日本大百科全書(ニッポニカ)

ピーブルス
ぴーぶるす
James Peebles 英語
[1935― ]

カナダ系アメリカ人の宇宙物理学者、理論物理学者。カナダとアメリカ両国の国籍をもつ。カナダのマニトバ州ウィニペグ生まれ。1958年マニトバ大学卒業後、アメリカのプリンストン大学で、宇宙物理学者のロバート・H・ディッケRobert Henry Dicke(1916―1997)に師事し、1962年に物理学博士号を取得。1965年にプリンストン大学助教授、1972年教授、2000年名誉教授に就任。
 1920年代に宇宙が膨張し続けていることが確認され、宇宙がどのように創成されたかの研究が盛んに行われた。1940年代、宇宙は高温高密度の状態から始まり、爆発で膨張して誕生したとする「ビッグ・バン理論」がアメリカの宇宙物理学者ジョージ・ガモフらによって唱えられた。1960年代なかば、ディッケ、ピーブルスらプリンストン大学のグループはこのビッグ・バン理論を支持する証拠探しに取り組んでいた。ビッグ・バン理論では、宇宙は約138億年前のビッグ・バン(大爆発)で誕生し、当初は光と物質が充満した火の玉のような状態であったが、それがしだいに冷えて、誕生から約38万年後には光が物質にじゃまされずに進むことができるようになり、宇宙が一気に晴れ上がったとされる(宇宙の晴れ上がり)。この際、電磁波の一種である「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」が発せられたと予言したのがビーブルスである。ビーブルスらはCMBの観測に取り組んだが、1964年にベル研究所のアルノ・ペンジアス、ローバート・ウイルソンの2人が偶然にCMBの観測に成功した(この発見で2人は1978年にノーベル物理学賞を受賞)。この発見でビッグ・バン理論は急速にその重要性が認識されることになった。CMBは、大爆発によって物質の密度の濃淡ができたことを示した。物質密度の高いところを中心に銀河や銀河団など宇宙の大規模構造が形成されていったと考えられるが、ピーブルスは、CMBの濃淡のパターンは物質やエネルギーなどの大規模宇宙構造を決定する重要な要素であることを理論的に証明した。この理論を受けて、全天で宇宙マイクロ背景放射を観測するため打ち上げられたNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)の探査機「COBE(コービー)」は1992年に、CMBの温度の濃淡であるゆらぎを世界で初めて観測することに成功した。このゆらぎによって宇宙の大規模構造、銀河、恒星などがつくりだされることを証明し、ビッグ・バン理論の決定的な証拠となった。その後、同様にCMBを観測するNASAの探査機「WMAP(ダブリューマップ)」、ヨーロッパ宇宙機関(ESA(イーサ))の「Planck(プランク)」も、より原子宇宙の姿を明らかにするデータを提供した。こうした観測データやビーブルスの理論から、宇宙は約138億年前にビッグ・バンによって誕生したこと、宇宙全体の質量のうち、星やわれわれの体をつくっているヘリウム、水素などの普通の元素からなる物質は約5%しかなく、目に見えない未知の「暗黒物質(ダークマター)」が26%、正体不明の「暗黒エネルギー」が69%を占めることがわかった。ピーブルスの理論は、宇宙構造の謎(なぞ)に迫り、現代宇宙論の基礎を築いた。
 1982年イギリス王立協会フェロー、2004年ショウ賞天文学部門、2005年クラフォード賞を受賞。2019年、ビッグ・バン理論の基礎を築いたことが評価され、「宇宙物理学における新たな理論の発見」による業績でノーベル物理学賞を受賞した。「史上初の太陽に似た恒星を周回する(太陽)系外惑星の発見」の業績が評価されたスイス・ジュネーブ大学の名誉教授ミシェル・マイヨール、イギリス・ケンブリッジ大学の教授ディディエ・ケローとの同時受賞であった。
[玉村 治]2020年2月17日