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けなす編 第10回
政府も国民もつねに増収をのぞんでおります。どちらものぞみをかなえることができればいいのですが、政府だけになることもあります。そんなとき、次のことばが登場します。
「税金が高い」というよりも「税金が重い」というほうが、負担感を表わすことができます。税金の高さに不満を持っている人は、「高税(こうぜい)」よりも、こちらを用いる傾向があります。
変痴気論〔1971〕〈山本夏彦〉税制「万一その才があって、また時流に投じてかせいだら、その重税にはじめ驚き、次いでその非をならし」
用例のつづきは、「ならして甲斐ないと知ると、何とかしてごまかそうとするだろう」。これが執筆されたのは高度経済成長の時代。当時すでに「節税」という語はありましたが(国会の会議録を参照されたし)、「脱税」に対する世間の風当たりは今以上に厳しかったのでした。
税金にも正当なものと悪いものがあるという考え方によることば。「悪い」と判断される理由は、税額、課す対象、税金をかける理由など。いずれにしろ、正当さの基準は人によって異なります。たとえば喫煙者には煙草にかかる税金は悪いものですが、非喫煙者はよいものとみなします。
感情旅行〔1955〕〈中村真一郎〉七「花の御所の造営は、強制労働と悪税と徳政(借用契約の破棄)とによって、僅かにつぐのわれた」
用例は足利義政の政治について述べたもの。義政はすぐれた文化人でしたが、政治的には暴君でした。「悪税」が日本の文化発展に役立ったわけです。。
苛酷な税金のこと。「重税」と同じ意味ですが、「苛」という文字を見て「苛酷」「苛める」をイメージできる読者が少ない出版物(小中学生向けの雑誌や参考書など)では用いないほうがいいでしょう。
如是放語〔1898〕〈内田魯庵〉「我は寧ろ禁止税に等しき苛税(カゼイ)を雑誌屋店頭に堆(うづたか)き大作傑作名作に課するを上策なりと思ふ」
「禁止税」は禁止関税のことで、輸入禁止と同様の効果をもつ保護関税。用例部分の前は「地租を増徴して朴実なる農民を苦しむるよりは」。この「大作傑作名作」は、出版者がそのように宣伝する本のことを指しています(100年以上前から本の宣伝文句は「大作傑作名作」なのです)。
「税金を徴集する」と「税金を取り立てる」の意味は同じなのですが、後者のほうが現代人の耳に強く響きます。補助動詞としての「立てる」は、騒ぎ立てる、はやし立てるなどのように、しきりに何かをすることを表わしますが、現代は「すごく」を多用し、「立てる」が忘れられがちです。しかし、経済にかかわる「取り立てる」は頻繁に用いられます。
がらくた博物館〔1975〕〈大庭みな子〉すぐりの島「厖大な軍事費やその他のろくでなしの予算をまかなうための税金を、間違いなくきちんととり立てている」
何かを無理に出させることを「絞る」ともいい、古いことわざには「百姓と濡手拭(ぬれてぬぐい)とは絞(しぼ)るほど年貢を出(いだ)すもの」、「百姓は油(あぶら)の如く絞れば絞るほど出る」などものもありました。
日本読本〔1887〕〈新保磐次〉五「憐れなる人民は皆人夫に疲れ、軍用の税に絞られたりき」
武田信玄と上杉謙信についての部分からの用例。この時代の状況を説明したもので、信玄と謙信を批判するものではありません。むしろ信玄をたたえる文章となっています。
「膏血」は「あぶらち」ともよみ、脂汗や血を流すような苦労、また苦労から得られたものをいいます。それを奪うことを意味する「膏血を絞る」は、主に重い税を課すことにいいます。現在は「膏血を絞る」のかわりに「血税を絞る」ということがあります。もともと血税は兵役のことでしたが、徴兵制度がない現在では苦労して払う税金のことになっています。
良人の自白〔1904~06〕〈木下尚江〉前・二七「『国家の公益、国権の拡張』などと云ふ看板を掛けて、人類の膏血を絞る政治屋」
「政治屋」は政治家のこと。「屋」をつけることで相手を軽んじる気持ちを示します。こうした「屋」の性格を商店も意識するようになり(あるいは無意識的に「屋」を避けるようになり)、パン屋がベーカリー、酒屋がリカーショップを名乗る例が増えています。
「斂」は取り立てることを意味する漢字。「厚」は、厚恩、厚情などよい意味で用いられることが多い漢字ですが、この場合は取り立てが厳しいという意味になります。似たことばに「暴斂(ぼうれん)」「苛斂(かれん)」があります。
広益熟字典〔1874〕〈湯浅忠良〉「厚斂(カウレン)ネングノトリタテガヒドヒ」
明治初期の辞書による「厚斂」の定義。当時は「税」の語がまだ一般的ではなく「年貢」だったことがわかります。
税金をきびしく取り立てるという意味の熟語をふたつ重ねたもの。戦前にはわりに一般的なことばだったようですが、現代のマスメディアではあまり用いられません。
江戸から東京へ〔1921〕〈矢田挿雲〉六・三「其年から米一石につき二升の増税を課し、大豆小豆に至るまで苛斂誅求(カレンチウキウ)を極めたので百姓等塗炭の苦しみに陥ち」
「塗炭の苦しみ」は泥にまみれ火に焼かれるような苦しみのこと。生活苦を表すことがほとんどで、税に関連して用いられることも多いものです。
「」は、かきとる、むさぼる、倒すなどの意味をもつ漢字で、「克」と組み合わされると重い税金を取り立てることにいいます。現代ではまず用いられないことばですが、税制に文句をつけるための語彙はできるだけ多く保存しておいたほうがいいでしょう。
2006-04-03 公開