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日本大百科全書(ニッポニカ)

うつ病

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うつ病
うつびょう

気分がひどく落ち込む、何事にも興味をもてなくなる、といった精神症状のために、精神的に強い苦痛を感じたり日常の生活に支障が現れたりしている状態をいう。

分類・疫学

うつ病は、以前は遺伝や体質による内因が関与している内因性うつ病と、精神的・心理的な心因が強く関与している心因性うつ病ないしは神経症性うつ病とに分けて考えられていた。しかし、現在は病因がまだ解明されておらず、いわゆる内因性うつ病でも初発の場合には誘因が存在していることが多いこと、また、心因性うつ病とよばれる病像を呈する場合でも脳内に変化が起きていることなどから、こうした内因性、心因性という分類は国際的には使われなくなった。うつ病は、単一疾患ではなく、複数の異なる病因によって引き起こされている症候群と考えられている。
 うつ病にかかる人の割合であるが、日本の地域調査(2002年度)では6.5%の人が一生に一度うつ病にかかり、高齢者よりも若い人たちのほうがかかりやすいと報告されている。世界的に男性よりも女性のほうが1.5~2倍近くうつ病にかかりやすいが、症状や治り方については男女差が認められていない。うつ病を経験した人のうち専門医療機関を受診した者は18%、一般診療科を受診した者は8%であった。
 うつ病像を主要な症状とする精神疾患には、中核的なうつ病(大うつ病とよばれたこともある)に加えて、軽症のうつ症状が2年以上続いている持続性抑うつ障害(気分変調症)、月経開始前に症状が認められる月経前不快気分障害、治療薬、アルコールや違法薬物、慢性疼痛(とうつう)や冠動脈疾患、糖尿病、甲状腺(せん)疾患などの身体疾患によって引き起こされた物質・医薬品性抑うつ障害、小児期に激しい暴言や衝動行為などが認められる重篤気分調整症などがある。日本では一時、うつ症状のために仕事ができない反面、私生活では自由に活動できる状態を新型うつ病とよんだことがあるが、定義的にもうつ病とは診断できず学問的裏づけもないことから、そうした名称はしだいに使われなくなった。
[大野 裕]2020年7月21日

症状と診断

うつ病の代表的な症状を以下にあげる。
(1)悲しみや空虚感を患者自ら訴えたり、他の人からわかったりする状態がほとんど1日中、ほとんど毎日認められる。小児や青年ではいらいらした気分になることもある。
(2)ほとんどすべての活動に対する興味や喜びが著しく減退した状態が、ほとんど1日中、ほとんど毎日続く。
(3)著しい体重減少、あるいは体重増加(1か月で体重の5%以上の変化)、食欲の減退または増加。小児の場合には、成長に伴う体重増加がみられないことがある。
(4)不眠または睡眠過多。
(5)行動抑制や焦燥感による行動の増加が明らかに観察できる状態が毎日続く。
(6)疲れやすさ、または気力の減退。
(7)自分に価値がないという思いや極端に偏った罪責感。
(8)思考力や集中力の減退、決断困難。
(9)死についての反復思考、反復する自殺念慮、自殺企図、または明確な自殺の計画。
 うつ病と診断されるためには、上記の九つの症状のうち、(1)うつ気分か、(2)興味や喜びの喪失のどちらかの症状を含む五つ以上の症状が存在している必要がある。しかもそれに加えて、期間(ほとんど毎日1日中、2週間以上持続)と障害の強さ(症状のために社会的、職業的、または他の領域における障害が生じている)の基準を満たしていなくてはならない。ちなみに、うつ病を診断できる血液検査や脳画像、脳波などの生物学的指標は存在していない。
 うつ病のときには、頭重感や肩こりなどの身体症状を呈することも多く、とくに高齢になるとその傾向が強くなる。身体症状のために抑うつ感などの精神症状に気づきにくくなることがあり、身体症状という仮面に隠されているとして仮面うつ病という表現が使われることもある。
 うつ病は、他の精神疾患と併存することが多く、それには、物質使用障害、パニック症、強迫症、神経性やせ症、神経性過食症などがある。
[大野 裕]2020年7月21日

