『日本近代文学大事典』増補改訂デジタル版リリース特集
※この記事は2022年時のものです。
第一回リリースを迎えて
中島国彦なかじまくにひこ
手元にある、『日本近代文学大事典』増補改訂作業のためのノートを取り出してみると、文学館の創立五〇周年記念事業の一環として、この計画を考え始めたのは、二〇一二年だったことがわかります。
元版を刊行してくださった講談社の出版部長に、紅野謙介理事と一緒にお会いしたり、デジタル版を作るにはどのくらいの費用がかかるかを調べました。
大変な予算がかかりますが、なんとか実現し、文学館の使命としても、新しい世代に、この事典の増補改訂を継続的に託したいとの一念でした。その後、安藤宏、宗像和重両理事にも加わっていただき、二〇一七年から、四名で推進することにしました。
デジタル版を作るという初めての体験で、作業を始めて、色々な問題点が出てきました。手探りで始めることになりましたが、日本文藝家協会から多額のご援助のお話があった時は、感謝の気持でいっぱいになりました。
信頼できるものを後世に残そうという思いで、文壇と学界がまた協力していく事業です。いよいよ第一回の成果が公開されます。公開を前にし、お世話になった多くの方々に、心からお礼申し上げます。
(日本近代文学館理事長・大事典編集委員)
デジタル化がもたらすもの
紅野謙介こうのけんすけ
事典とは本来、いまを捉え返すためのデータベースでなければなりません。では、どのように四〇年前の事典を甦らすことができるのでしょうか。デジタル版にすることは不可欠です。
ならば、完成版を当初から目指すのではなく、持続可能なデータベースを作る。それによって四〇年の空白を一度にうめるのではなく、段階的にうめていくことができるようになりました。出版社の支援なしで進めるためには、重要な決断でした。
安藤さんや宗像さんと議論を開始し、旧版記事の増補改訂、書き直し、新規項目といった三つのパターンを確定させ、一三名の編集委員に協力いただくことになりました。そのなかで未完のプロジェクトである以上、私たちの代で完結するのではなく、次世代にリレーしていくのだという心の余裕も生まれました。
旧版には村上春樹も村上龍もまだ登場していません。今は亡き中上健次や津島佑子がわずかな行数で紹介されるばかりです。
こうした作家たちについては、適切な執筆者をお願いし、あらためてゼロから書き直していただくことになりました。そして資料として旧版の記事を添えました。
当時、すでに主要な創作活動を発表していた作家たちには、晩年の活動と没後の評価を補記し、人名項目の増補を少しずつ行ったのです。
このデジタル版では、さらに新聞・雑誌の巻、事項の巻もデータベースに加わっています。
作家名から経糸、緯糸を探っていくなかでさまざまな記事がヒットするでしょう。それは紙の事典でないゆえの魅力のひとつです。
ぜひ、このデジタル版の事典を使いこなすことで、文学をめぐる見方を一変させていただきたい。そして何よりもこの事典の持続的な発展にご協力いただければありがたいと思います。

(日本近代文学館理事・大事典編集委員)
2025年02月14日
『日本近代文学館』館報 No.306 2022.3.15掲載
※この記事は日本近代文学館 館報の「『日本近代文学大事典』増補改訂デジタル版リリース特集」の転載です。執筆者の所属・肩書きは掲載当時のものです。