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日本大百科全書(ニッポニカ)

箱根

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箱根
はこね

伊豆半島の基部に位置し、神奈川県南西部から静岡県東端にかけて広がり、中心部は神奈川県足柄下(あしがらしも)郡箱根町に属する。世界の複式火山の典型で、山と湖、渓谷と深い緑の景観に富み、温泉の湧出(ゆうしゅつ)が多く、富士箱根伊豆国立公園の中核部をなしている。歴史上、古代から山岳信仰の霊地、日光と並ぶ修験道(しゅげんどう)の行場(ぎょうば)とされ、また東海道が通って、それらにちなむ史跡が数多く残されている。外国人の日本研究の拠点にもされ、国際観光地として内外によく知られている。

[浅香幸雄]

自然

箱根の中心の箱根山は三重式火山で、新旧二重の外輪山と七つの中央火口丘からなっている。古期外輪山は、塔ノ峰(とうのみね)、明星ヶ岳(みょうじょうがたけ)、明神ヶ岳、金時山(きんときざん)、丸岳、三国(みくに)山、山伏峠、鞍掛(くらかけ)山、大観山(だいかんざん)、白銀(はくぎん)山などを連ねる環状の山嶺(さんれい)で、内側は急斜面でカルデラ底に臨んでいる。カルデラは南北約12キロメートル、東西約8キロメートル。その内部の、碓氷(うすい)峠、浅間(せんげん)山、鷹巣(たかのす)山、屏風(びょうぶ)山を連ねる半円形の山嶺が新期外輪山である。中央火口丘の小塚(こつか)山、台ヶ岳、神(かみ)山、駒ヶ岳(こまがたけ)、上二子(かみふたご)山、下二子山、丸山の七つが、西側を古期外輪山、東側を新期外輪山で囲まれた新しいカルデラ内にそびえる。中央火口丘のうち、神山は1438メートル(箱根火山の最高峰)で成層火山であるが、著しく侵食されて険しい地形をなし、北東斜面の中腹に大涌谷(おおわくだに)や早雲地獄の硫気孔がある。これに対しほかの諸山は、溶岩円頂丘(トロイデ)で、原形に近いドーム形をなしている。中央火口丘と古期外輪山の西部との間に芦ノ湖(あしのこ)(火口原湖)や仙石原(せんごくはら)(火口原湖に砂・土が堆積(たいせき)した火口原)があり、湖の水は早川(はやかわ)(火口瀬(らい))となり、古期外輪山の脚部を侵食して相模(さがみ)湾に注ぐ。また新期外輪山の南東斜面の水を集める須雲(すくも)川は湯本で早川に合流する。

 箱根火山の基盤は、第三紀中新世の火山噴出物の層で、その上に第四紀更新世(洪積世)中期から末期にかけて3回の活動によって火山が形成されている。第一期の活動は輝石安山岩の溶岩を噴出して成層火山をつくったが(この噴出物が古期外輪山を構成)、その成長の途中に成層火山の中心を通る北西―南東方向の断層(金時山幕(まく)山構造線)ができて火山体を二分した。この活動の終了後に、火山体の中央が陥没して第一期のカルデラができた。のち第二期の活動がおこり、おもに溶岩が噴出して傾斜の緩い楯状(たてじょう)火山ができ(浅間山、鷹巣山などの新期外輪山の外側の台地状山地)、こののちにまたカルデラの陥没があって新期外輪山ができた。最後に第三期の活動がおこり、第一期の活動中におこった断層を中心に現在の中央火口丘がつくられた。そして、神山の北西部が崩れて大涌谷や早雲山の硫気孔ができた。またその崩壊物が泥流となって流出し、早川の上流をせき止めて芦ノ湖となり、神山の溶岩流が北に流れて、俵石(ひょうせき)付近で早川をせき止めてできた火口原湖に砂や粘土が堆積したのが仙石原である。

 こうした火山性山地の箱根の気候は、内陸型中山性で、年平均気温は12℃、年降水量は2700~3300ミリメートルで、小田原(湘南(しょうなん)型)に比べて4~5℃低温、100~500ミリメートル多雨で、冬は降雪が少なくない。したがって植生は、低山部が落葉広葉樹のハンノキ、ヤチダモ林、中央火口丘がブナ、ミズナラ林、その山頂の風当りの強い地区では、オノエラン、ハコネコメツツジなどの風衝(ふうしょう)草、風衝矮(わい)性低木林となり、二子山頂のそれらは県指定天然記念物である。箱根は野鳥の宝庫といわれ、多種多様の生息をみるが、芦ノ湖へ晩秋から冬季に渡来するオシドリ、夏鳥のオオジシギ、イソシギは学術上も価値の高いものとされている。

[浅香幸雄]

歴史

箱根の中央にそびえる中央火口丘の神山、駒ヶ岳は、その秀麗な姿と登山の険しさで、古くから神秘感を与えていた。奈良時代に万巻上人(まんがんしょうにん)が入山してからは、ここは日光とともに、関東における山岳信仰の霊場、修験道の行場となった。箱根三所権現(ごんげん)(箱根寺、現、箱根神社)は雨乞(あまご)いの霊験や竜神伝説で広く信仰を集め、また戦勝の神として、源頼朝(よりとも)など中世・近世の将軍・諸大名の祈願所となっていた。その神領は、中央火口丘の両山をはじめ、地獄山(大涌谷、早雲山)、姥子温泉(うばこおんせん)、芦ノ湖、門前集落元(もと)箱根にわたる広大なものであった。

