健康保険(健保(けんぽ))などの被用者保険適用外の、自営業者などを対象とする医療保険。略称は国保(こくほ)。
2020年11月13日
日中戦争が拡大するなかで、戦時体制下の健民健兵策としても医療保険の役割が注目され、旧厚生省が創設された1938年(昭和13)に、農山漁村の住民や都市の自営業者などを対象として、任意設立、任意加入、組合方式に基づく国民健康保険法が制定された。第二次世界大戦後、国保制度を再建するために、1948年(昭和23)の改正で市町村公営を原則とする任意設立、強制加入方式に改められた。1958年には、国保制度の実施をすべての市町村に義務づける新しい国民健康保険法が制定され、1961年の全面実施により、国民皆保険が実現した。医療給付の範囲は健保と同一、当初の自己負担率は健保の被扶養者と同じ5割であった。高度経済成長期には給付改善が行われ、1963年に世帯主3割負担、1968年に世帯員3割負担が完全実施され、1973年から1975年にかけて高額療養費支給制度が実施された。その後、老人医療費の無料化、高齢化の進展、経済の停滞などにより国保財政は危機的な状況に直面したが、1982年の老人保健法の制定や1984年の退職者医療制度の導入などを経て、2006年(平成18)改正による高齢者医療制度の導入などによって制度間調整が強化されてきた。
2020年11月13日
2015年には、公費の拡充等により財政基盤を強化するとともに、財政運営等において都道府県に新たな役割を求め、国保制度の安定化を図る国保制度始まって以来といわれる大改正が行われた。
財政基盤の強化に関しては、2015年度から低所得者対策として保険者支援制度の拡充を行い、2018年度からは、保険者努力支援制度の創設、国による財政調整機能の強化、自治体の責めによらない要因による医療費増や負担への対応、医療費適正化に向けた取組み等に対する支援、財政安定化基金による財政リスクの分散・軽減等を実施している。
財政運営に関しては、2018年度から都道府県が国保の財政運営の責任主体となり、安定的な財政運営や効率的な事業運営の確保等、国保運営について中心的な役割を担っている。具体的には、都道府県は、市町村が保険給付に要した費用を全額市町村に対して交付するとともに、市町村から国保事業費納付金を徴収し、財政収支の全体を管理する。さらに、都道府県は、都道府県内の統一的な国民健康保険の運営方針を定め、市町村事務の効率化・広域化等の促進を実施する。一方、市町村は、保険料の徴収、資格管理・保険給付の決定、保健事業など、地域におけるきめ細かい事業を引き続き担っている。
2020年11月13日
国保の保険者(運営主体)は、原則として都道府県および市町村(特別区を含む)であるが、そのほかに同種の事業または業務に従事する者300人以上の集団で全国一本または都道府県別に設立される国民健康保険組合(国保組合)がある。おもな業種は、医師、歯科医師、薬剤師、食品販売業、土木建築業、理容美容業、弁護士などであるが、都道府県および市町村の国民健康保険への影響に配慮して、新設は原則として認めないこととされている。被保険者は、当該都道府県内に住所を有する者のうち、被用者保険の被保険者と被扶養者、生活保護法による保護を受けている世帯に属する者、国保組合の被保険者、後期高齢者医療制度の被保険者などを除く者である。なお、国保の適用者については、被保険者と被扶養者の区別はなく、世帯主および世帯員ともに被保険者である。
2020年11月13日
(1)療養の給付 自己負担率は、被保険者および被扶養者ともに、70~75歳未満2割(現役並み所得者3割)、義務教育就学後~70歳未満3割、義務教育就学前2割。
(2)入院時の食事療養費 平均的な家計における食費(食材費+調理コスト相当額)を勘案して定められ1食460円であるが、指定難病患者・低所得者については軽減措置がある。
(3)入院時生活療養費 医療と介護および入院と在宅療養の負担の公平化を図る観点から、療養病床に入院する65歳以上の者について自己負担を求めるもので、標準負担額は平均的な家計における食費と居住費の状況等を勘案して定められ、1日につき1750円であるが、指定難病患者・低所得者に対する軽減措置、病状等によって入院時食事療養費と同額の負担とする軽減措置がある。
(4)訪問看護療養費・家族訪問看護療養費 自己負担率は一般の医療と同じ。
(5)保険外併用療養費 差額病床などの患者の選択・同意による選定療養、先進医療など将来的な保険導入のための評価を行う評価療養、先進医療であって患者の申し出によって行われる患者申出療養については、基礎的部分が保険外併用療養費として保険給付される。
(6)高額療養費支給制度 1か月の自己負担額が一定額を超えた場合、超過額が償還される。
(7)高額介護合算療養費支給制度 医療保険と介護保険の1年間の自己負担の合計額が一定額を超えた場合、超過額が償還される。
2020年11月13日
国保では、移送費の支給が法定給付とされている。出産および死亡に対しては、出産育児一時金、葬祭費(埋葬料)の支給を行うこととされているが、財政事情など特別の事情があるときは行わなくてよい。現状では、出産育児一時金はすべての保険者が実施し、支給額もほとんどが健保と同程度の額となっている。葬祭費の支給もほとんどの保険者が実施しているが、支給額は5万円以下が多い。その他の現金給付はすべて任意給付で、市町村国保において、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)に感染した被用者について特例的に傷病手当金を実施している以外には、その他の傷病手当金や出産手当金を実施している保険者は皆無であるが、国保組合には傷病手当金を実施している保険者がある。
2020年11月13日
国民健康保険の保険者は、世帯主から保険料を徴収する。保険料のかわりに地方税法に基づき保険税を徴収することができる。両者の比較では、徴収時効の相違(保険料2年、保険税5年)など多少の違いはあるが、実質的な相違はない。
保険料・税の賦課方式には、4方式(所得割、資産割、被保険者均等割、世帯平等割)、3方式(所得割、被保険者均等割、世帯平等割)、2方式(所得割、被保険者均等割)の三つの方式があり、どの方式を採用するかは保険者の裁量にゆだねられている。低所得者については、被保険者均等割額および世帯平等割額の軽減措置がある。都道府県および市町村国保では、年齢構成が高く医療費水準が高い、低所得者が多い、小規模保険者が多いなどの構造的問題を抱えているため、前期高齢者医療制度の制度間調整による前期高齢者交付金のほか、給付費の50%の公費負担に加えて、保険料負担の軽減を図るため各種の公費負担が行われている。国保組合に対する国庫補助には定率補助と組合の財政力等に応じた補助があり、定率補助は組合の所得水準に応じて13%から32%、組合の財政力格差を調整する調整補助金は15.4%以内である。
2020年11月13日