令和六年版「有斐閣 判例六法プロフェッショナル」を世に送ります。
有斐閣は、平成元年(一九八九年)に、判例付きの六法として「有斐閣 判例六法」を創刊しましたが、それは、条文に対する判例の重要性を意識するとともに、六法に判例という「生きた法」を挿入することを通じて、これを利用する学生のみなさんが一見無味乾燥な条文の行間から生の人間や社会生活の在り様をも読み取り、法律を身近な存在として学習してほしいという意図によるものでした。ところが、このように主として学生の利用を念頭において編まれた同書の利用者層が、その後、当初の想定を超えて実務家にまで拡大し、それにつれて実務家の方々から収録法令の増加の要望が多数寄せられるにいたりました。そこで、平成一九年(二〇〇七年)に、同書とは別に、収録法令等を大幅に拡充した「有斐閣 判例六法プロフェッショナル」を新たに刊行したところ、幸いにも広い層から高い評価をもって迎えていただきました。
本年版では、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス取引適正化法)などを新たに収録し、出入国管理及び難民認定法、民法(親子法制)、刑法(性犯罪関係)、刑事訴訟法(逃亡防止関係)、民事執行法(IT化関係)、著作権法などの重要改正を織り込みました。近時の労働法分野における判例状況を踏まえ、本書の使いやすさを一層高めるために、本年版より労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)に新たに判例を付すこととしました。このほか、民法については、平成二九年に公布された改正(債権関係)前の旧規定を併せて掲載し、改正前後の対応関係を記した「民法改正条数対照表」も加えています(本書二〇二七頁及び添付資料)。
本書の特徴を述べれば、次のとおりです。
第一に、主要な法律について、条文ごとにそれと関係する重要判例を、一定の体系的見出しの下に整理配列していることです。その際、個々の判決の要約の仕方は、単に判例集の「要旨」をそのまま収録するのでなく、必要に応じて事実関係にも言及しつつ、「判決理由」(ratio decidendi)の核心を正確に抽出しています。さらに、当該判決を解説した「判例百選」「重要判例解説」等の文献や他の箇所に掲げられている関連判決をリファーすることによって、その判例の位置づけが理解できるようにしてあります。判例付きの法令の数は、「有斐閣 判例六法」よりも増加させました。本年版の「有斐閣 判例六法」は三三件の法令について判例を付していますが、それに加えて、本書では租税法総論、所得税法、法人税法、不動産登記法、製造物責任法、商業登記法、保険法、民事再生法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律、消費者契約法、金融商品取引法、不正競争防止法の一二件に判例を付け、さらに不動産登記法と商業登記法については、重要な通達・回答を掲げてあります。実務家の方々の利用にも耐え得ることを意図したものであり、本書をあえて「プロフェッショナル」と称する所以です。
第二に、「有斐閣 判例六法」に比べて、収録法令件数を大幅に増加させています(本年版で、「有斐閣 判例六法」が約一四〇件であるのに対し、本書は三七九件 )。この点でも、実務家の方々のご要望に応え得たと信じています。ただ、その結果、一冊本としてまとめるには製本上の制約があり、取扱いやすさなどの点も考慮して、分冊方式を採用しました。
第三に、利用者の便宜のために様々な工夫を凝らしています。「条文・参照条文」の部分と「判例」の部分を一見して識別するための二色刷りは、読者の要望に応えて本書創刊版から採用したものです。法令・判例の検索の便を図るため、主要法律について条文ごとに参照条文を付していることはもちろん、「総合事項索引」「事件名索引」「判例年月日索引」の各種索引を別冊としたほか、巻末資料として第一分冊には「全国裁判所管轄区域表」を、第二分冊には「印紙税額・登録免許税額一覧表」を掲載しています。なお、本書の内容締切後の法令・判例情報を掲載した「追録」につきましては、お申込みをいただいた読者の方に、明年四月下旬頃、贈呈することにしています。
有斐閣は、本書及び「有斐閣 判例六法」のほか、「六法全書」と「ポケット六法」を刊行しています。「六法全書」と「ポケット六法」は、判例の付かない伝統的法令集ですが、前者は収録法令が最も豊富な専門家用、後者は法学を学ぶ方々をはじめ、一般の利用者のための簡易携帯版です。そのなかで、私たちは、実務家や実務家を目指して高度な学習をされている方にはこの「有斐閣 判例六法プロフェッショナル」を、また法学の一般の学習者には「有斐閣 判例六法」を、それぞれ愛用していただければと考えています。
私たちは、読者の方々から率直なご希望・ご意見をお寄せいただくことが、本書をいっそう充実したものとしていくために不可欠なものと考えています。これまで同様、ご協力を切にお願い申し上げます。
令和五年(二〇二三年)九月一日
編集代表