 箱根はまた、東海地方から関東地方へ入る入口にあたり、その歴史には交通にちなむものが多い。東海から相模へ入るには、ごく古くは乙女峠―仙石原―明神ヶ岳―坂本(南足柄市関本)の碓氷道(みち)が使われていたようである。ついで律令(りつりょう)時代には北の足柄峠(759メートル)越えの足柄道が使われるようになった。平安時代初期に富士山が噴火し、足柄峠がその噴出物で埋まったため碓氷道が再開され、箱根峠越えの箱根道も開かれた。のち足柄道の復旧後は、碓氷、足柄の両道がもっぱら使われることになり、平安後期には警備が厳重になり、足柄、碓氷の両関では通行証が調べられるようになった。

 鎌倉幕府開府後は、箱根道―小田原―相模湾岸の東海道がよく使われるようになり、室町時代にかけての箱根山内の本道は、箱根峠―芦ノ湖畔―鷹巣山―浅間山―湯坂―湯本の尾根道を加えたコースで、また駿河(するが)国(静岡県)からの別道として湖尻(こじり)峠―芦ノ湖東岸―元箱根の道も使われていた。1590年(天正18)の豊臣秀吉(とよとみひでよし)の小田原城攻めには、この尾根道沿いで攻防戦が繰り広げられた。

 江戸時代初頭には箱根道が東海道の本道となり、芦ノ湖畔から二子山南麓(なんろく)を須雲川沿いに湯本茶屋へ下るルートに改められた。そして石畳(いしだたみ)道づくりが進められ、両側に並木(スギ、マツ)が植えられ、一里ごとに一里塚(湯本茶屋、畑宿(はたじゅく)、元箱根)が築かれた。当初は小田原―三島(みしま)両宿間を1日で越していたが、1618年(元和4)に芦ノ湖の南東岸に箱根宿が設けられ、その北はずれの屏風山の山脚が湖岸に迫る狭隘(きょうあい)な要害地に箱根関が設けられた。また、東海道の道筋が温泉を避けて通じているのは、参勤交代の諸大名が謀議するのを警戒してのことといわれる。大名行列や雲助についてはいまもよく語られ、箱根馬子唄(まごうた)や長持(ながもち)唄はここの代表的民謡となっている。江戸時代の箱根に見逃せないのは、芦ノ湖の水利権が、外輪山西斜面の深良(ふから)用水組合(静岡県裾野(すその)市)に帰属することになったことで、これは現在も続いている。

[浅香幸雄]

観光

箱根の観光は温泉観光ともいえる。古くは箱根七湯(湯本、塔ノ沢、宮ノ下、堂ヶ島、底倉(そこくら)、木賀(きが)、芦ノ湯)での湯治に始まり、明治以後に開発された小涌谷、湯ノ花沢、大平台(おおひらだい)と、大涌谷、早雲地獄などの硫気孔から引き湯をしている仙石原、強羅(ごうら)などを加えて箱根温泉郷(箱根二十一湯)といっている。

 箱根が温泉観光地として近代的に開発されたのは大正の終わりごろからである。しかしこれより以前、1887年(明治20)には宮ノ下の富士屋ホテルが神奈川県の補助を得て湯本から人力車道をつくり、1895年には宮ノ下に御用邸ができて別荘設置熱を刺激していた。しかし当時は、箱根の全温泉旅館数は40軒にすぎず、仙石原、強羅などは未開発のままであった。のち1919年(大正8)には湯本―強羅間に登山電車(小田原馬車鉄道。箱根登山鉄道の前身)が開通し、まもなく仙石原ゴルフ場が設けられた。1927年(昭和2)には、東京の新宿―小田原間に小田原急行(現、小田急電鉄)が全通し、箱根の観光利用をいっそう便利にした。その後、東京の西武、東急その他の大手観光企業によるケーブルカー、ロープウェー、湖上遊覧船、ゴルフ場、レジャーランド、外輪山嶺線を走るスカイライン有料道路などが次々に建設され、箱根の観光施設は充実していった。箱根にはもともと史跡や文化財が多いうえに、ゴルフ場、スケート場、テニスコートなどのスポーツや教養の施設が多くつくられている。箱根旧街道(石畳道)、元箱根の石仏群(付近に伝曽我(そが)兄弟墓―石の五輪塔、伝多田満仲(みつなか)墓―石の宝篋印塔(ほうきょういんとう))、箱根関跡はともに国指定史跡、仙石原の湿原植物群落は国指定天然記念物、箱根神社裏のヒメシャラの純林は県指定天然記念物である。また仙石原と宮城野(みやぎの)の両諏訪(すわ)神社の湯立獅子舞(ゆだてししまい)は選択無形民俗文化財、また、7月31日から始まる芦ノ湖の湖水祭(竜神祭)とそれに出演する箱根囃子(ばやし)、明星ヶ岳の大文字焼、大名行列などは貴重な民俗芸能として知られる。早雲寺と箱根神社は、絵画、彫刻、刀剣などの国・県指定文化財を多く蔵している。文化施設には、箱根美術館、強羅公園、箱根湿生花園、彫刻の森美術館、ポーラ美術館などがある。

[浅香幸雄]

©SHOGAKUKAN Inc.

メディア

箱根宿(明治時代)

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