日国友の会

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松井カードに学ぶ投稿の心得

『日本国語大辞典』は、見出し語に用例を添えることを原則としています。用例は、見出し語の意味・用法を記述する際の根拠となるばかりではなく、そのことばが実際に使われていることを示す存在証明にもなります。「語釈」や「新項目」について投稿する場合にも、その裏付けとなる用例を添えることが大切になってきます。

ごく一般的な用例の拾い方として、本や雑誌、新聞などで気になったことば、見慣れないことばがあったときに、まず鉛筆やマーカーなどを使って印をつけます。次に、そのことばを手近なカードに書名やページなどの情報とともに書き込みます。あるいは、印をつけたままにしておき、まとまった時間を見つけてカード化したり、パソコンに入力したりして五十音順に整理します。

最後に、拾った用例が『日本国語大辞典 第二版』の見出し語にあるかどうかを確認して、なければそれが「新項目」の候補例ということになります。見出し語にある場合には、ふさわしい意味記述があるかどうかを考え、その意味がなかった場合には新しい「語釈」の候補例とします。さらに、見出し語も意味記述もあるのに用例がない場合、あるいは、用例があっても見つけた例の年代の方が古い場合は新「用例」の候補例ということになります。

用例の場合

『日本国語大辞典 第二版』に、見出し語はあっても、用例が掲載されていない場合、また、用例は掲載されていても、採取した例の方が古い年代である場合には、「用例」に投稿します。意味が複数ある場合には、意味番号、あるいは簡単な意味を語釈欄に記入します。

見出し語はあっても用例が掲載されていない

おとめチック【乙女-】

松井カード 用例

2002年03月11日

用例: 第一、乗ってりゃ、いっしょに死ぬとこだったっていうんだもの。あの生きのいい子が、全然おとめチックになっちゃってるじゃない
語釈: 〔形動〕(「チック」は英tic)様子や雰囲気などが、いかにも少女が好みそうな可憐な感じがあるさま。「乙女チックな感傷」
コメント: 松井先生用例補充カード(第二版には用例を添えられなかったもの)
編集部: こういう言葉にこそ用例を入れたいですね。

著書・作品名:ぽんこつ

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1959年

著者・作者:阿川弘之

掲載ページなど:27ページ、下段、後ろから4行目

発行元:

用例は掲載されているが、さらに遡る

おおなたをふるう【大鉈を振るう】

松井カード 用例

2002年03月11日

用例: 奴隷にも等しき丁稚小僧の飼殺し制度を改めて一年以上の雇傭契約を厳禁するなど小気味好く大鉈(オホナタ)を振(フル)ひ出した
語釈: 思い切って除くべきものを除いて処理する。
コメント: 松井先生用例補充カード(第二版には用例を添えられなかったもの)
編集部: 第二版では、初出が1924年の、「増補改訂や、此は便利だ」からの例で、2年さかのぼるだけですが、モダン語辞典よりは確かな資料として貴重ですね。

著書・作品名:江戸から東京へ(4)

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1922年

著者・作者:矢田挿雲

掲載ページなど:118ページ、後ろから1行目

発行元:

語釈の場合

『日本国語大辞典 第二版』に、見出し語はあっても、採取した用例に該当する意味・用法が記述されていない場合には「語釈」に投稿し、適切な意味・用法を語釈欄に記入します。

こうあつ【高圧】

松井カード 語釈

2002年04月04日

用例: 役目を笠にいくらでも其の高圧(カウアツ)の手段は有るやうな事を云ひます
語釈: 威圧するような態度で、相手を従わせようとすること。高飛車になること
コメント: 第二版では、意味が二つあるが、いずれも物理的な意味の記述しかない。「高圧的」などと用いるときの意味も欲しい

著書・作品名:大菩薩峠

媒体形式:その他

刊行年(月日):1913-41年

著者・作者:中里介山

掲載ページなど:(2)、白根山の巻・七、123ページ、7行目

発行元:

すりこむ【刷込】

松井カード 語釈

2002年04月04日

用例: それで蛍を<母親>と思い込むよう意識に刷り込まれてしまったのである
語釈: (意識などに)あらかじめ刻印する。
コメント: 生物学用語の「刷り込み」が、動詞化したものとおもわれる。

著書・作品名:吉里吉里人

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1981年

著者・作者:井上ひさし

掲載ページなど:317ページ、下段、11行目

発行元:

新項目の場合

採取したことばが、『日本国語大辞典 第二版』の見出し語になかった場合には、「新項目」に投稿します。用例とともに、意味・用法についてもわかる範囲で語釈欄に記入します。

あいちょう【愛聴】

松井カード 新項目

2002年04月04日

用例: 寄席中継<略>登場落語家は今宵は本格派のみ今宵はまたポンチ絵派のみと両様に分けていただけまいか、さすれば落語通は前者の場合を愛聴して後者の場合はスヰッチを絶り
語釈: 〔名〕このんで、よく聴くこと。
コメント: 今日では、CDやレコードの「愛聴盤」というような言い方をすることの方が多いかもしれないが、「愛聴する」とも確かに言う。

著書・作品名:寄席風俗-はなしか論語・二

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1943(昭和18)年

著者・作者:正岡容

掲載ページなど:134ページ

発行元:随筆寄席風俗

かんこうホテル【観光ホテル】

松井カード 新項目

2002年04月04日

用例: 村の貧弱なのに似合はず立派な観光ホテルで、しかも客は私一人きりだった。
語釈: 〔名〕景勝地や温泉などで、観光客のために設けられた宿泊施設。
コメント: 「観光バス」も「観光都市」も見出し語にある。「観光○○」という熟語がいつごろから多用されるようになったかを知るうえでも興味深いことばである。

著書・作品名:通学物語

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1941年

著者・作者:渋沢秀雄

掲載ページなど:319ページ

発行元: