日本大百科全書(ニッポニカ)

高血圧症
こうけつあつしょう

動脈の血圧が正常範囲を超えて高くなった状態を高血圧といい、この状態が持続しているものを高血圧症とよぶ。血圧とは血流が血管壁に与える圧力のことで、心臓が収縮して血液を送り出すときに最大となり、これを最大血圧あるいは収縮期血圧という。また心臓と大動脈の間にある大動脈弁が閉じて心臓から送り出される血液が止まったときに血圧は最小となり、これを最小血圧あるいは拡張期血圧という。これらの血圧は聴診法または上腕式自動血圧計によって測定される。

[阿部 裕]2020年8月20日

高血圧の基準

世界保健機関(WHO)で定めた基準がもっともよく用いられている。これによると、血圧降下薬(降圧剤)を投与されていない状態で、収縮期血圧140ミリメートル水銀柱(mmHg)以上および拡張期血圧90mmHg以上のいずれか一方、または両者とも当てはまる場合を高血圧と定めている。しかし、血圧は人種、性別、年齢によっても異なり、一般に女性より男性のほうが高く、年齢とともに高くなる傾向がある。さらに同一個人においても変動がみられ、1日のうちでは睡眠中がもっとも低く、季節では夏よりも冬のほうが高くなる傾向がある。そのほかにも血圧に影響を与える要因が多くあり、精神的ストレスをはじめ、寒さ、運動などがあげられる。

[阿部 裕]2020年8月20日

診断

血圧はたいへん変わりやすいものであり、著しい高血圧の場合を除き、普通は何度か血圧測定を行い、つねに血圧の高い場合に初めて高血圧症と診断される。頭痛、めまい、肩こりなどの症状によって高血圧が発見されることもあるが、中等度以下の高血圧では症状の現れることは少なく、健康診断や他の病気で受診したとき、高血圧がみつかることも多い。

[阿部 裕]2020年8月20日

分類

高血圧症と診断された場合、高血圧の原因となる病気の有無を調べることが必要である。高血圧症の原因となる病気がはっきりとわかるものを二次性高血圧症という。これに対して原因の不明なものを本態性高血圧症といい、大部分のものがこれに属する。二次性高血圧症は少なくとも全高血圧患者の10%以上にのぼると考えられるが、とくに若年者で急に高血圧症になった場合は、原因となる病気がないかを注意深く調べる必要がある。

 高血圧症をおこす病気は、次の三つに大別される。

(1)内分泌異常によるもの 代表的なものとして副腎(ふくじん)皮質ホルモンの分泌過剰により肥満を伴うクッシング症候群、副腎皮質からのアルドステロンの過剰分泌をきたす原発性アルドステロン症、副腎腫瘍(しゅよう)から交感神経を刺激するカテコールアミンが過剰に分泌される褐色細胞腫、バセドウ病の名で知られる甲状腺(せん)ホルモンの分泌過剰をきたす甲状腺機能亢進(こうしん)症などがあげられる。

(2)腎臓病によるもの 慢性腎炎のほか、腎動脈が狭窄(きょうさく)する腎血管性高血圧症などがある。

(3)その他 動脈が炎症をおこして狭窄し、脈なし病ともよばれる大動脈炎症候群も高血圧症をおこすことがある。

 本態性高血圧症の原因はいまだ明らかではないが、遺伝、食塩摂取量、肥満、血圧を調節する種々のホルモンなどが関与していることがわかってきており、これらの因子が絡み合って本態性高血圧症の原因となっていると考えられている。

 なお、高血圧症のなかで特殊なものとして加速型‐悪性高血圧とよばれるものがある。これは、拡張期血圧が130mmHg以上(場合によっては120mmHg以上)となり、急激な腎機能の低下がみられ、治療を行わないと死亡するもっとも危険な高血圧症の一つである。

[阿部 裕]2020年8月20日

合併症

高血圧症は全身の動脈硬化を促進し、種々の臓器に障害を与える。したがってさまざまな疾患のリスクファクター(危険因子)として重要視されている。なかでも重要なものは、脳、心臓、腎臓の合併症である。

 脳では動脈硬化のために脳の血管が詰まりやすくなったり、もろくなって、脳卒中がおこりやすくなる。心臓では心筋に栄養を補給する冠動脈に動脈硬化がおこり、心筋梗塞(こうそく)や狭心症を引き起こす。また、血液を強い力で送り出さなければならないため心臓に過剰な負担をかけ、全身に十分な血液を送れなくなる心不全の状態が生じる。腎臓では腎機能が徐々に低下し、血液中の老廃物を尿中に十分に排泄(はいせつ)できない腎不全の状態になることがある。すなわち高血圧症では、血圧が高いことそのものよりも、むしろこのような重要臓器に障害をきたすことが問題となる。

 脳、心臓、腎臓など重要臓器の障害を最小限に抑制することが高血圧症の治療目的であり、治療にあたってはこれらの臓器合併症の診断をまず行っておくことが必要である。そのための検査としては、はじめに目の網膜の動脈硬化や高血圧による変化の程度を眼底検査によって調べ、脳の動脈硬化を推定するデータを得る。心臓は胸部X線撮影や心電図、腎臓は尿検査や血液検査を行うことによってデータを得る。

[阿部 裕]2020年8月20日

治療

食事療法および一般療法と降圧剤療法に大別される。食事療法および一般療法だけでは十分な降圧の得られないことも多いが、降圧剤療法と併用すると降圧剤の効果を増強させ、そのために降圧剤の投与量や副作用を減少させることができる。食事療法では食塩の摂取量がもっとも重要である。たとえば食塩摂取量の多い秋田県地方では高血圧症の発症率が高く、一方、食塩摂取量の非常に少ないエスキモーには高血圧症はみられない。また食塩制限は、ある種の降圧剤の効果を増強する作用もあるので、本態性高血圧症患者は原則的に食塩制限を行う必要がある。さらに肥満者に高血圧症が多いこともわかっており、肥満者は標準体重近くまで減量するように摂取エネルギー量を制限する必要がある。

 一般療法としては、適度の運動のほか、喫煙やアルコールの制限などがあげられる。

 降圧剤療法は、食事療法や一般療法を行い血圧を何度か測定し降圧のみられないような患者に開始するのが一般的であるが、収縮期血圧180mmHg以上、拡張期血圧110mmHg以上のような高リスクの高血圧ではただちに降圧剤を投与することもある。降圧の目標をどの程度において降圧剤を服用するかは、合併症の程度や年齢などによって異なる。軽症の高血圧症の場合では季節によって降圧剤が不要となるようなこともあるが、多くは続けて服用することが必要で、不規則な服用をすると、かえって血圧を上げることにもなる。

 降圧剤の種類としては、降圧利尿剤、交感神経抑制剤、血管拡張剤や、体内でもっとも強い血管収縮物質の一つであるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する薬(ACE阻害剤)、このアンジオテンシンⅡの結合を阻止して血管の収縮作用が現れないようにする薬(ARB)などがあげられる。

[阿部 裕]2020年8月20日

予後

高血圧症は適切な血圧のコントロールを行えば、けっして予後の悪い病気ではない。しかし、高血圧そのものによる自覚症状がほとんどないために軽視されがちで、高血圧であることを知っていても十分な治療を受けない場合が多い。脳、心臓、腎臓などの重要臓器に障害が現れてからでは、その障害を治癒させることは困難である。したがって、臓器合併症の出現する以前に治療を開始し、根気よく治療を行うことが重要であり、適切な血圧のコントロールを行えば、健康な人と変わらない生活を送ることが可能である。

[阿部 裕]2020年8月20日

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