軟骨魚綱サメ目に属する魚類の総称。関西地方以南ではフカとよぶことが多いが、とくに大形になるサメだけをフカとよぶこともある。山陰地方ではワニ、ワニザメなどともいう。
サメ類はエイ類とともに軟骨魚類のなかの板鰓(ばんさい)類(亜綱)に属する。板鰓類はサメ目とエイ目からなり、両者は近縁関係にある。しかし、近年、系統分類学的に別の新たな考えが出され、高位の分類は流動的である。この新たな考え方とは、サメ類をいくつかに細分し、おのおのにエイ類と同等の分類学的地位を与えるものである。ここでは従来の分類で説明をする。サメ類とエイ類はもっとも近い関係にあるが、いくつかの点で明確に異なる。そのもっとも大きな相違点は鰓孔(さいこう)の位置で、エイ類では体腹面にあるが、サメ類の鰓孔は体の側面に開口する。サカタザメというサメの名をもつエイや、エイのように扁平(へんぺい)なカスザメなど紛らわしいものもあるが、いずれにしても鰓孔の位置で分類が可能である。
世界に約250種が知られ、日本近海に約100種が分布する。このうち、最大のサメはジンベイザメ(ジンベエザメ)で、約20メートルに達し、魚類のなかで最大の種である。もっとも小さなサメはツノザメ類のある種のもので、せいぜい20センチメートルにしかならない。サメ類の主要な分布域は熱帯や温帯の沿岸や浅海域であるが、外洋、深海、寒海などにも生息域を広げている。河川を上り、淡水湖に侵入するものもいる。
外部形態的には背びれの数(1基または2基)によりサメ類を二分することができる。背びれが1基のものは、トラザメ科の特殊な例を除いて、鰓孔がかならず6対または7対ある。6対の鰓孔をもつものにはラブカChlamydoselachus anguineus、カグラザメHexanchus griseus、7対のものにはエドアブラザメHeptranchias perlo、エビスザメNotorhynchus cepedianusなどがある。これらのサメ類は一般に原始的なサメとされている。ほかのサメはすべて2基の背びれをもち、一つの例外を除き、5対の鰓孔を有する。この例外は南アフリカ沿岸に生息するノコギリザメの一種プリオトレマ属Pliotremaで6対の鰓孔をもつ。したがって前出の原始的なサメ類とプリオトレマ属以外のすべての現生のサメ類は、2基の背びれと5対の鰓孔をもつことになる。これら現生のサメは臀(しり)びれの有無により二分され、臀びれのないものにはツノザメ類、ノコギリザメ類、およびカスザメ類がある。
ツノザメ類は大部分が背びれに強い棘(とげ)をもち、サメ類のなかでももっとも多様に分化した分類群の一つで、多くのものが深海に適応している。ノコギリザメ類は吻(ふん)が長く鋸(のこぎり)状となり、その吻を振り回して小魚を殺したり、長いひげを使って底の餌(えさ)を探し当て、吻でほじくり出して食う習性がある。カスザメ類は体がエイのように扁平で底生生活をする。臀びれのあるサメ類も、背びれに強い棘を有するネコザメ類と、棘をもたないサメに分けられる。ネコザメ類は強い独特な形の顎歯(がくし)を上下両顎にもち、これでサザエの殻などを砕いて肉を食べる。そのためサザエワリの名もある。後者の棘をもたないサメ類には多様な種類が含まれ、尾びれの形で分けると、マグロ形の三日月形の尾びれをもつもの、サメ形の尾びれをもつものに二分される。
