日本大百科全書(ニッポニカ)

蜂窩織炎
ほうかしきえん
cellulitis 英語

真皮深層から皮下脂肪組織に生じ、急激に発症する細菌感染症。皮膚表面にびまん性に広がる境界不明瞭(ふめいりょう)な発赤を主徴とする。蜂巣炎(ほうそうえん)ともよばれる。
 発生頻度には基本的に人種差、男女差などはないが、比較的中高年以上に多い。類似疾患として「丹毒」は真皮に発症した境界明瞭な発赤、「リンパ管炎」はリンパ管の走行に沿った発赤を認めるが、臨床的には厳密な鑑別診断が困難な場合が多い。
[廣田彰男]2019年12月13日

感染経路とおもな症状

切り傷、刺し傷、真菌感染症などの小さな皮膚開口部から原因菌が侵入し発症するが、侵入部位を特定できない場合もある。糖尿病などの易感染状態(感染が生じやすい状態)、動物咬傷(こうしょう)、歯科領域や水中外傷での発症もありうる。悪寒、発熱、頻脈、頭痛などの全身症状を伴い突然発症し、その後皮疹(ひしん)が出現する場合が多い。皮膚所見としての局所の広範な発赤は、緊満感(パンパンに張った感じ)のある浮腫(ふしゅ)や熱感を伴うことが多く、中心部に皮下膿瘍(のうよう)を形成する場合もある。顔面や、とくに下肢によくみられ、近位の有痛性のリンパ節腫脹(しゅちょう)を伴う場合もある。ときに壊死(えし)性筋膜炎、菌血症や敗血症に移行する。
[廣田彰男]2019年12月13日

原因菌

おもな原因菌はA群β(ベータ)溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)、黄色ブドウ球菌などであるが、近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もみられる。診断は感染部位の所見が主体となるが、検査所見としては赤沈、白血球、CRP(C反応性タンパク)などの値の異常、レンサ球菌ではASO(抗ストレプトリジンO抗体)の高値を確認する。患部からの菌同定の可能性が低いこともあり細菌培養は必須(ひっす)ではないが、膿瘍などを形成した場合などはブドウ球菌を念頭に実施される。
[廣田彰男]2019年12月13日

治療

治療の目的は感染を根治し、再発や合併症を予防することである。患部安静挙上と冷却、および想定される原因菌に対応した抗菌薬の投与を、細菌培養の結果を待つことなく早期から開始することが重要である。
 抗菌薬は多くの場合に有効である。全身症状がなく比較的軽~中等症の場合は外来治療が適応となり、ペニシリン系、セフェム系などの一般的なβラクタム系抗生物質が理にかなった選択である。同剤にアレルギー等を有する場合はマクロライド系やクリンダマイシン系を考慮する。ニューキノロン系、第3・4世代セフェム系やカルバペネム系などは、培養で菌が同定された場合を除き、耐性菌発生の可能性を考慮し安易な使用は避ける。膿瘍などが形成されている場合は排液(切開排膿)が必要となる場合もある。MRSAに関しては培養結果を得てからの加療となる。
 全身症状を伴う重症例や経口薬が無効な場合などでは入院しての点滴治療が勧められる。抗菌薬の選択は上記の外来治療同様に考慮・選択されるが、多剤併用することもある。糖尿病性潰瘍(かいよう)に伴う場合は混合感染であることが多く、グラム陽性・陰性菌や嫌気性菌をもカバーする抗菌薬の選択が必要となる。膿瘍を伴うなどリスクが高い場合はMRSAを考慮したうえで薬剤が選択される。白癬(はくせん)菌が疑われる場合は抗真菌薬が使用される。
[廣田彰男]2019年12月13日

リンパ浮腫における蜂窩織炎

乳がんや子宮がんなどの術後後遺症として知られるリンパ浮腫では、その合併症として蜂窩織炎が生じることがあり、その治療は一般的な蜂窩織炎と比べ特徴的な面がある。
 腕や脚のリンパ浮腫においては、全身は健康である一方で、患肢はリンパ循環障害のための局所的な免疫不全および浮腫液の存在のために、易感染性となっている。そのため、一般の蜂窩織炎同様、小さな外傷や、脚では白癬菌などにより容易に蜂窩織炎を発症するが、全身症状を伴うことは少なく、あっても短期間で消退することが多い。感染源が特定できず、また発症に気づくことなく慢性的に経過している場合もある。
 発症は突然で、進展は速い。1~2時間で急速に発赤が拡大し、短時間でピークを迎える。通常の蜂窩織炎同様、発熱を伴うこともあるが、伴わない場合が多く、あっても1~2日で解熱することが多い。発症後3~4日は発赤が強く、局所に熱感も伴う。そのようないわゆる急性期を過ぎると自覚的には改善したように感じるが、患肢の発赤はその色調はさめつつも非常に長く持続する。基本的に疼痛(とうつう)(痛み)は伴わないので、明らかな疼痛を伴う場合は帯状疱疹(ほうしん)などとの鑑別を要する。
[廣田彰男]2019年12月13日

急性期の治療

治療は、典型的な発症を考えると理解しやすい。すなわち、突然脚(腕)が真っ赤になり高熱が出たら、すぐに医療機関を受診し、入院安静、患肢を冷やして抗菌薬を点滴で投与される、というのがわかりやすい。入院しない場合も同様で、自宅安静とし、患肢を冷やして抗菌薬を服用することで対応できるケースが多い。発症部位は患肢のみであり、基本的に全身状態は良好であるため、多くの場合ピークは1日程度である。よって、突然の発症に対しても冷静に対応することがたいせつである。ただし、悪寒・戦慄(せんりつ)を先発症状とした発症など、全身症状を伴う場合は、敗血症に移行する可能性もあるので医療機関での診察を要する。
[廣田彰男]2019年12月13日

急性期後の治療および再発の予防

急性期を過ぎた時期の、発赤がわずかに残存している場合の治療法および対応については、コンセンサス(専門家間の合意)がないのが実情である。しかしながら、発赤部の冷却は可能な限り必要であり、そうすることで患肢周径(周囲径)の減少も図ることができる。同時に、そのためには、炎症が誘発されないことを確認しながら、できるかぎり早めにリンパ浮腫治療用の弾性着衣の着用を再開することが望ましい。
 リンパ浮腫における蜂窩織炎は再発しやすいことが特徴であるので、その予防がきわめて重要であるが、その基本となるのは、患肢において菌の温床となる浮腫液の減少である。すなわち、急性期以降、できるだけ早期からリンパ浮腫の治療(複合的理学療法)を再開することが最善の予防法となる。頻発する場合は、抗菌薬の少量長期投与が有効な場合もある。
 リンパ浮腫における蜂窩織炎の起因菌はほとんどがA群β溶血性レンサ球菌であり、まれに黄色ブドウ球菌もありうる。したがって、抗菌薬はペニシリン系またはセフェム系が第一選択となる。
[廣田彰男]2019年12月13日