イギリスの医学者。イングランド北西部ランカシャー生まれ。1965年から1971年までランカスター・ロイヤル・グラマー・スクールで学んだ。その後、ケンブリッジ大学のゴンビル・アンド・キーズ・カレッジ、ロンドンの聖(セント)バーソロミュー病院で医学を学び、1978年に卒業。1987年にケンブリッジ大学から医学博士号を取得した。オックスフォード大学に移り、1989年に独立した研究室を開設し、細胞の酸素応答、腎臓(じんぞう)で生成される赤血球増産ホルモン「エリスロポエチン(EPO)」の制御の仕組みに関する研究を始めた。1992年にオックスフォード大学講師、1996年に同大学の教授に就任した。2016年からロンドンのフランシス・クリック研究所の臨床研究部長も兼ねる。
ラトクリフは、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、当時、血液中の酸素が少なくなると腎臓でEPOが増える仕組みの解明を進めていたが、EPOは腎臓だけでなく、肝臓や脳など他の臓器でも、酸素が少なくなるとつくられることを確認した。その後、ジョンズ・ホプキンズ大学教授のグレッグ・セメンザが、酸素が少ない環境下ではEPOの産生を促進するタンパク質「HIF」(低酸素誘導因子)が核内で産生されること、そしてその材料となる「HIF-1α(アルファ)」が細胞内に蓄積されることを発見。ハーバード大学教授のウィリアム・ケリンが、がん抑制遺伝子のVHLが、HIF-αの産生に深くかかわっていることを明らかにするなかで、ラトクリフは、酸素が十分に存在するときは、VHLがHIF-1αに結合して、細胞内のプロテアソームというタンパク質分解酵素複合体で分解されるという酸素応答の仕組みを明らかにした。さらに、ラトクリフとケリンは、2001年にVHLがHIF-1αに結合する際、酸素が豊富にある環境下では、酸素を構成するヒドロキシ基(OH基)二つがHIF-1αにくっつくことで、VHLが認識できることを同時に発表した。ラトクリフらの業績は、貧血やがん、ほかの多くの疾患の治療薬の開発に道を開くことにつながった。
2010年にガードナー国際賞、2016年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞のいずれをも、セメンザ、ケリンとともに受賞。2019年には同じく3人で「細胞が低酸素状態を感知し、応答する仕組みの発見」による業績でノーベル医学生理学賞を共同受賞した。
2020年2月17日