ユズリハ科(APG分類:ユズリハ科)の常緑高木。幹は直立性で上部は多く分枝し、高さ10メートルに達する。葉は枝先に集まって互生し、長楕円(ちょうだえん)形で長さ15~23センチメートル、全縁で先は短くとがり、革質で光沢があり、裏面は白緑色を帯びる。葉柄は長く、淡紅色を帯びた緑色。雌雄異株。5~6月、枝先近くの葉腋(ようえき)に総状花序をつくり、小さな黄緑色花を開く。花被片(かひへん)はなく、雄花は6~10本の雄しべを放射状に出し、中央に退化雌しべがあるものもある。雌花は1本の雌しべからなり、その基部に不規則に数本の退化雄しべをつけるものもある。核果は楕円形で長さ約1センチメートル、青黒色を帯びる。山地の林中に生え、中部地方以西の本州から四国、九州、沖縄、および朝鮮半島、中国中南部に分布する。名は、初夏、旧葉と新葉がまとまって交代するのがとくに明瞭(めいりょう)なためついた。広く庭園樹として植栽される。
変種エゾユズリハ(ヒナユズリハ)は北海道から本州の日本海側に生え、低木で高さ約2メートル。葉は母種より、やや小さい。近縁種ヒメユズリハD. teijsmannii Zolling. ex Kurz.は高さ約10メートルに達する。葉はユズリハより小さく、裏面はユズリハほど白色を帯びず、核果もより小さい。雌、雄花ともに、細い爪(つめ)状の花被片がある。海岸樹林中に生え、中部地方以西の本州から九州に分布する。
2020年5月19日
ユズリハは、春若葉が生じてから古葉が落ち、新旧の葉の交代が目だつことから譲葉(ゆずりは)とよばれたといい、また葉の主脈が太く弓の弦(つる)に似ていることから弓弦葉(ゆづるは)の名が出たともいう。父子相譲して継承する意味をもたせ、新年や祝事の飾り物として用いられる。
認識は古く『万葉集』の2首に名がみえる。巻14の譬喩(ひゆ)歌で「何(あ)ど思(も)へか阿自久麻山(あじくまやま)のゆづる葉の含(ふふ)まる時に風吹かずかも」と詠まれているが、そのユズリハは少女のたとえとされる。葉柄だけが赤く色づくユズリハを、成熟していないと見立てたのであろう。ユズリハは九州などではツルノハとよばれる。ユズリハの葉の表は青いが、裏は白っぽく、また葉柄は赤い。これを頭の赤いタンチョウヅルと結び付けたのであろうか。ユズリハが縁起物にされるのは鎌倉時代から記録に残り、藤原知家(ともいえ)は「これぞこの春を迎ふるしるしとてゆずるはかざし帰る山人」(『夫木集(ふぼくしゅう)』)と歌った。はっきり正月に用いるとした記述は『壒嚢鈔(あいのうしょう)』(1446)が古い。『枕草子(まくらのそうし)』には、葉を食物敷き、木を歯固めに使ったことが載る。
2020年5月19日