三日月形の尾びれを有するサメには、ホホジロザメCarcharodon carcharias、アオザメIsurus oxyrinchus、ジンベイザメRhincodon typus、ウバザメCetorhinus maximusなどがあり、前二者は強い遊泳力をもち、魚やカメを捕食し、ときに人をも襲うので「人食いザメ」として恐れられている。ジンベイザメ、ウバザメはサメ類のなかでもっとも大形になるが、餌はプランクトンである。サメ形の尾びれをもつもののなかで、オナガザメ類は体長と同じくらいの長い尾びれをもち、尾びれを器用に使って小魚の群れを集めて食べるという。ほかのサメ形の尾びれをもったものにはメジロザメ類、シュモクザメ類、トラザメ類、ミズワニ類、テンジクザメ類など多くの種類がある。シュモクザメ類は頭部が左右に大きく突出し、魚類のなかでももっとも奇異な形をしている。メジロザメ類は種類数が多く、ときに人を襲う。トラザメ類は浅海から深海の海底付近に広く分布し、テンジクザメ類は熱帯のサンゴ礁などに生息する。
骨格はすべて軟骨性。頭部にはゼリー状物質の詰まったローレンチーニ器管という感覚器官が多数散在して圧力や振動を感ずるが、近年、磁気をも感知していることが判明した。このローレンチーニ器管による磁気感覚によって、泥の中に潜入している餌を探し出す。さらに地球の磁場を感知し、正確な方向を認知することが知られている。体内には尿素やトリメチルアミンオキシドという物質があって、浸透圧の調整に重要な働きをしているが、これがサメ類のアンモニア臭の原因となる。海水中では体内にナトリウムイオンや塩素イオンが侵入して過剰となるが、これらの排出器官として直腸腺(せん)がある。腸には螺旋(らせん)弁という螺旋構造物があり、腸の吸収面積を拡大している。体表にある鱗(うろこ)は楯鱗(じゅんりん)とよばれ、構造上は歯とまったく同一である。歯は種類によりさまざまな形を呈し、重要な分類形質となる。歯は何回でも抜け落ち、つねに新しい歯がベルトコンベヤー式に内側から補充される。深海性ツノザメ類には発光器がある。
サメ類はすべて体内受精で、このため雄は腹びれ内側に1対の大きな交接器をもつ。卵生種、卵胎生種、胎生種の3型があり、生殖の面ではきわめて多様で、生殖の研究では興味深いグループである。
卵生には単卵生と複卵生があり、前者にはトラザメなどがあって、卵殻に入った卵を1個ずつ次々と産み、卵が母体内にとどまる期間は短い。複卵生は、母体内に卵がとどまる期間が延長し、胚(はい)発生がかなり進んだ状態になるまで母体内で卵が保護される卵生である。受精卵は次々と生産され、子宮に下降してくるので、複数の卵殻卵が子宮に蓄えられる。ナガサキトラザメなどがこれにあたる。母体内にとどまる期間がさらに延長し、母体内で孵化(ふか)し、産み出されるものが卵胎生で、ホシザメなどがある。卵胎生がさらに進むと、自分のもつ卵黄量が減少し、かわりに胎盤が形成され、胚体はへその緒を通して母体から栄養を受ける胎生となる。メジロザメ類、シュモクザメ類などがこれにあたる。特殊な生殖の例として、卵食生がある。これはネズミザメ類、ミズワニ類、オナガザメ類などにみられる生殖方式で、胚はわずかな卵黄しかもたず、自分の卵黄を消費してしまうと、卵巣から次々と下降してくる卵黄物質を子宮の中で飲み込んで成長する。ときには自分の兄弟をも食うことがある。
熱帯地方を中心に、人がサメに襲われる被害がしばしば報告されている。人を襲撃する危険な種としては、ホホジロザメ、アオザメ、イタチザメ、メジロザメ類、シュモクザメ類などがあり、日本南部の沿岸域にも分布し、ごく浅い所にまで侵入することもある。日本でもサメに襲われた例がいくつかあるが、近年では2000年(平成12)9月に沖縄県宮古島で死亡者が出た。オーストラリアではサメに襲われることが多いため、海水浴場にサメ監視人を置いたり、海水浴場を金網で囲んで防衛している。海難などで多くの人が海上に投げ出され、集団でサメに襲撃された例もある。海中でサメの襲撃から逃れる決定的な方法はない。最良の方法は海中から出ることであり、ボートなどがない場合は、浮き袋のついた不透明のビニル袋を備え付けておくと簡便な救命用具となる。ビニル袋を海水で満たし、その中に人が入ると、体温の低下を抑え、サメからは視覚、嗅(きゅう)覚および電気的に遮断されるために効果があるという。
