燃・難燃性材料の使用を義務づけられている。最近は排煙問題がクローズアップされ,各種排煙設備も整備されつつある。トンネル構内の機能を麻痺させる停電に対しては,最近各駅に発電機の設置例が増えつつある。いずれにせよ災害発生時に最も怖いのは2次災害で,パニック的な人為災害をおこさぬように通報,連絡,誘導の設備と訓練が要求される。
振動・騒音対策と換気,空調
地下鉄は,走行中の電車から発生する振動,騒音が特徴的な悩みの一つになっているが,これを少しでも和らげてより快適な地下鉄にする努力が各種方式でなされている。ゴムタイヤ車両や防振車輪車両の採用もその一つであるが,一般的には,(1)振動,騒音の発生源である車輪とレール関係の改良,(2)防振軌道の採用,(3)トンネル軀体の防振構造化,に大別される。(1)では車輪のフラット(滑走による欠円)やレールのかたよった摩耗をなくすこと,重量レールやロングレールの採用,継ぎ目の溶接などのレール関係の改良,(2)では防振マット,防振枕木,バラストなどによる伝搬過程での振動,騒音の吸収,(3)ではトンネル軀体の重量化と防振壁による被覆などがあげられる。トンネル換気は,電車のピストン作用による空気排出・流入を利用した通風口式の自然換気方式が多かったが,最近は空調,冷房をも加味した機械換気方式の採用が圧倒的に多い。とくに駅構内の冷房化は各都市で実施の方向にある。