要因と治療

うつ病にはだれでもかかる可能性があるが、その発症には、気質(自尊心が低い、外的ストレス対処能力が低い、悲観的)や環境(虐待やネグレクト、低所得など、ストレスの多い子ども時代や生活環境)など、いくつかの要因が関係していると考えられている。
 うつ病の治療は、環境的なストレス要因を軽減し、周囲から支援が受けられるようにする社会的アプローチを行いながら、薬物療法などの生物学的アプローチや精神療法(心理療法)などの心理的アプローチを併用する。
 生物学的治療の代表が薬物療法であるが、一般には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)かセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった抗うつ薬を、単剤で最小容量投与することから開始する。抗うつ薬は、1~2週間ずつ漸増し、1、2か月で最大容量にまで増量して、1、2か月ようすをみるようにする。
 抗うつ薬による薬物療法の効果は1~2週で現れることもあるが、慌てて判断しないで4~8週かけて判断すべきである。効果が現れて症状が消失した場合には、4~9か月間、投薬を継続する。
 抗うつ薬の代表的な副作用としては、消化器系、心血管系、神経系、抗コリン作用、性機能障害などがあり、こうした副作用が出た場合には減量ないしは薬剤を変更する。また抗うつ薬の服用初期に不安、焦燥、不眠などの賦活(ふかつ)症状が現れることがあり、またSSRIでは急激に中止するとめまい、歩行不安定感、吐き気、頭痛などの中止後症状群が現れることがあるので注意が必要である。中止後症状群は、再投与で通常24時間以内に回復する。
 強い不安が認められる場合には抗不安薬、また焦燥感が強く妄想的な傾向が認められる場合には抗精神病薬を併用することがある。不眠が強い場合には、生活指導を行うとともに、睡眠薬を使用する。なお、抗不安薬や睡眠薬を使用する場合には、依存の可能性を念頭に置いて注意深く経過を観察する必要がある。
 なお、自己治療の手段としてアルコールを用いる人がいるが、アルコールは抑うつ感を強めたり睡眠を浅くしたりする薬理作用や、自殺衝動を高めたりすることもあるので、うつ病のときには控える必要がある。
 薬物療法や精神療法で手を尽くしても効果が認められない場合の生物学的アプローチとして、電気けいれん療法(ECT:electroconvulsive therapy)や磁気刺激療法(r-TMS)などがある。
 うつ病の治療において、薬の役割は大きいが、薬だけですべてを解決できないことも多い。認知療法(認知行動療法ともいう)や対人関係療法などの精神療法がおもに効果的であることが実証されている。
 認知行動療法は、認知、つまり人間の情報処理のプロセスに働きかけて、現実に目を向けながら問題解決する力を発揮できるように手助けする、構造化された精神療法である。治療では、現実の問題に直面したときに、問題解決を妨げている認知や行動を明らかにし、それを修正することで問題に対処する力を伸ばしていく。定型的な認知行動療法では、1回40~50分の対面式の面接を十数回繰り返すことで抑うつ症状が軽減されることが実証されているが、近年は、インターネットなどのIC機器を併用することでより簡便な形で効果をあげる簡易型認知行動療法の開発も進んでいる。
 対人関係療法は、対人問題がうつ病性障害の発症と進行に関与するという理解にたって、患者と「重要な他者」(家族・恋人・親友など、その人の情緒にもっとも大きな影響を与える他者)との人間関係上の現実の問題を中心に話し合っていく。なかでも、悲哀、対人関係上の役割をめぐる不和、役割の変化、対人関係の欠如の四つはとくに重要視されている問題領域であり、精神療法の過程ではそのなかから一つか二つの問題領域を選択して問題を解決していく。
 治療を行ってもうつ病が長期化することがあるが、その要因としては次のようなものが考えられる。
(1)治療抵抗性うつ病。
(2)投薬量や治療期間が不十分。
(3)再発を繰り返している。
(4)薬を処方通りに飲んでいない。
(5)双極性障害のうつ病相。
(6)他の精神疾患が併存(治療抵抗性例の75%はパーソナリティー障害、不安障害、物質使用障害などの精神疾患が併存している)。
(7)一般身体疾患の合併や一般身体疾患による気分障害。
[大野 裕]2020年7月21日

©SHOGAKUKAN Inc.

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