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けなす編 第5回
素人に株式売買を指南する本が次々と出版され、多数のベストセラーが生まれています。このことから株式売買はとても難しいことがわかります。簡単に成功できるなら、何冊も本を買って研究する必要はないのです。そこに気づかず、軽い気持ちで株に手を出してしまった人をけなすときに使えそうな言葉を集めてみました。
株は「ハイ・リスク、ハイ・リターンな金融商品」であるといわれます。「ハイ・リスク、ハイ・リターン」の語は、日本人の耳には「ハイ」と「リ」の音が心地よく、冒険心をそそるリズムをもっています。しかし、「ハイ・リターン」をこのようにいいかえると、危険な金融商品であることが判然とします。
社会百面相〔1902〕〈内田魯庵〉投機・七「是だけが財産なら此会社も危(アブ)なっかしいもんです」
この用例のように資本力に乏しいことを「あぶなっかしい」ということもあります。株の売買の本を見ていると懐具合が「あぶなっかしい」状態の人でも、株で成功することは不可能ではない、絶対できる、という気分になります。実に危険です。
「この株が値上がりしたら車を買おう」、「いや、高級時計を買おう」などと、株を始めたばかりで買い物の計画を立てている人をからかう場合に、もっとも妥当なことわざ。
高級レストランで美食をつくす予定を立てている人には「飛ぶ鳥の献立」(鳥を捕らえる前から献立を考える)、まだ一円も得ていないのに目標金額を吹聴する人には「穴の中の狢(むじな)を値段する」がよいでしょう。
父親〔1920〕〈里見〉「どこの株をどれだけ売って置けば、いくらいくら儲かる、といふやうな、『とらぬ狸の皮算用』」
五十がらみの男がかつて芸者だった老女と世間話をしているところ。男は老女と偶然再会したばかりだというのに、「わてに預けてみい。すぐ三層倍や四層倍にして持って来てあげるわ」などと言っています。
「唐」のところに会社名を入れると、投資家をからかう言葉になります。
「投げ金」は、もともとは江戸の鎖国以前に行われた朱印船貿易で、貿易業者に投資すること。無事帰国すると大きな利益になりましたが、海難事故でもあれば出した金はまったく戻りませんでした。そこで「唐へ投げ金」は、不確実なことに金を出すこと、金をむだにすることのたとえとなりました。
浮世草子・本朝二十不孝〔1686〕三・二「むかし唐(タウ)へ拠銀(ナゲガネ)して仕合次第分限となって」
現代語にすると、「かつて朱印船貿易に投資してだんだん金持ちになって」。ここだけ読むと成功談のようですが、この本は「不孝」な人物の逸話を集めたもの。この男も金持ちだったのに、やがて簡単に金が増えるからという理由で賭博に手を出し身を滅ぼします。
資金が乏しく「ろくな株が買えない」と嘆いている人に教えたい言葉。銭を持たないで市に行っても、何も買うことはできず、突っ立っているしかないのです。身のほどを知らないことのたとえとしても使われます。
雑俳・柳筥〔1783~86〕初「銭なしの市立(イチダチ)福をこころがけ」
賑やかな有名神社を訪れながら、金がないので参道の店で飲み食いもできず、ただ参拝して帰るだけの人を詠んだ句。現代の「銭なし」の個人投資家も、福を願って市場の鳥居をくぐっているようです。
これも思うように利益が出ないことを歎く人に向きます。「丸」は金銭。「一本」は四百文のこと。少額の金しかないくせに高額商品を望むのは無理であることをいいます。これも「金があれば○○の株を買って大儲けするのに」などと言う人をからかうときに向きます。
大儲けしようと大金をつぎこんで失敗する前に知っておきたいことわざ。慣れない大口の商売に手を出すより小規模でも慣れた商売のほうが安全、という意味です。高額商品を扱う呉服屋は成功すると利益が大きかったのですが、大金が動くだけに慣れない人間には手を出せるものではありませんでした。呉服屋のかわりに、「金商(こがねあきない)」「米商(こめあきない)」ということもありました。
利益になることをひとつ始めるよりも、前からある害になることを取り除いたほうがいい、ということわざ。ムダづかいばかりしているくせに、「なかなか金がたまらないから株でもやるか」などと言っている人に教えてあげましょう。その手の人が株を始めると、必ずや「利」にはならず「害」になります。
2005-11-07 公開