景気刺激や物価・金融市場の安定のため、中央銀行が市場に供給する資金量の増加を目標に行う金融緩和策。量的金融緩和のほか、英語の頭文字をとってQEともよばれる。中央銀行が将来の金融政策の方向性を公表するフォワードガイダンスと並ぶ、非伝統的金融政策の一つである。通常、中央銀行は誘導目標とする金利(政策金利)を引き下げて金融緩和するが、ゼロ%が下限で、これ以上の金利引下げ(金融緩和)はできなくなる。一方、量的緩和では、かりに金利がゼロ%に張り付いても、資金量増加を目標とするため市場に潤沢な資金を供給でき、一段の緩和効果を期待できる。一般に中央銀行は国債や有価証券などを市場から買い入れて量的緩和を実施し、資金量の目標値として通貨供給量、当座預金残高、マネタリーベース(資金供給量)などを用いる。日本経済のデフレーション傾向が鮮明になった2001年(平成13)3月、日本銀行が当座預金残高を目標に実施した緩和策(2001年3月~2006年3月)が量的緩和の世界初の実施例とされる。
リーマン・ショック後の世界金融危機とその後の景気後退に対処するため、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2008年から2014年まで量的緩和に踏み切り、金融危機前に1兆ドルであった資金供給量を最大4兆ドルまで増やした。ヨーロッパ中央銀行(ECB)も2015年から2018年まで量的緩和を実施した。日本銀行も2013年4月から量的緩和の一つである「量的・質的金融緩和」を導入したが、物価が当初目標とした水準まで上昇せず、量的緩和の終了時期を見通せていない。量的緩和は消費や投資を刺激するほか、自国通貨安による輸出競争力の向上などを通じて、デフレ傾向を強める先進国経済の下支え効果があるとされる。一方で、大量に供給された資金が新興国や原油などの商品市場へ流入するため、新興国の通貨危機や資源価格の乱高下の一因になっているという指摘もある。
2019年7月19日