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ほめる編 第1回

多くの人間がいる場所をほめる

愛知万博をはじめ催し物の会場、観光地においては「すごい人でガッカリ」などと言ってはいけません(自分も「すごい人」の一部なのですから)。人の多さを肯定的に表現し、長蛇の列では多くの人とつながる喜びをわかちあいましょう。

  • 1(にぎ)わう

    かつては、富む、豊かになる、繁栄するといった意味でも使われた、めでたいイメージのある言葉。テレビのニュースで各地の祭りの模様を紹介する際によく用いられます。

    春の城〈阿川弘之〉一・一「白い川原は、夏、水浴びの子供達で賑(ニギ)わった」

    第二次大戦期の青春を描く小説からの用例。「白い川原」は主人公の家の裏の川原。川は広島市を流れる京橋川で、主人公の家は饒津神社(現・広島市東区)の対岸に位置します。原爆が投下された1945年8月6日、この川原には「ぼろぼろの服を着た乞食のような兵隊や、身体中焼け爛れて蒟蒻の化物のようになった学生や、溝なりに赤く胸の肉をえぐられて血に染った女や、ひどい怪我をした見知らぬ人々」(三・一二)がたくさん集まりました。しかし、そのような状況を「賑わう」とはいいません。

  • 2賑々(にぎにぎ)しい

    落語家や歌舞伎役者がよく使うためか、「賑わう」や「賑やか」よりも非日常的かつ和風な印象を与えます。ふだんの会話で「今日も渋谷はにぎにぎしいネ」などと言う人はあまりいません。

    波形本狂言・川上「扨も扨も大参りと見えてにぎにぎしい事じゃ」

    盲目の男が眼病治癒の祈願のために有名な地蔵を訪れて言うもの。「大参り」は参詣人が多いことを意味します。

    その後、祈願のおかげで男は目が見えるようになりますが、地蔵のお告げによれば、「今の妻と結婚したから盲目になったのだから、別れなければまた目がつぶれる」とのこと。帰宅した夫からその話を聞いた妻は憤慨し、離婚を拒否したため夫は盲目に戻ります。狂言らしからぬ心理的葛藤のドラマとされますが、女の意地の張り方の一典型として見ることもできます。

  • 3繁昌(はんじょう)

    飲食店、スーパー、デパート、ホテル、旅館などに多くの人間が集まっているときに、中高年は「これはたいした繁昌だ」などと言います。しかし、中高年でも「繁昌」を目指す経営者たちは、「増益」「増収」などもっと露骨な言葉を好む傾向があります。若い世代ではあまり用いられません。

    平家-五・月見「ふるき都はあれゆけば、いまの都は繁昌す」

    この用例のように、かつては都市に多くの人が住み、往来することを「繁昌」とも、「栄える」ともいいました。現代ではそういう状況を「繁栄」と呼びます。

  • 4大入(おおいり)

    「入り」は客の入り具合のこと。非常に入(い)りがよい状況が「大入」。本来は興行関係の業界用語ですが、江戸時代から素人も使いました。催し物だけでなく、店、大学の授業(試験前)などにもいいます。客が「これは大入だ」と思っても、主催者側の入場者予想を下回っている場合もあります。

    団団珍聞-五五七号「何処(どこ)の旅籠屋(はたごや)も大入(オホイリ)大繁昌」

    明治の風刺雑誌の記事からの用例。これによれば、猛暑のせいで三千人が東京横浜方面から箱根に押し寄せているとのこと。この猛暑の中、イギリス人宣教師が軽井沢を訪れたのがきっかけで、中山道の田舎町が高級避暑地に変貌するのでした。

  • 5盛況(せいきょう)

    テレビや新聞では客がまずまず集まった展示会について報じる際、この言葉を使います。主催者が大満足するほどの入場者数に達した場合は、「大盛況」となるようです。

    忘却の河〈福永武彦〉三「大した盛況じゃないか、といつのまにか下山が側に来ていて」

    演劇の公演の来場者についての用例。声をかけられた出演者は、客が多くても客席に父親の顔が見えないことを残念に思っています。

  • 6活気(かっき)

    多くの人がいて、やかましい大声があちこちから聞こえる状況を「活気がある」と呼ぶことがあります。とくに魚河岸は「活気がある」場所の代表とされます。かつては、証券取引所も「活気がある」場所でしたが、場立ちが廃されて以降、テレビで見る限り、活気よりも殺気が目立ちます。

    シベリヤ物語〈長谷川四郎〉シルカ「秋になると、周辺のコルホーズから、収穫物が集まってきて、この町は活気を呈してくる」

    このように、町というのはカネが動くと「活気を呈してくる」ものです。

  • 7熱気(ねっき)

    スポーツの競技場、コンサート会場などでは、人いきれで暑苦しい状況を、「ファンの熱気が感じられる」などといいます。しかし、満員電車で背後の風邪ひきが熱で苦しんでいることを頭に吹きかけられる湿った息で感じとっても、「熱気が感じられる」とはいいません。

    自由学校〈獅子文六〉自由を求めて「恐ろしい、入りである。ムンムンと、盛夏のような熱気が立ちこめている」

    場所は、ストリップ小屋です。現在でも全国各地にストリップ小屋は残っていますが、第二次大戦後の草創期のような「熱気」はほとんどないそうです。

  • 8さざめく

    どこからわいてきたのか不思議なくらいの人数が集まり、あちこちからこうるさい音楽が聞こえ、落着かない、ざわざわとした場所を肯定的に表現したいときに向く言葉。似た言葉に「ささめく」がありますが、こちらは小声でささやくことをいい、「さざめく」はがやがやすることをいいます。

    後裔の街〈金達寿〉四「賑やかにさざめいていたネオンも消えかかり、夜店もしまいにかかって」

    「さざめく」には「はなやぐ」という意味もあり、この用例のように光の輝きを表わすときにも用いられます。観光地の宣伝では「星々のさざめき」といった文句を見かけることもあります。それに憧れて出かけてみると、電車の中は「熱気」でムンムン、ハイキングコースは「盛況」、レストランは「大入」、おまけに雨が降ってきて星も見えないかもしれませんが、同行者によってはそんな旅もロマンチックな思い出になるでしょう。

2005-06-06 公開