新ほめる日本語けなす日本語

【使用上の注意】 本ホームページ掲載の語・用例を実生活で使用したことによって生じる不利益につきましては、編集部では一切責任を負いかねます。ご使用にはじゅうぶんご注意ください。

ほめる編 第4回

「自民党圧勝」をほめる

歴史的な自民党圧勝を記念して、今回の選挙における小泉首相とその支持者をほめる際に使えそうなことわざを紹介します。

  • 1大功(だいこう/たいこう)()(もの)(しゅう)(はか)らず

    大きな功業をなしとげる者は愚かな衆に相談しないで自分の判断で行動する、という意味。小泉首相が周囲の反対を振り切って衆院解散を決断したことをほめたたえるのによいでしょう。用例も改革断行の話です。

    戦国策‐趙策・武霊王「論至徳者不和於俗成大功者不謀衆」

    書き下すと、「至徳(しとく)を論ずる者は俗に和せず、大功を成す者は衆に謀らず」。中国の戦国時代、趙の武霊王は北方民族の馬に乗って弓を射る(騎射)スタイルを採用して、勢力拡大をはかりました。部下からは「胡の騎馬用の服を着るのは礼にかなっていない」と反対の声があったのですが、重臣の肥義は上のように「商子」を引用し、王の改革断行を支持したということです。

  • 2(しゃ)道傍(どうぼう)(つく)れば三年(さんねん)にして()らず

    これもトップの独断を肯定する言葉です。由来は「後漢書‐曹褒伝」。後漢の粛宗が礼楽を制定するにあたり、学者の班固に相談したところ、彼は学者たちを集めて論議させてから決めるべきだと建言しました。しかし、粛宗は「家(舎)を道ばたに作って、道行く人に相談していたら三年たってもでき上がらない」と、家づくりにたとえて反対したそうです。

    随筆・折たく柴の記-中「此外、某が議し申せし事どものその時に挙行はれざりし事共ありて、いくほどもなくてかくれさせ給ひて、猶今ももとのままなる事どもも多かり。舎を道傍につくるの喩おもひあはせし事にぞありつる」

    新井白石の回想録からの用例。ここでは大名や公家の行列が宿場町に迷惑をかけている状況が、なかなか改善されないことを嘆いています。用例を現代語にすると、「このほか、某が意見を出しながらすぐに実施されず、いくらもしないうちに(将軍が)亡くなって、今なお元のままになっていることも多い。舎を道傍らにつくるという比喩が思い合わせられることである」。各地の権力者の利害が複雑にからみあう交通関係の事業は、江戸時代から「改革断行」が難しかったようです。

  • 3よく(じん)する(もの)(たたか)わず、よく(たたか)(もの)()せず

    上手に陣を張る武将は戦わずして敵に勝ち、戦いにすぐれた武将は危険に陥るような失敗をしない、という意味のことわざ。今回の選挙における、小泉陣営の作戦をほめるのに向きます。

  • 4仁者(じんしゃ)(てき)なし

    小泉首相に敵がいないことを、歯が浮きそうな言葉でほめたいときに。意味は、仁者は人に憎まれないこと、また、仁政を施す為政者には民衆が従い匹敵する者がないことです。「孟子‐梁恵王上」に由来しますが、孟子による梁の恵王が「仁者敵無」になるための政策とは、「刑罰が簡単で、税が軽く、人民が安心して農耕し、よい田を作り、孝悌忠信の道徳を学ばせ、家では父兄に仕え、社会では年長者に仕える」というものであり、小泉改革とはあまり関係がなさそうです。なお、孟子のこの献策は受け入れられませんでした。

  • 5人間(にんげん)(さか)りに(かみ)(たた)りなし

    人間の運気が強いときは神仏の力でもその勢いを止められない、の意。ほめるというよりは、「信じられない!」という驚きや「これはかなわない」というあきらめの気持ちを込めていう言葉ですが、「……といいますから、○○先生にはかないません」などと、冗談めかして○○先生の勢いをほめることもできるでしょう。同義の言葉に「血気(けっき)盛りに神祟らず」、「人(ひと)盛んにして神祟らず」があります。

  • 6(ひと)(おお)ければ[(さか)んなる時は](てん)()

