日本大百科全書(ニッポニカ)

短距離競走
たんきょりきょうそう
sprint 英語

陸上競技のトラック競走のうち、距離による分類の一つ。オリンピック種目では100メートル走、200メートル走、400メートル走がこれに入る。選手はスターティング・ブロックを用い、両手を地面につき両足を前後に開いたしゃがんだ姿勢から走り出すクラウチング・スタートが義務づけられている。走路(レーン)は右側の幅5センチメートルの白線を含めた1.22メートル幅(2004年1月1日以前の建造物は1.25メートル幅でもよい)で等間隔に区切られており、選手は与えられたレーン内を最後まで走らなければならない。レーン外を走った場合でも他の選手の進行を妨害したり、実質的な利益を得たりしていない場合は失格とはならない。
 100メートル走はスタートからフィニッシュまで直線コースを走る。200メートル走と400メートル走は曲走路も使うため、外側と内側の選手の走距離が同じになるよう、スタート位置はコーナーに階段状(外側の選手がより前に出る形)に設けられる。スターターの「On your marks(位置について)」、「Set(用意)」の合図から競技者が静止した状態でピストルが撃たれる。ワールドアスレティックス(世界陸連)が承認したピストルとスターティング・ブロックが連動したスタート・インフォメーション・システムが用いられているときは、号砲からブロックに一定の荷重がかかる反応時間(リアクション・タイム)が0.100秒未満の場合など、スターターが不正スタート(フライング)と判断した場合は1回の不正スタートで失格となる。100メートル走と200メートル走では、走者の真後ろから受ける追い風の平均秒速が2メートルを超えた場合は、「追い風参考」として記録は公認されない。風速は、100メートル走はスタート後の10秒間、200メートル走は先頭の走者が直送路に入ってからの10秒間を計る。
 100メートル走、200メートル走とも柔らかく弾力のある筋肉をもつ選手が強く、オリンピックでは男女とも黒人選手の独壇場である。男子ではアメリカのジェシー・オーエンス、カール・ルイスCarl Lewis(1961― )や、ジャマイカのウサイン・ボルトUsain Bolt(1986― )、女子ではアメリカのフローレンス・グリフィス・ジョイナーFlorence Griffith-Joyner(1959―1998)など、いずれも黒人選手が400メートルリレーを含むオリンピックの「短距離3冠」に輝いている。
 なおオリンピックでは、男子は100メートル走、400メートル走が1896年のアテネ大会から、200メートル走が1900年のパリ大会から行われ、女子は100メートル走が1928年のアムステルダム大会から、200メートル走が1948年のロンドン大会から、400メートル走が1964年の東京大会から行われた。
 2020年3月時点での世界記録は、100メートル走男子はボルトの9秒58(2009年)、女子はジョイナーの10秒49(1988年)。200メートル走男子はボルトの19秒19(2009年)、女子はジョイナーの21秒34(1988年)。400メートル走男子はウェイド・バンニーキルクWayde Van Niekerk(南アフリカ共和国。1992― )の43秒03(2016年)、女子はマリタ・コッホMarita Koch(当時東ドイツ。1957― )の47秒60(1985年)である。
[加藤博夫][中西利夫]2020年4月17日

パラ陸上(障害者陸上競技)

パラ陸上もほぼ同じルールで行われるが、視覚障害の全盲クラスなどでは、競技者がアイマスクなどを着用し、両端に握り用の輪がついた長さ30センチメートル以下のガイドロープ(テザー)を握ってガイドランナーといっしょに走る。そのため、競技者1人に対して2レーンが用意され、8レーンのトラックだと競技者は最大4人までとなる。ガイドランナーもスターティング・ブロックを使用しフライングが適用されるほか、選手を引っ張ったり、先にフィニッシュラインを通過したりすると失格となる。聴覚障害者の場合は音を聞いてスタートできないため、ピストルにあわせて光るシグナルを使うケースもある。最近は義足の開発が進み、カーボン繊維製で板を曲げたような競技用義足の登場で競技力が飛躍的に向上した。パラ陸上選手でも世界陸連が認め、参加標準記録などの出場資格を満たせばオリンピックへの参加が可能で、「ブレードランナー」の異名をもつ両脚義足のオスカー・ピストリウスOscar Pistorius(南アフリカ。1986― )は2012年ロンドン大会の男子400メートル走と1600メートルリレーに出場し大きな注目を集めた。
[中西利夫]2020年4月17日