陸上競技の種目の一つ。トラックあるいは道路で一定の距離を定められた歩型で歩き、そのタイムを競う。選手は(1)「両足が同時に地面から離れる(ロス・オブ・コンタクト)ことなく歩く」ことを義務づけられており、(2)その際、前に出した脚(あし)は接地の瞬間から垂直の位置になるまで、まっすぐに伸びていなければならない。つまり膝(ひざ)を曲げること(ベント・ニー)がないようにしなければならない。審判は、このロス・オブ・コンタクトとベント・ニーの2点の違反があるかどうかの判定方法として、(1)選手の前に出した足は、後ろ足が地面から離れる前に地面についたかどうか、(2)各ステップの間に、前に出した脚の膝が選手の体の真下になったとき、完全に伸びているか、を目視で判定する。違反しているおそれがあるときは、まずイエローパドルで選手に「注意」を与える。同じ審判から同じ違反での「注意」は一度に限られ、審判は「ロス・オブ・コンタクト」あるいは「ベント・ニー」の違反があると判断した場合は、「警告」のレッドカードを競歩審判主任に提出する。3人以上の審判からレッドカードが出された場合、選手は失格またはペナルティゾーンに入るよう指示され、失格の告知を受けた選手はただちにコースから離れなければならない。ペナルティゾーンに入った選手は所定の時間、たとえば20キロメートル競歩は2分、50キロメートル競歩は5分、その中でとどまらなければならない。違反した場合は失格となる。レース終了間際でペナルティゾーンに入ることができない場合は、所定の時間を加えて、記録と順位を修正する。いかなる場合もレッドカードが4枚以上出た場合は失格となる。フィニッシュ地点が競技場内の場合は競技場内、競技する場所がトラックのみかまたは道路のみの場合は、残り100メートルからフィニッシュまでの間で、選手の歩型に明らかに違反があると判断した場合、審判主任はそれまでに出されたレッドカードの有無にかかわらず、違反した選手を即刻失格させる権限をもつ。これはラストスパートでの違反を阻止するための措置である。レースは、トラック内を周回する場合と道路に出る場合があるが、オリンピックでは道路で行われる。
ローマ時代の軍事訓練を競技として取り入れたのが競歩の始まりといわれ、オリンピック種目になったのは1908年のロンドン大会からである。最初は距離が一定しなかったが、1932年のロサンゼルス大会から正式に50キロメートル競歩となり、陸上競技種目のなかではマラソンを上回るもっとも長い距離の種目となった。さらに1956年のメルボルン大会からこれに20キロメートル競歩が加わった。オリンピックでは長い間、男子種目だけで行われていたが、1992年のバルセロナ大会から女子も新種目として採用された。距離は当初10キロメートルであったが、2000年のシドニー大会からは20キロメートルに変更。日本の全国高等学校総合体育大会では男女とも5000メートル競歩が行われる。
10キロメートルを超えるレースでは、周回ごとに飲食物供給所を設置、さらに、水・スポンジの供給所をその中間点に置く。飲食物は主催者または選手が準備し、供給所に置かなければならない。飲食物はとりやすいように置くが、主催者に許可された者が選手に渡してもよい。ただし、テーブルの前に出たり、選手と並んで移動したりしてはいけない。飲食物供給所以外で飲食物をとった選手は1回目で警告、2回目で失格となる。
2020年3月時点での世界記録は、20キロメートル男子が鈴木雄介(日本。1988― )の1時間16分36秒(2015年)、女子が劉虹(りゅうこう)(中国。1987― )の1時間24分38秒(2015年)、50キロメートル男子がヨアン・ディニズYohann Diniz(フランス。1978― )の3時間32分33秒(2014年)、女子が劉虹の3時間59分15秒(2019年)である。
2020年4月17日