日本大百科全書(ニッポニカ)

クレマー
くれまー
Michael Robert Kremer 英語
[1964― ]

アメリカの経済学者。ニューヨークのユダヤ人家庭で生まれる。専門は開発経済学。1985年にハーバード大学を卒業し、1992年に同大で経済博士号(Ph.D.)を取得。シカゴ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などを経て、1999年にハーバード大学教授に就任する。
 従来、開発経済学は、貧困などの原因を探り、途上国の成長モデルの理論研究に重点がおかれ、個々の政策の有効性は検証されなかった。クレマーは新薬開発で使われる、対象をランダムに選んで効果を厳密に検証する「無作為化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)」という手法を開発経済学に導入した先駆者である。1990年代なかばにケニア西部で、どのような政策が健康や教育問題の改善につながるかを実験的に検証し、無料の教科書配布、給食の無償化などはあまり効果がなく、寄生虫駆除薬の投与がもっとも費用対効果が高いことを示した。その後、MIT教授のエステル・デュフロやアビジット・バナジーらもインドなどでRCTを用いた実証実験を相次いで行い、どの政策が途上国の貧困・教育・公衆衛生などの対策に役だつかを実験で把握できる手法を確立した。RCTを活用した途上国支援策はRCT革命ともよばれ、2000年以降の国際復興開発銀行(世界銀行)などの国際機関や非政府組織(NGO)の政策決定、評価、提言に大きな影響を与えた。
 2019年、「世界の貧困問題の解決に向け、実験に基づく新たな手法を導入した」功績で、ノーベル経済学賞を受賞した。エステル・デュフロ、アビジット・バナジーとの共同受賞である。
[矢野 武]2020年2月17日