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ヘリコバクター・ピロリ関連疾患

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ヘリコバクター・ピロリ関連疾患
へりこばくたーぴろりかんれんしっかん

ヘリコバクター・ピロリHelicobacter pylori(ピロリ菌)の感染が発病に関与していると考えられる疾患の総称。
 1980年代、オーストラリアの研究者・医師のバリー・マーシャルとロビン・ウォーレンは、胃炎と関連のある螺旋(らせん)状の菌について研究し、胃の強酸の環境下で生存するヘリコバクター・ピロリが胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍と関連があると考えた。マーシャルは慢性胃潰瘍の患者から培養したヘリコバクター・ピロリを自ら飲み込むことで胃炎を発症し、さらにその胃粘膜からヘリコバクター・ピロリの存在を示した。その後の研究で、抗菌薬を内服し除菌を行うことで、胃炎とピロリ菌感染が治癒したことから、胃炎とヘリコバクター・ピロリとの関連が認知されることになった。日本を含めた基礎研究や動物実験モデルを用いた研究、疫学研究などにより、ヘリコバクター・ピロリと慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がん発症との関連が明らかになってきた。1994年には国際がん研究機関(IARC)によって、ヘリコバクター・ピロリ感染が「グループ1(発がん性がある)」に分類された。
 ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼという酵素を産生しており、この酵素で胃粘膜内の尿素をアンモニアに分解することで胃酸を中和させ、酸性下でも感染を維持することが可能になっている。菌が産生する毒素(VacA)やムチナーゼ、プロテアーゼなどの分泌酵素が胃粘膜の傷害に関与するメカニズムや、感染した宿主細胞に注入されるエフェクター分子(CagAなど)が炎症反応を引き起こすメカニズムも、慢性炎症やがんの発生につながると考えられている。
 胃がんは長く日本人のがんによる死因の第1位であったが、近年、高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率は減少傾向が続いている。これはヘリコバクター・ピロリの慢性感染を有している人の割合が経年的に減少してきている(若年人口において感染率が低い)ことと関連しており、衛生環境や食生活の変化の影響と考えられている。
 また、ヘリコバクター・ピロリは、萎縮(いしゅく)性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの炎症疾患、胃がんのみでなく、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性腫瘍、さらには血小板減少性紫斑(しはん)病、機能性ディスペプシアなどとの関連も指摘されている。感染に対する免疫応答、炎症反応がさまざまな疾患発症の背景となっている可能性があり、除菌治療による影響を含めて、現在も幅広い領域で研究が進められている。
[渡邊清高]2019年5月21日

©SHOGAKUKAN Inc.

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