日本大百科全書(ニッポニカ)

ドレッシング材
どれっしんぐざい

皮膚潰瘍(かいよう)や褥瘡(じょくそう)(床ずれ)などの創傷の表面に貼付(ちょうふ)することで、その閉鎖された空間を乾燥させず生体由来の体液などで湿らせた環境(湿潤環境)に保持することにより、速やかに治癒に導くための医療用材料。湿潤療法をより有効に行うために開発された。その素材によりさまざまな種類があり、創傷の状態に応じて使い分けることが重要である。創傷被覆材ともいう。
[安部正敏]2020年5月19日

概要

ドレッシング材の使用がもっとも効果的な創傷は、創面(傷口)の体液由来の滲出(しんしゅつ)液中に十分な増殖因子が存在する急性期(受傷後早期)の創傷である。つまりドレッシング材は、治癒が進行する、創の深さが比較的浅い時期が、使用をもっとも考慮すべき時期である。市販されている絆創膏(ばんそうこう)が、従来の創面を乾かすタイプから湿潤環境を保持するタイプの製品に変化したのは、その使用目的が日常で健常人がよく経験する擦り傷などの急性創傷に使用されることが多いからである。ただし、旧来の絆創膏が乾かすタイプであったのは局所感染をおこしにくいからであり、ドレッシング材に近い絆創膏の登場は、新たに局所感染の問題を生んだのも事実である。
 ドレッシング材は、病変部の細菌感染に十分注意することを前提として、創面および創周囲の皮膚の状態や患者の全身状態、ドレッシング材自体の特性を考慮しながら、使用する種類と使用時期を選択する。また、ドレッシング材では湿潤環境の保持とともに、褥瘡の原因となる外圧の分散や病変部の保護作用が期待できることは大きなメリットである。さらに、実際に処置を行う看護師や家族などの負担も減ずることができるほか、滲出液吸収量を推定できるようにくふうされたドレッシング材も登場している。
[安部正敏]2020年5月19日

種類

2019年現在、国内で使用されているおもなドレッシング材は以下のとおりである。
(1)ハイドロコロイド
創部に固着することなく湿潤環境を維持する。創部の乾燥によって生じる痂皮(かひ)(かさぶた)の形成を防ぐ。また、創部を閉鎖し、露出した神経末端が空気にさらされることを防ぐ。これによって、浅い創傷に特有のひりひりする痛みを軽減することができる。
(2)ハイドロジェル
湿潤環境を維持して肉芽や上皮の形成を促進するとともに、速やかな冷却効果により炎症を抑えて痛みを軽減する。また、透明素材なので創面の観察が可能である。
(3)ポリウレタンフォーム
本材重量に比較して約10倍の滲出液を吸収し、適切な湿潤環境を維持して肉芽や上皮の形成を促進する。また、創部接触面は非固着性ポリウレタンネットのため、創面からずれても形成された皮膚をはがしにくい。
(4)アルギン酸ドレッシング
本材重量に比較して10~20倍の吸収力がある。多量の滲出液を吸収してゲル化し、創面に湿潤環境を維持することにより治癒を促進する。また、接触面でアルギン酸塩中のカルシウムイオンと血液・体液中のナトリウムイオンの交換がおこり、カルシウムイオンは濃度勾配(こうばい)により毛細血管内に拡散する。これにより止血作用が得られる。
 これらさまざまなドレッシング材を適切に使用することで、従来のガーゼによる治療に比較し、治癒期間が短縮できる。また、介護者の労力も軽減できる。
[安部正敏]2020年5月19日

合併症

ドレッシング材の短所としては、細菌感染がおこりやすいことである。近年では創部の観察が可能な透明なドレッシング材も登場しており、感染防止や感染の早期発見の面からは有用である。
 また、スルファジアジン銀を含有した抗菌性ハイドロコロイド創傷被覆材など、従来の製品より細菌感染をおこしにくいものも登場しており、ドレッシング材の応用範囲は拡大してきている。
[安部正敏]2020年5月19日

注意事項・禁忌

創面が細菌感染をおこしている場合、ドレッシング材を用いた治療は禁忌(実施してはならない)である。近年は、ドレッシング材に準じた絆創膏タイプの製品が市販されているが、細菌感染の問題から貼(は)りっぱなしは避けるべきであり、少なくとも毎日、傷をきれいに洗ったうえで新品と交換すべきである。
[安部正敏]2020年5月19日