    自民党員同士で国会に占める人数の多さを誇り、「これならなんでもできる」とニンマリするときによさそうです。

    史記‐伍子胥伝「人衆者勝譲天、天定亦能破譲人」

    伍子胥(ごししょ)は楚に生まれながら、父と兄を政争で失って呉に逃れた人物。呉が楚を破り、祖国に戻った伍子胥は、父と兄の仇であった平王の墓を掘ってその死体に三百回も鞭を打って恨みを晴らしたのでした(これが「死者に鞭打つ」の由来とされます)。そのことを聞いた昔の友人で今は敵となった申包胥(しんほうしょ)は、それを批判する手紙を送りました。用例はその一説。「人が多く集まれば天にも勝つ。が、天下が定まると天の正道が人を破る」。伍子胥はその手紙を読み、「吾(われ)、日莫(く)れて塗(みち)遠し」という名言を吐くのでした。

  • 7衆心(しゅうしん)(しろ)()

    中国のことわざで、多くの人が心を合わせれば、城のように堅固で破られない、という意味です。国民の改革を求める気持ちの強さが自民票に表れたととらえ、その強さを強調したいときに使えます。

    国語‐周語下「故諺曰、衆心成城、衆口鑠金」

    書き下すと、「ゆえにことわざにいわく、衆心城をなし、衆口(しゅうこう)金をとかす(民衆の声は金をとかすほどである)」。周の景王が大鐘を鋳造したとき、音楽官は資材を無駄に使い、民衆を苦しめている王の鐘は音が調和しないとし、民衆の大切さをことわざで訴えました。

  • 8(のみ)(いき)さえ(てん)に上(のぼ・あが)

    力の弱い者でも、一心になって行えば何事でもなし遂げることができるというたとえ。名もない市民が改革を切実に要求し、その結果として自民圧勝になったととらえると、こんな言葉も小泉首相をほめるのによさそうです。また、民の声を「天」ととらえると、小泉首相が勝利の喜びを表明する際にも向きます。「蟻の思いも天に届く」、「蝦蟇(がま)の息さえ天に上る」ともいい、「日国」では、「梅園日記-二」の「蟇(ひき)」がもとで、「蚤」は漢字を読み違えたものという説を紹介しています。

    かた言-五「蚤の息さへ天にあがるといふこと葉、ある人の云るは、農民の息さへといふこととぞ」

    「蚤」がさらに「農民」になったことを示す用例。今後の選挙では農村部をまわる際に「農民の息さえ天に上がる」を使うとよいでしょう。

  • 9(やぶ)るる(ぬの)二重(ふたえ)(ひさ)

    破れやすい布も二枚重ねれば丈夫になる、つまり、弱い者も協力しあうと強くなるという意味でいいます。公明党の協力で勝利した自民党議員のスピーチにいかがでしょうか。

  • 10(おんな)ならでは()()けぬ

    何事も女が加わらないとうまくいかない、という意味でいいます。男同士で飲みながら、世間の注目を集めた女性立候補者(現議員)の活躍を賞賛するときに使えます。由来は、天照大神(あまてらすおおみかみ)の天(あめ)の岩屋戸(いわやと)こもりの故事です。

    西洋風にいえば太陽神である天照大神が岩屋戸に引きこもったとき、世は暗闇になり、神々は天照大神を外に誘い出そうとイベントを行いました。このとき天鈿女命(あまのうずめのみこと)は、聖なる飾りを身にまとって踊っているうちに神がかりして、胸もあらわに、裳の紐を陰部に垂らしたといいます。これに神々が大喜びしていると、歓声が気になった天照大神が扉を開け、世の中は再び明るくなったのでした。

    女性側としては自分の活躍をストリップにたとえられるのは嬉しくないかもしれません。しかし、今後女性のおかげで日本が明るい国になれば、女性のほうから積極的にこの言葉を使う可能性もあります。

    また、日照りが心配されるときに降る雨については、「喜雨(きう)」で喜びの気持ちをストレートに表すのもいいでしょう。雨による経済的利益を前面に出したい場合は、「黄金(こがね)の雨」を。

    歌舞伎・裏表柳団画(柳沢騒動)-三幕「『天の岩戸の昔から』『この日の本の国風で』『女でなけりゃア、夜が明けねえ』」

    柳沢騒動と呼ばれる綱吉時代の大奥の勢力争いと、町人社会の同じような物語を平行して描いた作品から。用例は町人の物語のほうで、金持ちの愛人となった妻りうを使って旦那から土地の権利書を得たのを、りうの夫と兄が喜んでいるところです。このように悪事がうまくいったときだけでなく、女性社長の就任で会社の業績が伸びたとき、女性閣僚のおかげで内閣支持率が伸びたときなどにも使えます。女性の社会進出について考える際は、「この日本の国風」を今一度見直したいものです。

2005-09-20 公開