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日本大百科全書(ニッポニカ)

転炉

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転炉
てんろ
converter 英語

高炉からの溶銑(ようせん)を溶鋼に精錬する製鋼炉。銑鉄を鋼に転化convertする炉という意味。また洋ナシ形の炉体は両側で支持されて前後に回転でき、これも転炉という名称と呼応する。
 転炉は1856年イギリスのベッセマーにより発明された酸性底吹転炉に始まり、1879年イギリスのトーマスによる塩基性底吹転炉、第二次世界大戦後の純酸素上吹転炉、酸素底吹転炉、さらに上下吹複合吹錬転炉へと発展を続けている。
[井口泰孝]

ベッセマー転炉

炉体は珪石(けいせき)れんがで内張りされ、上部に炉体中心線より偏心した装入、排滓(はいさい)、出鋼用の炉口をもつ。炉底は空気吹き用羽口(はぐち)をもち交換可能である。炉の容量は1回で精錬できる溶鋼のトン数で示し、30トンに近いものもある。溶銑を装入し、吹き込んだ空気中の酸素により溶銑中のシリコン、マンガン、さらに炭素が燃焼し温度が上昇する。約20分間で鋼になるという、燃料を要しない非常に効率のよい製鋼炉である。炉の加熱面が酸性材料で裏張りされているため酸性スラグで精錬する。したがって、溶銑中のリン、硫黄(いおう)を除去できないので、低リン、低硫黄のヘマタイト銑が必要であり、高品位鉱を産するアメリカ、ソ連、北欧で発展したが、現在は用いられていない。
[井口泰孝]

トーマス転炉

形状はベッセマー転炉と変わらないが、耐火物に塩基性ドロマイトを用い、塩基性スラグで精錬するため、脱リン、脱硫が可能である。ただし塩基性であるからシリコンの低い溶銑を必要とし、シリコンの酸化発熱を利用できないため2~2.5%のリンの酸化熱を必要とする。高リン鉄鉱石を産する西欧で発展し、かつてフランス、ベルギー、ルクセンブルクでは製鋼法の主流を占めていた。本法によるリン含有量の高いスラグはトーマスリン肥として肥料になる。
 これら空気底吹転炉では耐火物の種類と発熱源に対応して溶銑成分に制限があり、空気吹きのため窒素による熱損失と同時に、窒素が溶鋼に吸収され、鋼の性質に悪影響を及ぼす。これが、転炉が生産性が高く、省エネルギーの製鋼炉でありながら平炉に圧倒された大きな原因である。このため酸素富化が行われ、窒素の問題は改善されたが、脱リンによる溶鋼中の酸素が高くなる欠点は残った。また酸素富化による羽口溶損の点で富化に限界があった。
[井口泰孝]

純酸素上吹転炉

LD転炉ともいう。炉体の中心線上の炉口よりランスを溶銑直上に降ろし、純酸素ガスを吹き付け吹錬する。炉底は羽口がなく炉腹と一体で、炉腹上部に出鋼孔がある。耐火物は塩基性で、マグネシア、タールドロマイト、マグカーボンれんがが用いられている。酸素上吹きはベッセマーの特許にもみられるが、当時は酸素が高価で実現しなかった。その後リンデ‐フレンケル法により高純度の酸素が安価になり製鋼への利用も可能になった。純酸素上吹転炉法はドイツのデューラーR. Durrerにより1946年スイスで半工業化に成功、その後オーストリアのリンツとドナビッツで工業化された(1953)。LD法という名称はこれらの地名の頭文字によるともいわれている。本法は低窒素鋼が容易に得られ、廃ガスへの熱損失が少なく熱効率が高く、溶銑成分にとくに制約がなく、また30%程度のくず鉄の配合も可能である、など非常に大きな特徴をもつ。そのため第二次世界大戦後の復興期の日本、ヨーロッパで急速に発展した。高リン銑を産するヨーロッパでは、酸素とともに粉状の生石灰を吹き付け脱リンに有効なスラグの生成を促進させるLD‐AC法(OLP‐OCP)、またスラグと金属間の反応を促進させるため炉体を傾斜あるいは横型として回転させるカルドー法、ローター法なども開発された。
[井口泰孝]

純酸素底吹転炉

溶鋼の攪拌(かくはん)が非常によく精錬反応が促進される底吹法では、羽口、炉底耐火物の損耗という問題点があり、純酸素の導入が困難であったが、1965年カナダで炭化水素系ガスを同時に吹き込み、この分解の吸熱冷却を利用する二重管羽口が開発された。この羽口を利用することにより西ドイツで純酸素底吹転炉法(OBM)の工業化に成功した(1968)。アメリカではUSスチール社が開発し、Q‐BOPと名づけた。フランスでは冷却剤に液体燃料を使うLWS法が開発された。底吹きでは、スラグ中の酸化鉄が少なく、鋼の歩留り向上、溶鋼中の酸素の低減という利点があるが、水素の増加という欠点もある。
[井口泰孝]

上下吹複合吹錬転炉

純酸素上底吹転炉、上底吹転炉ともいう。底吹きと上吹きの利点の両方を生かすため開発された転炉で、底吹き羽口の冷却にアルゴンや炭酸ガスを用いる形式のものもある。
 以上の純酸素を用いる製鋼法は塩基性酸素製鋼法(Basic Oxygen Process=BOP)と総称される。転炉の容量で400トンに近いものもあり、廃ガスの回収装置や種々の感知装置を取り付けコンピュータ制御を行うなどし、現在の粗鋼の多くを生産する。また、炉外精錬が盛んになり、転炉の役割が変わりつつある。炉外精錬とは、溶銑を転炉へ装入前に、取鍋(とりべ)やトーピードカーtorpedo car(混銑車)で脱ケイ、脱リン、脱硫などを行ったり、転炉より出鋼後、溶鋼を真空下でさらに脱炭、脱酸、脱窒を行うことである。
[井口泰孝]

©SHOGAKUKAN Inc.

メディア

トーマス転炉と純酸素上吹転炉の構造

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