サメ類の肉は食料としても利用され、化学薬品の重要な原料ともなる。深海性ツノザメ類などの肝臓からは多量のスクアレンがとれ、高級化粧品の原料となり、また耐寒性潤滑油などとして多方面で利用されている。軟骨からはコンドロイチン硫酸ナトリウムが抽出され、薬用などに利用されている。
サメの身は脂肪分がきわめて少なく、さくさくして口あたりがあまりよくない。また、肉中に尿素を1~2%含み、これがサメの死後、ウレアーゼという酵素によって急速にアンモニアに分解されるので強いアンモニア臭と、舌を刺す味を生じる。以上のようなことから、直接食用にするためにはよほど新鮮なものでなければならないし、また味もとくにおいしいといったこともないので、主としてかまぼこなどの練り製品の原料として利用される。ごく新鮮なものは刺身に、通常は照焼き、フライ、煮つけなどに利用する。またサメのひれを乾燥したものは魚翅(ユイチー)(ふかのひれ)とよばれ、中国料理に多く用いられる。
『古事記』や『日本書紀』にはワニ(和邇、鰐)と記され、サヒモチの神(佐比持神、鋤持神)ともいう。「サヒ」とは刀剣や鋤(すき)の意で、サメの鋭い歯を畏怖(いふ)し、神格化したものである。『肥前国風土記(ひぜんのくにふどき)』の世田姫(よだひめ)(石神)に通ってくるサメの話や、伊雑宮(いざわのみや)(三重県伊勢(いせ)神宮の別宮)に伝わる「七本鮫」の伝説では、サメは海神の使いとされている。
伊勢・志摩地方では、旧暦の6月25日前後にサメが参宮するとされ、海女(あま)は海に入らずその姿を見た者は死ぬといって「日待ち」をする。これは公休日がなかった時代の休日であり、この日は全員で宮参りをしたという。また、海女が海中でもっとも恐れるのはサメに襲われることで、水中眼鏡などに伊雑宮の小さな木製の御守り札をつけたり、星印の呪符(じゅふ)を作業衣につけたりしてサメよけとする。石川県輪島市舳倉(へぐら)島の海女は、道具に「大」の字を彫ってまじないにする。『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』に、狗奴(くぬ)国の男子はサメの害を防ぐためいれずみをする、と記されているが、よく知られている赤褌(ふんどし)や六尺褌のサメよけの説や、サメは自分より大きなものは襲わないというのは俗信である。
ハワイやタヒチ島では、自由に人間の姿となれるサメ神が、漁師の守護神とされている。ソロモン島ではサメを祖先霊とし、その肉を食べることによって偉大な祖霊をわが身にいただこうとするが、サメには雨を降らしたり地震をおこす能力もあると信じられていた。日本でも、サメを家の守護神とみなす例が沖縄の一部にあり、兵庫県芦屋(あしや)市にはサメを用いて雨乞(あまご)いをする習俗が明治以前にはあった。
サメの歯の化石は山中からも出土しており、えたいが知れないことから「天狗の爪(てんぐのつめ)」とよばれて、社寺の宝物や呪具(じゅぐ)とされた。サメ皮は、日本刀の柄(つか)や鞘(さや)の飾りになくてはならないものであったが、これには滑り止めとしての実用性ばかりでなく、信仰的な意味も込められていた。つまり、古代中国ではサメは蛟(みずち)という竜の一種と思われていたため、神秘的な動物の一片を刀につけることで威厳を示し、呪具としたのであろう。しかし、これらサメ皮とされていたもののほとんどがエイ類の皮であった。またサメの肉の干物は『延喜式(えんぎしき)』にもみえ、伊勢地方では「サメのタレ」とよんで、伊勢神宮の神饌(しんせん)の一つにもなっている。かつてはこれを結納や婚礼の際に用いた記録もあり、サメは安産であるとの俗信から、その卵殻を安産の御守りにすることもあった。