『美術新報』は明治35年3月に第1巻第1号を発行して以来、大正9年終刊号を出すまで、実に19年間(全300冊)の長きにわたり、わが国の美術ジャーナリズムの最高峰として、斯界に貢献するところ極めて大きなものがありました。と言いますのも、原本の刊行された明治末年から大正時代にかかる一時代は、あたかも、わが国の近代美術が確実な基盤を築き、ヨーロッパから移植された洋画も一応の定着を見せた時代であったからであります。すなわち、明治美術会、白馬会、太平洋画会などの発展から、文部省美術展覧会、国民美術協会の設立などにみられるアカデミズムの確立、そしてその反動勢力となった二科会の独立をはじめとする在野団体の出現とその活動、再興美術院の旗揚げによる伝統絵画(日本画)の近代化など、わが国近代美術史上の多彩にして重大な事項が相次いでおります。この時代にあって、『美術新報』は、その表題の示すように、他の美術雑誌に比して、「報道」ということに特別力を入れていたので、今日から見て、洋画、日本画は言うに及ばず、彫刻、建築、工芸― 時に、音楽、舞台、文芸など― 広範囲にわたって芸術一般の動向、作家の消息、団体展個人展の開催詳報などを伝え、資料的価値が極めて高いにもかかわらず、何分全巻完全揃いとして保存されるものが皆無という有様で、研究者の間に、その完全復刻が長く渇望されていました。
去る1983年から85年にかけて、著作権者の皆様からのご協力を頂き、『美術新報 復刻版』を書籍版にて刊行させていただきました。学校・図書館・研究者をはじめ各方面からご好評を賜り、品切れになっておりましたものを、2003年、DVD版として刊行いたしました。その際、検索データに、彙報欄記事12,000件のデータを加えましたところ、更なる高い評価をいただきました。その後パソコンのOSの変更によりDVD版の利用が難しくなりました。
この度、読者からの強い要望と昨今の情勢を鑑みて、ネットアドバンス社のジャパンナレッジLib に搭載することで、DVD版を凌ぐ使いやすさを実現することが出来るようになりました。ご利用いただきたくお願い申し上げます。
八木書店