日本大百科全書(ニッポニカ)

国外財産調書制度
こくがいざいさんちょうしょせいど

富裕層が海外にもつ財産の課税逃れを防ぐための制度。海外資産を正確に申告しない事例や租税回避地(タックス・ヘイブン)を利用した国際的な課税逃れが増えているため、日本では国外送金等調書法(平成9年法律第110号、正式名称は「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」)に基づき、2014年(平成26)から導入された。日本の税務当局にとっては、海外での税務調査はむずかしく、富裕層に自主的な海外資産の情報開示を促し、所得税や相続税の課税逃れを防ぐねらいがある。対象は年末時点で海外に5000万円を超える銀行預金、不動産、有価証券(株式や債券)、貴金属・骨董(こっとう)品などの財産をもつ個人(日本の居住者)。翌年3月15日までに、海外資産の種類や保有残高(ストック情報)などを明記した国外財産調書を税務署へ提出する義務がある。2020年度(令和2)の税制改正により、同時に、銀行預金の入出金、有価証券の配当・売却益、不動産の賃貸借や購入・売却など海外のお金の流れ(キャッシュ・フロー情報)を示す全取引記録の保管を促す。保管は義務ではないが、税務調査で提出を求められた際に提出できないと、追加課税や罰則を受ける。税務調査で申告漏れを指摘された場合、国外財産調書と取引記録の両方を提示すれば加算税を5%軽減されるが、取引記録の提示がなければ10%の加算税が課される。国外財産調書を提出しなかった場合は加算税は5%重く15%となり、さらに取引記録の提示もないと20%の加算税が課される。虚偽内容を提出したり、正当な理由なく故意に提出しなかったりした場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。従来は国外財産調書の年1回の提出のみでよかったが、2020年度税制改正により2020年分の所得税および2020年4月以降に取得する資産の相続税から税逃れ防止強化策を適用した。
 国税庁によると2018事務年度(2018年7月~2019年6月末)に提出された国外財産調書は9551件にとどまる。同年度の申告漏れは763億円に達し、このうち約4割の328億円が海外資産をもつ富裕層の申告漏れであった。国税庁は2019年5月、会社役員が故意に国外財産調書の提出を怠ったとして、初めて国外送金等調書法と所得税法違反で刑事告発した。
[矢野 武]2020年5月19日