日本大百科全書(ニッポニカ)

オーバーツーリズム
おーばーつーりずむ
overtourism 英語

過度な観光客の増加に伴う渋滞や騒音、自然環境への悪影響などの弊害の総称。「over(許容範囲を超えた)」と「tourism(旅行)」を組み合わせた造語で、2016年ごろからアメリカで使われ始めた。日本では観光公害ともよばれる。オーバーツーリズムは大きく分けて、(1)住民の生活環境の悪化、(2)観光資源の劣化、(3)経済的な損失、という三つのマイナス効果を複合的にもたらす。(1)として、渋滞、事故、無断駐車、交通機関の混雑・遅延、ごみ投棄、騒音、トイレの不適切利用、民有地などへの侵入、治安悪化、(2)として自然破壊、景観悪化、落書きなどによる文化財損傷、(3)として観光地の魅力低下、観光客の満足度低下、踏み荒らしによる農作物被害、などの現象が起きている。古くからアンチツーリズム(反観光)やツーリズムフォビア(観光嫌悪)という概念はあったが、21世紀に入り、アジアなど新興国の中間所得層が海外旅行をするようになり、オーバーツーリズムは世界共通の課題となった。イギリスのオックスフォード大学出版局が2018年の「今年の言葉」候補に選び、世界的に広まった。
 スペインのバルセロナでは住民の抗議デモが起き、イタリアのべネチアでは市外転居住民が続出し、クロアチアのドブロブニクでは旧市街地への入域制限、フィリピンのボラカイ島ではクルーズ船乗入れ規制の動きがでている。日本でも京都市、鎌倉市、岐阜県白川村などでオーバーツーリズムが社会問題化した。オーバーツーリズム対策には、観光客の入域制限や事前予約制などの規制、入域の有料化、公共交通機関における地域住民の優先利用、補助による観光関連施設の整備、観光税の導入などによる対策財源の確保、観光場所・季節・時間の分散化などがある。国際機関であるグローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会(GSTC:Global Sustainable Tourism Council)は観光振興とオーバーツーリズム対策を両立させた「持続可能な観光」を実現するため、騒音、ごみ、交通の環境負荷などのGSTC基準を設定し、悪影響の最小化を目ざしている。
[矢野 武]2020年1月21日