河川によって運ばれた砂泥が、湖沼や海などの静水域に堆積(たいせき)して形成された地形。デルタともよばれるが、これは、エジプトのナイル川の河口の州(す)が、ギリシア文字のΔ(デルタ)に似た平面形をしていることに由来する。
[豊島吉則]
三角州の平面形や断面形は、河川によって運搬されてくる砂や泥の量と、波や沿岸流の強さの相互作用によって決定される。内海性の波の弱い海岸(低エネルギー海岸)に大河川が流入するような場所では、三角州上の河川は、大量の土砂を沖合い遠くまで運んで沈積する。河川が分岐していると、それぞれの河川沖に三角州が延びて、鳥趾(ちょうし)状三角州をつくる。このような三角州の縦断面は著しく緩やかである。外洋性の波浪が強く、沿岸流の卓越する海岸(高エネルギー海岸)では、河川の運んできた砂や泥の自由な堆積を妨げるため、三角州が十分に発達しないか、また、河口付近がわずかに突出するカスプ状三角州(尖(せん)状三角州)がみられるにすぎない。このような三角州の縦断面形は、海底部分がとくに急傾斜となっている場合が多い。
[豊島吉則]
三角州は一般に海面すれすれの水準にあるため、きわめて低湿で、しかも勾配(こうばい)が緩やかで、河川は分岐しつつ蛇行している。河川の両側には、自然堤防とよばれる土砂堆積の高まりがみられる。この微高地の間には、後背湿地とよばれる湿地・沼・三日月湖・潟湖(せきこ)などの占有する広大な低湿地がみられる。また、冷涼な地方では、泥炭地が広く分布している場合が多い。海岸線付近には、砂州や砂丘がみられる。洪水時に自然堤防が破堤すると、その切断箇所から新たなデルタがつくられたり、低湿地に粘土が堆積したりする。
[豊島吉則]
三角州は、シルト(泥)や粘土からなる底置層、砂の卓越する前置層、および細粒の砂やシルトからなる頂置層からなる。河口より沖合いの三角州前縁部にはやや急な前置斜面があり、その沖の海底には平坦(へいたん)な底置斜面が認められる。海岸地帯の三角州は、完新世(沖積世)の海進・海退の影響を受け、貝殻片混じりの海底層や河成の地層の互層からなることが多い。
[豊島吉則]
平面形から三角州を分類すると、四つに大別される。(1)アメリカ合衆国のミシシッピ川の河口にみられるような鳥趾状三角州、(2)イタリアのテベレ川の河口にみられるカスプ状(尖状)三角州、(3)エジプトのナイル川河口部に代表される円弧状三角州、(4)フランスのセーヌ川やイギリスのテムズ川河口にみられる、ラッパ状の幅広い入り江状地形に形成される三角江三角州、などである。また、三角州が隆起したものは隆起三角州、海面下に沈降したものは沈水三角州とよばれる。
[豊島吉則]
信濃(しなの)川(新潟県)、江戸川(東京都・千葉県)、木曽(きそ)川(三重県ほか)、淀(よど)川(大阪府)、筑後(ちくご)川(福岡県)などの大河川の下流部には、広い三角州が形成されている。東京、大阪、名古屋などの大都市は、これら諸河川のデルタ上に立地している。木曽川下流には、集落ごとに洪水を防ぐ輪中(わじゅう)堤防(リング状堤防)が発達する。また、筑後川下流には、排水や水利用のクリーク(溝・水路)に代表される水郷景観がみられる。しかし、急流河川の多い日本では、粗粒な砂礫(されき)が河口部にまで供給されるため、扇状地状デルタとよぶ扇状地に類似した乾燥土性の三角州が発達することが多い。天竜川(静岡県ほか)、大井川(静岡県)、常願寺川(富山県)などの下流平野は、このような型の地形である。
[豊島吉則]
洪水のたびごとに三角州の上に河川によって運搬されて沈積する肥沃(ひよく)な土は、農業の発展の大きな原動力となった。そのため、ナイル川三角州や西アジアのティグリス・ユーフラテス三角州は、古くから優れた農業地帯であり、輝かしい文明の発祥の地ともなってきた。日本においても、水田農業が三角州上に発達し、多くの農業人口を支えてきた。とくに、河口付近の浅海の三角州は、近世以降の干拓や、明治以降の埋立てによって陸化され、陸上の交通機関、水路・港の整備によって、農業のみならず、商工業の充実を招き、都市化するに至っている。
他方、土地が低湿で、洪水の害や高潮の害を受けやすいことや、地盤が軟弱で、地下水の過剰揚水を原因とする地盤沈下などが懸念される問題である。
[豊島吉則]